数日前、かかりつけの歯医者から、
「その後、どんな様子ですか?」と電話がかかってきた。
実は、暮れにその歯医者に予約を入れていたにもかかわらず、
会議が終わった時には既に予約時間を1時間も過ぎており、
行き損ねたというか、すっぽかしてしまった。
その後、侘びを入れつつ再予約しようと思ったが、
バタバタしていてなかなか受診の時間が取れず、
電話しようと思うと歯医者の営業時間が終わっていたりで、
ついにそのまま年を越してしまっていた。
年が明けると、目の前には既に2月号の入稿が迫っていた。
しかも、すっぽかしてから時間が経てば経つほど、
心の中のやましさが増殖し、電話がかけにくくなってくる。
そして、入稿を翌営業日に控えた先日、
ついに歯医者から電話がかかってきてしまったのである。
黙々と校正をしていたところに内線が鳴り、
受話器を取ると、「○○歯科からお電話です」と言われた。
恐る恐る外線に切り替えると、電話の向こう側から、
私を担当する歯科衛生士の女性の声が聞こえてきた。
「その後、どんな様子でしょうか?」
私は開口一番、丁重に詫びを入れると同時に事情を説明。
電話をかけてくれた歯科衛生士の優しい声に誘われて、
「いただいた電話で恐縮ですが・・・」と、
いつになく遠慮がちに次回の診療の予約も入れてもらった。
歯医者から電話をもらうなんて初めての経験だったし、
予約をすっぽかしてから1ヶ月近くを経て、
いよいよもって敷居が高くなってきた時だけに、
さらに、治療中だった私の奥歯が、
治療の継続を求めて疼き始めていた時だけに、
電話をもらったことが心底ありがたく、
まさに感動のサービスを受けた気がした。
その日、家に帰ると、自宅のポストには、
遅れてきた年賀状と合わせて、その歯医者からの封書が届いていた。
電話をかける以前に、同様の主旨の手紙を送ったのかなと、
歯科衛生士の白衣のような淡いピンク色の封筒を開けると、
そこには電話の主旨とは無関係の、定期検診の案内が入っていた。
それは、こんなことがあろうとなかろうと、
一定のインターバルを置いて送られてくる案内DMで、
ご丁寧に私の名前が手書きされている分だけ、白々しく感じられた。
最初の感動が大きかった分だけ、失望が大きかったのだ。
というわけで、せっかくの“感動のサービス”は、
“返す返すも惜しいサービス”に姿を変えたわけだが、
これは他人事ではなく、同様のことは、
私たちの日々の業務の中にたくさん埋もれている。
大企業はもちろんのこと、街の歯医者のようなたった数人の組織でも、
お客様の立場に立つことは、かくも難しいのだ。
業務プロセスを標準化したり、ITに頼るのも一手だが、
最後の最後は、結局、“人”の問題に帰結する。
“お客様の立場に立つ”ことがなぜ必要なのか、
理屈として頭の中で理解するだけでなく、
1人1人が日々の業務の中で、
しっかりと肝に銘じることが大切だろう。
感動のサービス
2006年1月12日