東急ハンズのソーシャルメディアへの取り組み

2012年2月18日

去る2月13日~17日、「ソーシャルメディアウィーク」が開催された。
これは2009年2月にニューヨークでスタートした、
ソーシャルメディアを活用したマーケット開発を目的とするイベントで、
2010年からは毎年2月と9月に、世界各地で開催されている。
ターゲットは、業界関係者のみならず広く一般を対象としており、
昨年9月には、世界で計650のプログラムに3万人を動員したそうだ。
同イベントは、米・ニューヨークのCrowdcentric Media LLC
グローバルカンファレンスがホスト役を担い、
世界各都市でフランチャイズ開催しているもの。
今回のグローバルなテーマは「Empowering Change through Collaboration」。
日本語のパンフレットには、「ソーシャルメディアによって同時多発かつ巨大に起きる
コラボレーションは加速していく!」と訳されている。
今回が初めてとなった日本での開催のホストパートナーは
サイバー・コミュニケーションズ、会場は電通ホールと講談社で、
以下の6テーマに基づき、計48コマの講演が行われた。
■時代とソーシャルメディアの俯瞰・日本スタートアップの黎明
■ソーシャルプラットフォームスタディ 当事者が語る主要SNSの今日と明日
■ソーシャルマーケティング
■メディアスタディ メディアを考える日
■ソーシャルグッドとは何か?
■ソーシャルメディアマーケティング・リンクトインとビジネス
私が発行する月刊『アイ・エム・プレス』や、
CRMシリーズの『ソーシャルメディア・マーケティング成功事例集』の取材などで
お世話になった方々も多数、登壇されたことから、
事情が許せば毎日のように顔を出したいところではあったが、
そういうわけにもいかず、結果的に参加できたのは1コマだけだった。
その1コマとは、2月17日の16:20~17:00に講談社で行われた、
「東急ハンズのソーシャルメディア活用について」。
講師は、同社ITコマース部 EC企画課の緒方恵さん。
まずは「ヒントマーケット」という自社のコンセプトを披露した上で、
ソーシャルメディアの利用状況と、利用に至った背景、運営ガイドラインを紹介。
その後、同社が最初に手がけたソーシャルメディアだというTwitterを中心に、
この2月に開始したFacebookコマース、
昨年8月末に利用を開始したmixiの利用状況を個別に説明。
ちなみにTwitterでは、本社サイドで3つのアカウントを
「ヒト」「コト」「モノ」の3軸で使い分けているほか、
店舗サイドでは、昨日時点で6つのアカウントを運営しているそうだ。
続いて、ソーシャルメディア利用の効果測定に言及。
特段、KPIは設けていないとのことではあったが、
そもそもの狙いである来店促進にどの程度寄与しているか、
あるいは、ポスト内容の品質、MD軸でのポスト内容の偏りなどの観点から、
運用上の留意点や、チェックされている項目を披露された。
講演の最後では、顧客1人1人の顔を見てコミュニケーションを行うという意味では
店頭も、ソーシャルメディアも同じであり、
そこで収集したお客さまの意見をリアルのビジネスに落とし込むことで、
ブランドの醸成にもつながっていくという視点、
および、ソーシャルメディアの利用が
社内コミュニケーションの活性化・循環にも寄与するという視点を披露。
合わせて、ソーシャルメディアのユーザーはまだ一部に過ぎないことから、
過大評価は禁物であると警鐘を鳴らすとともに、現状、ソーシャルメディアは、
売上貢献よりもCSを追求するツールとして活用するフェーズにあると提言。
同社における現状のソーシャルメディアの位置付けを、
「お客さまとより深くかかわるための窓口がひとつ増えた」と説明、
40分にわたる講演を締めくくられた。
一言で述べると、同社におけるソーシャルメディアの利用状況や、
これを担われている緒方さんの洞察がギッシリと詰まっていたわけだが、
中でも私自身が感銘を受けた3つのポイントを以下に紹介しよう。
1つ目は、前述の10か条に上る運営ガイドラインの3つ目に当たる
「反応が多いときこそ、反応をしていない人のことを意識する」というもの。
具体的には、反応の多い時には、新規反応ユーザー数をチェックし、
ポスト内容の品質が維持できているかの参考にしているのだという。
2つ目は、緒方さんが講演の最後に強調されていた、
顧客1人1人の顔を見てコミュニケーションを行うという意味では
店頭もソーシャルメディアも同じという視点。
これはもちろん、コールセンター/コンタクトセンターにしても、
そして営業担当者にしても同じだろう。
One to Oneと言うからには、企業の側も顧客接点を超えて、
同じトーン&マナーでお客さま対応に臨むべきというのは、
弊誌でも常に主張していることのひとつだ。
3つ目は、緒方さんの表現を借りれば、
大きな窓口と小さな窓口をミックスするという考え方。
同社のOne to Oneの顧客接点としては、
ソーシャルメディアに加え、店舗やeメールによる問い合わせ窓口があるわけだが、
これを「気軽⇔憂鬱」「ネット⇔リアル」の2軸でマトリックス化すると、
Twitterなどは「気軽×ネット」の象限、
eメールによる問い合わせ窓口は「憂鬱×ネット」にプロットされる。
そしてこの「気軽×ネット」の領域をさらに深耕するために、
同社では面白いツイートやネガティブなツイートを検索して、
積極的に返信するというアクティブ・サポートも実施しているそうだ。
最後に、緒方さんご自身の感覚とは若干ずれるかもしれないが、
ひとつ目として紹介した「反応をしていない人のことを意識する」という件には、
1996年11月25日に発行された月刊『アイ・エム・プレス』創刊1周年記念号に
当時、博報堂のインタラクティブ・マーケティング部長で、
弊誌のコメンテーターを担っていただいていた川口和秋さんから頂戴した、
以下のコメントを彷彿とさせられた。
「自分の意図するところを相手に伝えることがコミュニケーションだ。
だが、もしそれが相手に伝わらなかったとしても
それはそれでコミュニケーションが成立したとも言える。
無視や拒否もまたひとつの意思表示だからである。
ダイレクトマーケターは、えてしてレスポンス者にのみ注目しがちである。
レスポンスこそが売り上げであり利益の源泉だからだ。
だが、反応しなかった人のメッセージにも貴重なものが含まれている。
なぜ反応しなかったのか、なぜ無視したのかを推察することは、
次の大きなビジネスチャンスにつながるはずである。
なにしろ、数的には非反応者の方が圧倒的に多いのだから。
— 中略 —
無反応というメッセージを送り返してくれた人を無視するのではなく、
対話を繰り返していくのがインタラクティブな視点に立った
マーケティングの本質ではないだろうか。」
これまでにも何度かこのブログに書いたが、ソーシャルメディアが進展した今日、
私たちはソーシャルメディア・リサーチ、ひいてはアクティブ・サポートを通じて、
自社の顧客接点に主体的に問い合わせてくることのない、
いわば「無反応」なお客さまの動向をウォッチすることができるようになった。
インタラクティブ(Interactive)とマーケティング(Marketing)の
頭文字を取って命名した月刊『アイ・エム・プレス』を発行する私にしてみれば、
こうした事態を前に、ようやく期が熟してきたという思いを禁じえない。
そしてその渦中で真摯に、深い洞察力をもってお客さまに対峙しておられる
緒方さんのようなマーケターには、心からエールを送りたいと思っている。
結果的には全48コマ中1コマ、たった40分しか参加できなかった
ソーシャルメディア・ウィークだが、
それでも私にとっては、とても貴重な体験だったと言える。