石塚しのぶさんの新刊『コア・バリュー・リーダーシップ』出版記念セミナーに参加して

2019年8月14日
去る2019年8月7日、米国・カリフォルニア州はロサンゼルスに本拠地を置く日米間をつなぐビジネス・コンサルティング会社ダイナサーチ、インク 代表の石塚しのぶさんの新刊『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズグループ)の出版記念セミナーに参加してきました。石塚さんと言えば、私が発行人を担ってきた月刊『アイ・エム・プレス』のインタビューや原稿執筆に何度となくご協力いただいた方。著書である『ザッポスの奇跡 改訂版~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)は、読まれた方も多いのではないでしょうか。

2019年5月に発行された『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)は、石塚さんの近著の集大成とも言える
2019年5月に発行された『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)は、石塚さんの近著の集大成とも言える

今回のセミナーは、まず初めに石塚さんが、「コア・バリュー経営」(※1)と新刊の概要について1時間を掛けて紹介されたのに続いて、「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイング 代表取締役 井手直行さんがコア・バリュー経営の実践者側の立場から30分ほどプレゼンテーション。お二人の講演終了後は30分間のQ&Aを経て、有志の参加による懇親会が開催されました。私は全プログラムに参加させていただいたのですが、カジュアルでハートウォーミングな雰囲気の中、講師はもちろん他の参加者と共に、楽しく有意義な時間を過ごすことができました。

石塚さんのご講演では、まずは自己紹介に引き続き、今日に至る経緯を紹介されました。ある時、ザッポスのCEOであるトニー・シェイのセミナーを聴いて、コア・バリューを重用するザッポスという会社に興味を持ち、これを日本に紹介しようと執筆やセミナーなどの活動を開始。その後、“大きくなること”ではなく“偉大な会社になること”を目指す米国の「スモール・ジャイアンツ」に遭遇。実際に多くの企業を取材する中で、彼らの社員エンゲージメント(※2)の高さを目の当たりにすると共に、その背景にコア・バリューがあることに気づいたそうです。

続いて石塚さんは、こうしたムーブメントの背景にはネット革命があるとして、これに伴う市場構造の大変革に言及されました。米国では2018年に「Amazon Effect」により、大きなチェーンだけでも8,700店舗が閉店に至ったとか。Amazon以外に目を向けても、ネット上にはAirbnb、Uberなどシェアリング・エコノミーのプラットフォームが次々に構築され、ホテルやタクシーなど既存の産業に足下から打撃を与えているとのこと。米国では現在、15~16%の商品がネットで販売されているが、この数値は早晩、20%を超えていくだろうと言われていました。

また、市場の大変革のもうひとつの側面として、石塚さんがかねてより指摘されている“ソーシャルの時代”というトレンドにも言及。最近、米国で注目を集めているAmazonとは異なるもうひとつの注目の動きとして、自社でソーシャルメディアなどを活用してブランドを開発するマイクロブランディングを挙げると共にその概要を説明されました。マイクロブランドの開発に当たっては、コミュニティの存在が欠かせないことから、コミュニティブランドとも呼ばれているそうです。

市場の大変革の3つ目の側面としては、“生活者主体の社会の進展”にフォーカス。生活者のパワーの増大は顧客のみならず従業員にも及んでおり、従業員による“会社離れ”が深刻化していると警鐘を鳴らされました。石塚さんによると、「新卒社員の1/3が転職する」という調査結果もあるとか。こうした中で、組織のリーダーにはいかに企業の魅力を高めていくかが、これまでにも増して重要になってきているとのことでした。

去る2019年8月7日に開催された出版記念セミナーの模様
去る2019年8月7日に開催された出版記念セミナーの模様

後半では、米国で導入が進む「コア・バリュー経営」について事例を交えて紹介すると同時に、「コア・バリュー経営」を率先し、主導する「コア・バリュー・リーダー」の重要性に言及されました。魅力ある企業になるためには、組織改革や働き方改革以前にリーダーの意識改革が大切であると指摘。これからのリーダーに求められるのは、コア・バリュー経営が目指すところの「人間性」「健全性」「参加型」「自律型」が実現されるような組織を作ることであり、社員のエンゲージメントやパフォーマンスの向上はその結果として実現するものであるとして1時間にわたる講演を締めくくられました。

石塚さんに続く井手さんのご講演の中では、当初はそれと意識することなく取り入れたコア・バリュー経営的な手法に注目した経緯や、その導入プロセス、効果が披露される共に、石塚さんが言及されたマイクロブランディングに関連して、会社が投げかけたブランド・エッセンスに基づき、顧客のコミュニティがブランドを築いていくというヤッホーブルーイングにおけるブランディングのあり方にも触れられていました。

なお、2019年5月に発行された『コア・バリュー・リーダーシップ』 は、これまでの石塚さんの著書の集大成とも言えるもの。詳細は、こちらにも記されています。 私自身は、かつてマス・マーケティングへのアンチテーゼとして『個人回帰のマーケティング—究極の顧客満足戦略』(1992年、ダイヤモンド社)が注目されたのに対して、『コア・バリュー・リーダーシップ』第2部が「人間回帰のコア・バリュー経営」と命名されていたことが印象に残りましたが、長くなるので、本件についてはまた別の機会にご紹介したいと思います。

※1 組織内の大多数が共有すべき「コア・パーパス(企業の存在意義)」と「コア・バリュー(核となる価値観)」を定義し、それを基盤に組織運営の仕組みを構築し、経営に活用する手法。(セミナーのパワーポイントより)
※2 石塚さんによると、米国の一般企業においては社員の33%がエンゲージされているに過ぎないが、「スモール・ジャイアンツ」においては社員の90%がエンゲージされているという。