昨日、過日の来日時にお目にかかる機会を得た
TARP社 VPであるジョン・グッドマンさんの記事、
Marketing Myths and Service Slipsを
英語の先生の助けを借りつつ、読み終えた。
これは10のマーケティングの神話を掲げると同時に、
それぞれにまつわる事実を解説と共に紹介、
そこから学ぶべきポイントをまとめたもの。
日本にも通用する部分が多いと思うので、
神話と、それにまつわる事実の部分だけを
はなはだ意訳ではあるが、以下に紹介しよう。
1つ目の神話は、常に顧客の期待を上回るサービスを提供し、
彼らを喜ばせることがマーケティング成功のカギだということ。
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事実は、それにかかるコストがリーズナブルで、
かつ大きな利益が見込めるときにのみ顧客を喜ばせよということ。
2つ目の神話は、顧客からの電話には一刻も早く応じることが重要。
常に保留ばかりでは顧客の怒りを買うというもの。
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事実は、いかに速く電話に出るかよりも、
電話に出た後にどのように対応するかが重要だということ。
3つ目の神話は、すべての人は人間と話したいと思っている。
Webや自動音声応答は人間に比べると常に満足度が低いというもの。
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事実は、ケースによって、あるいは特定の人々からは、
Webや自動応答が選ばれる場合があるということ。
4つ目の神話は、顧客は常に正しいので、
Noと言ってはならないというもの。
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事実は、顧客は常に正しいとは限らないし、
あなたは顧客に対してNoと言っても構わないということ。
5つ目の神話は、もしもクレームが減少していれば、
事態は収束に向かっていると見て良いというもの。
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事実は、クレームが少ないということはしばしば、
その問題についてあきらめている人が多いことを意味するということ。
6つ目の神話は、サービスを向上する最善の方法は、
最前線の従業員に言われたとおりに振る舞わせ、
きちんとした態度でサービスに臨ませることであるというもの。
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事実は、顧客の不満足の多くは、従業員による
効果的なサービスの提供を頻繁に阻害する他の理由に起因しているということ。
7つ目の神話は、いくらサービスが優れていても、
顧客は価格の要因に左右される。ウォルマートを見よというもの。
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事実は、一部の顧客は常に価格を重視しがちだが、
多くの顧客は優れたサービスを好み、そのためにお金を支払うということ。
8つ目の神話は、顧客満足度とロイヤルティがひとたび90%に達すれば、
「限界効用逓減の法則」が働き、われわれは勝利を宣言すべきというもの。
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事実は、トップクラスのパフォーマンス・レベルにあっても、
容易に解決できる痛点は未だ存在し、収益の損失を招いているということ。
※痛点=Point of pain(痛みを感じるポイント)
9つ目の神話は、NPS(Net Promoter Score)さえ測定すれば、
顧客満足とロイヤルティについて必要な全データを確保できるというもの。
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事実は、NPSは単なる幅に過ぎず、
コンテキストは提示はしてくれないということ。
最後の神話は、当社では100%満足保障(返品保障を修正しました)を行っているので、
あらゆる問題に耳を傾け、当社の顧客は満足しているというもの。
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事実は、多くの顧客は100%返金保障に関して、
問い合わせてはこないということ。
以上、10の中でも特に私が興味を持ったのは、
6つ目と7つ目と9つ目の神話とそれにまつわる事実である。
以下にその3つについて、さらなる詳細と若干のコメントを付け加えよう。
まずは、6つ目の神話について。
TARP社の調査によると、従業員の90%は良い仕事をしようと思って出社するが、
商品にかかわる問題や、不適切な期待を煽るマーケティングのオファー、
プロセスの機能不全、わかりにくい指示などにより、
良い仕事を行うことを困難にするケースが40~60%にも達しているという。
これらはいずれも企業に起因する問題点だが、
これに対し、顧客に起因する問題点は20%に過ぎないそうだ。
このことは、コールセンター/コンタクトセンターが抱える問題点の多くが、
それ以外の部署、あるいは他部署との連携にかかっていることを示している。
次に、7つ目の神話について。
TARP社の調査によると、商品・サービスなどに関するトラブルの経験の有無は、
顧客により高い価格を許容させる上での大きな要因となっているとのこと。
つまり、トラブルを減少させ、より良いサービスを提供することは
価格の柔軟性を高め、より大きな粗利を実現することにつながるというのだ。
これはデフレの波にさらされ、ともすればサービスよりも
価格を優先しがちな昨今の日本企業にとって、
大きなヒントとなるのではないだろうか。
最後に、9つ目の神話について。
グッドマン氏によると、NPSには、以下の2つの問題点があるという。
①NPSでは判断の手がかりとなる情報が得られない。
②2つのまったく異なる状況が同一のスコアになる。
したがって、スコアの背景にあるビジネスの手がかりとなる情報を理解し、
失う可能性のある収益を予測することが必要であるるというのだが、
これは言い換えれば、「なぜ」という理由を探ることが重要ということだろう。
例えばダイレクトマーケティングにおいては、
買った、買わなかったという事実を巡る情報、すなわちRFMPだけではなく、
購入理由・非購入理由の収集が重要だということが議論に上るが、
それは顧客満足度調査やNPSにおいても同じこと。
そしてその理由を尋ねられることこそが、
コールセンター/コンタクトセンターの優位性であり、
また、ソーシャル・リスニングに期待されるところではないだろうか。
グッドマンさんの原稿にご興味がある方は原文(英語)をチェックしてみては。
マーケティングや顧客サービスに関する神話は果たして事実なのか?
2012年2月5日