消費者志向経営とお客さま相談窓口④
VOC活動を通してお客さまと価値を共創する

2019年12月28日
企業環境の変化に伴い、顧客との相互作用に基づく価値共創型のマーケティングが注目されている。これを実現する方法論として、近年ではソーシャルメディアを活用した生活者参加型商品・サービス開発(以下、クラウドソーシング)が注目されているが、お客さま相談窓口は、お客さまの生の声を蓄積・分析して企業活動にフィードバックするVOC(Voice of Customer)活動という形で、これに類する取り組みを推進していると言えるだろう。

お客さま相談窓口の中でもいわゆる消費者相談窓口においては、1970年代からこうした活動の重要性が叫ばれてきた。価値共創はおろかVOCという言葉さえ使われていなかった時代に、消費者窓口の先駆者達が、ただ単に苦情・問い合わせに対応するだけではなく、これを社内にフィードバックして再発を防止することの重要性を指摘していたことは、消費者志向経営の観点からも注目に値すると言えるだろう。

その後、広くお客さま相談窓口でVOC活動が脚光を浴びるようになったのは、2000年代も後半に入ってからのこと。その一方で、2000年代には企業によるコミュニティサイトの開設が進展、2010年代にはTwitter、Facebookなどが台頭してきたことに伴い、これらソーシャルメディアを活用したクラウドソーシングが注目されるようになった。

一般に、クラウドソーシングが商品・サービスの“開発”よりの取り組みであるのに対し、お客さま相談窓口におけるVOC活動は商品・サービスの“改善”が中心で、その対象は相談室内における電話応対の改善やFAQの構築から、相談室外の担当部門との連携による商品や容器、販売方法の改善などとなっている。

以下、私がこれまでにVOC活動について取材した中から、注目される事例を見てみよう。

基礎化粧品でおなじみの再春館製薬所では、1993年6月に、自動発信装置を活用した“強引な電話セールス”により、顧客から大量のクレームと返品が寄せられた苦い経験を持つ。同社ではこれを機に、売上至上主義から脱却するべく販売システムの見直しとコミュニケーターの意識改革を断行すると同時に、お客さま向け季刊誌を発刊、お客様満足室を開設するなど、消費者志向経営の推進に向けて大きく舵を取った。

このお客様満足室はいわば、同社におけるVOC活動を担当する部門。コールセンターに寄せられるお客さまの声を商品やサービスの改善に繋げるべく、日々、コミュニケーターにより蓄積されるVOCのうち何らかの対応が求められるものを同室に集約、各担当部門と共に商品・サービスの改善に取り組む傍ら、週1回の経営会議での報告や隔週での全社員へのリポート配信を通して社内における情報共有を図っていった。 ※1

一方、ネスレグループの日本法人、ネスレ日本では、2009年4月に、「お客さまとの対話を重ねることで、お客さま一人ひとりの毎日の生活や心情を理解して、それに対して同社ができることを発見し、新しい価値にして提供する」ことを目的にネスレVOCセンターを開設。最前線でのお客さま対応と全社レベルでのVOC活動に乗り出した。

同センターでは、センター内に擁する3つのコールセンターに加えて、店頭やコミュニティサイト、さらには一般のソーシャルメディア上の投稿に至るまで広範囲なVOCを収集、これを分析結果と共に全社に共有することで製品改良やコミュニケーション、プロモーション開発への活用を促進。加えて、社内にお客さま視点を醸成するために、研修・セミナーやお客様相談室体験などの各種プログラムを主導している。 ※2

以上、VOC活動のリーディング・カンパニーとも言える2社の事例を通して、いわゆるお客さま相談室がVOC活動、ひいては消費者志向経営の推進役となりうることを理解していただければ幸いである。

次号では、人材マネジメントにおけるコールセンターの役割にフォーカスする。

<注>
※1 再春館製薬所のVOC活動事例は、「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」上のこちらを参照
※2 ネスレ日本のVOC活動事例は、「インタラクティブ・マーケティングまとめサイト」上のこちらを参照 

初出:消費と生活社『消費と生活』2019年3・4月号に若干加筆