石塚しのぶ氏の新刊『未来企業は共に夢を見る』を読んで

2013年4月28日

2009年に『ザッポスの軌跡』を上梓、
私が発行人を務める月刊『アイ・エム・プレス』誌上でも
これまでに何度となく米国のネットビジネス事情を連載してくださった、
米国・ロサンゼルスに本拠を構えるダイナ・サーチ、インク代表の石塚しのぶさんが、この3月に新刊を上梓された。

タイトルは、『未来企業は共に夢を見る ~コア・バリュー経営~』
「未来企業」とは、「社内の誰もが自律の精神をもち、
会社の目的の達成に向けて自ら考え、日々、価値創造している企業」のこと。
そして「コア・バリュー」とは、「会社の中で働く人たちに共有してもらうために、
会社が戦略的に定める中核的価値観」を意味する。
月刊『アイ・エム・プレス』では、本書の発行に先駆け、
2012年9月号で「ソーシャル時代の戦略的企業文化論」と題した特集を
ダイナ・サーチ、および石塚さんとのコラボレーションにより展開。
米国のコンテイナー・ストア社とメソッド社の事例をご提供いただくと同時に、
「戦略的企業文化:実践へのロードマップ」と題した原稿をご執筆いただいた。
言ってみれば、本書が副題に掲げるコア・バリュー経営とは、
この戦略的企業文化を築くための方法論と言えるだろう。
こうした戦略的企業文化が求められるようになっている背景としては、
①世界的な不況の長期化や、米国では9.11、日本では3.11をきっかけに、
人々の社会の一員としての意識が高まっていること、
②モノや情報の充足、さらにはソーシャルメディアの普及などにより、
顧客のパワーがこれまでにないほど強くなっていること、
③経済のサービス化が進展する中で、従来からのモノに代わって、
カスタマー・エクスペリエンスが競争優位性を築くカギとなっていること、
④複雑化し、スピードが求められる昨今の企業経営においては、
従来型の経営者を頂点とする縦型の組織では、
変化への対応が困難になってきていることなどが挙げられよう。
さて本書は、石塚さんが未来企業と位置付ける米国企業4社の事例と、
「マズローの欲求段階説」を企業経営に適用した
「ピーク経営」を提唱するチップ・コンリー氏の考え方を交えて、
未来企業とはどのような企業なのかを紹介する第1部、
戦略的企業文化の構築方法を紹介する第2章、
そして、本書のサブタイトルに謳われたコア・バリュー経営の
具体的な方法論を紹介する第3部から構成されている。
第1部での紹介企業は、ベリル・カンパニー、
ラックスペース・ホスティング、パタゴニア、ザッポスの4社。
各社の概要と未来企業としての選定理由は、次の通りである。
①医療機関向けのコールセンター・サービスを提供するベリル・カンパニーは、
「思いやり」を軸にした企業文化を構築している。
②クラウド・サービス事業者であるラックスペース・ホスティングは、
顧客はもちろん、従業員に対しても熱狂的なサポートを提供している。
③アウトドア・ウェアの製造・販売で日本でもおなじみのパタゴニアは、
ビジネスを通して環境問題の解決に挑んでいる。
④靴をはじめ、さまざまな生活関連商品をネット販売するザッポスは、
コア・バリュー経営のお手本とも言える企業である。
冒頭で述べたように、従来からのビジネスの仕組みが限界を来たし、
新たな時代に対応したビジネスのあり方が模索されている昨今、
本書には、特定の部門や活動などの“部分最適”ではなく、
企業を取り巻く利害集団との関係性を踏まえた全体最適を実現するための、
ひとつの“解”が潜んでいる。
その意味では、本書の主題である『未来企業は共に夢を見る』の“共に”は、
経営者と顧客のみならず、従業員であり、株主であり、地域社会でもある。
しかもそれは、第2部のタイトルである「100年続く会社をつくる」に象徴されるように、
短期的な視点ではなく、長期に渡ってビジネスを継続することを見据えている。
石塚さんの前著である『ザッポスの軌跡』に興味を持たれた方はもちろん、
顧客接点の開発・運用に携わるマーケティングや顧客サービスのご担当者、
従業員の採用・マネジメントに携わる人事部門や管理職の方々、
そして誰よりも、変化する環境下での企業経営のありようを模索されている
経営者の方々にお読みいただきたい一冊である。
なお、月刊『アイ・エム・プレス』では、
この4月の来日時に石塚さんへの独占インタビューを断行。
本書を執筆するに至った動機や、
本書を通じて氏が日本の読者に伝えたかったキーメッセージ、
そして日本企業が留意すべき点などについて、約1時間に渡りお話をお伺いした。
インタビューの模様は、この5月25日に発行される
月刊『アイ・エム・プレス』6月号に掲載される。