従業員のパワーをビジネスのエンジンに

2010年9月11日

前々回のブログで新旧のダイレクトマーケティングの共通点と
ネットが広げたダイレクトマーケティングの新たな可能性、
前回のブログで異業種や生活者のパワーを借りることによる
ビジネスの活性化について述べたが、最近、もうひとつ気になるのが、
従業員のパワーをビジネスのエンジンにしようという動きだ。
顧客サービスというと、思い出されるのはザッポス。
アマゾンが買収した米国の靴をはじめとするネット通販会社である。
ザッポスについては、石塚しのぶさんの著書『ザッポスの奇跡』の感想や、
石塚さん来日時にサッポスファンの弊誌読者にお声がけして開催した
「#IMPザッポス情報交換会」のリポートなどを通して、
これまでもこのブログで何度か取り上げてきた。
過去のブログをご覧いただいた方には内容が一部、重複するが、
ザッポスは“Web時代の究極のカスタマー・エクスペリエンス”を目指す企業。
つまり、Webサイト構築、コンタクトセンター運営、配送、返品制度など、
さまざまな面でカスタマー・エクスペリエンスを徹底的に追求しているわけだが、
同社が注目される所以は、これらの徹底したサービス自体もさることながら、
これを支えるマネジメントの仕組みにある。
具体的には、企業カルチャーにフィットする人材の採用、
コアバリューと呼ばれる10の価値基準の設定、
社員の“個”を重視した徹底的な権限委譲、
パフォーマンスの徹底的な指標化とこれに基づく改善等々だ。
『ザッポスの奇跡』によると、ザッポスのスローガンは、
「POWERED BY SERVICE」だという。
サッポスのCEOであるトニー・シェイが何を思ってこのスローガンを掲げたのか、
その直接的な説明は同書には見当たらないが、
私は優れたカスタマー・エクスペリエンスの提供が
顧客のロイヤル化と従業員のロイヤル化の双方を促進する
という主旨ではないかと解釈している。
つまり、優れたカスタマー・エクスペリエンスの提供は、
顧客満足を増大し、ひいては企業収益の向上に寄与するだけではなく、
顧客満足が従業員満足に帰結することにより、
従業員のモチベーションの向上にも寄与するということだ。
そして後者、すなわち従業員のロイヤル化は、
企業が提供するサービスをさらに増強、あるいは改善し、
未来のビジネスを創造するエンジンの役割を果たすと言えよう。
私はこれまで、月刊『アイ・エム・プレス』のトップインタビューを通して、
131人の企業経営者にインタビューしてきた。
“ネット時代の顧客づくりを活性化する!”マーケティング情報誌だけに、
どちらかというと顧客との関係性にフォーカスしているが、
中には顧客満足と従業員満足の関係に言及し、
そのマネジメントへの取り組みを披露してくださった経営者も少なくない。
昨日も、アメリカン・エキスプレス・インターナショナルInc.の
社長 ロバート・サイデル氏にトップインタビューを行ったが、
インタビューを通してサイデル氏が強調されていたのは、
“カスタマー・エクスペリエンス”の重要性であり、
また、従業員をエンゲージすることが、
顧客をエンゲージすることに繋がると力説されていた。
詳細は月刊『アイ・エム・プレス』10月25日発行号をお待ちいただくとして、
サイデル氏も従業員満足と顧客満足の関係性に言及されたお一人なのだ。
顧客満足と従業員満足は表裏一体とはよく言われることだが、
特に不況下でマーケティング・コミュニケーション投資が絞られ、
また、限られた投資に対するROIへの希求が高まる中で、
最初の、そして最後の砦とも言える従業員のパワーを
いかに増大するかに目を向ける企業は増加しているように思える。
そして、ここで言う従業員とは、コールセンターなど、
顧客と直接やり取りする顧客接点のことのみを意味するわけではない。
『ザッポスの奇跡』には、ザッポスのCEOであるトニー・シェイの
「ザッポスでは、『カスタマー・サービス』は部門名ではありません。
むしろ会社全体の基盤が『カスタマー・サービス』なのです。」
という一言が引用されていたし、
このことはサイデル氏がインタビューの中で語っていたことでもある。
元来、“おもてなしの心”を備えた日本人、そして日本企業が、
その強みをビジネスのエンジンに換えることができるかどうか。
今後の私たちの努力にかかっていると言えそうだ。