昨日はダイレクトマーケティング学会の部会&忘年会に参加した。
昨日の部会のテーマは「サービス・サイエンス
—サービス産業の進化をめざす科学的アプローチの意義と現状」。
講師は日本IBM 東京基礎研究所 ビジネス・サービス・リサーチ部門
マネージャーの日高一義さん。
サービス・サイエンスとは、経済活動のサービス化が進んでいることを受けて、
IBMが2005年あたりから提唱しているアプローチで、
正式には、Service Science,Management and Engineering。
言いだしっぺのIBM自体、今やサービスが売上高の60%以上を占めているという。
日高さんによると、サービス・サイエンスとは、
「サービスを科学の対象ととらえ、
科学的手法を用いてサービスの持つ問題を解決し、サービスの生産性を高め、
サービスにおけるイノベーションをシステマチックに実現する」もの。
サービスの持つ問題としては、これまで経験と勘を頼りに行われてきたこと、
ハードやソフトと異なり、生産性向上には人が欠かせないことなどを指摘された。
また、サービス・サイエンスは、三次産業としてのサービスだけでなく、
二次産業である製造業におけるサービスをも対象としている。
日高さんは後者の変遷を以下のように整理され、
オープン化や標準化といったトレンドと関係があると指摘された。
・物だけを製造・供給する
↓
・物にともなった付加価値を提供する
メンテナンス、使用方法のサポート、
情報の提供、ユーザーコミュニティの支援
↓
・サービス事業戦略を推進する
他社製品のサポートやメンテナンスもサービスの対象
また後半では、サービスの特長(無形性、同時性、異質性、消滅性)に言及。
「サービス・サイエンスは知識の融合により新しいイノベーションを推進する」
とのご自身の見解を示された後、国内外における取り組みを紹介、
以下の2点を研究課題として提示された。
①Fundamental Discipline Analyze
②Innovation Model Create
今回の部会はアカデミックなアプローチだけに私には難しいところもあったが、
「顧客サービス」は個人的にも興味のあるところなので、
日高さんのお話を伺いながら、色々なことが頭に浮かんできた。
ひとつは、セルフサービスの問題。
折りしも月刊「アイ・エム・プレス」12月号の特集は、
「CS向上とコスト削減は両立するか—IVRの効果的活用法を探る」
また、友人が「店舗で現場スタッフとお客様との相互作用(感情と情報の交換)
を促進するデジタル・ツール」の特許出願中ということもあり、
日高さんが指摘されるサービスにおける人の問題の解決手段のひとつが、
こうしたコールセンターや店頭におけるデジタルツールの活用にあり、
そこではCS向上とコスト削減の両立こそが課題であると思った。
ちなみに人の問題のもうひとつの解決方法は、
人材の教育・研修やモチベーション向上施策であろう。
こちらも昨今では、コールセンター、店舗など顧客接点を問わず、
資格制度や研修ビジネスが活況を呈している。
2つ目は、日高さんのパワポにあった製造業におけるサービスの変遷について。
例えばPCのカスタマーサポートのコールセンターなどは、
まさに日高さんが言われた文脈に沿って発展を遂げてきていると思う。
某社が他社のPCのサポート業務のビジネス化を検討している
という話を聞いたことがあるように思うが、
このように競合他社のサポート業務を請け負うという事業戦略のみならず、
サポートそのものを(顧客に対して)有料化するというアプローチも増加している。
前者については、月刊「アイ・エム・プレス」2005年12月号の特集
「CRMの現場で培った経営資源を生かす」で取り上げたし、
後者については、弊誌の連載「コンタクトセンター最前線」や、
数十社のコールセンターの事例を掲載した「コールセンター年鑑2005」に詳しい。
「コールセンター年鑑2006」の取材対象企業に共通する最大のテーマが
VOC(Voice Of Customer)であったのに対し、
「コールセンター年鑑2005」の取材対象企業に共通する最大のテーマは、
コールセンターのプロフィットセンター化にあったからだ。
3つ目に思い浮かんだのは、過日、このブログでもご紹介した、
この28日の弊誌のビジネスセミナーにおける
ワコールの「スタイルサイエンスサイト」の事例だ。
同サイトは29日(前回)のブログにもあるように、「見込み客の開拓を主眼にした
プロモーションサイトではなく、商品の購入者を対象に付加価値を提供することで、
顧客との継続的な関係構築を図る」ことを主旨としているのだが、
会場から「同サイトの構築・運営に関わるコストを対象商品の
製造原価に組み込んでいるのか?」という質問が寄せられ、
講師とのやりとりが発生したことは記憶に新しい。
そして4つ目に思い浮かんだのは、(日高さんのお話をお伺いしたのが
ダイレクトマーケティング学会だったことも手伝い)
「通信販売会社」におけるサービスのことだ。通信販売会社における
受注・配送・代金回収などのフルフィルメント業務をサービスと定義するならば、
これを自社のみならず競合の顧客にも提供している企業は少なくない。
もちろん通信販売会社は、サービス・サイエンスの対象となる
製造業でもなければサービス業でもない、列記とした小売業だが、
フルフィルメント業務にはコールセンターや配送センターなどの
固定施設への先行投資が必要であり、かつ、
広告出稿やカタログ送付のタイミングによる処理量の変化が激しいことから、
先行各社はこうした施設の空きを有効活用するべく、
中小の通販企業やEC企業などのフルフィルメント業務を受託しているのだ。
この点については、前出の月刊「アイ・エム・プレス」2005年12月号の特集
「CRMの現場で培った経営資源を生かす」に事例が掲載されている。
加えて、翻って考えてみれば、そもそも通信販売そのものが、
自宅にいながらにして買い物ができるという意味で、
「店舗に出向いて、商品を見て、選んで、購入して、持ち帰る」という
店舗における購買行動をサービス化していると捉えることもできるだろう。
ダイレクトマーケティングの父の異名を持つレスター・ワンダーマン氏が、
数年前にこうした文脈でダイレクトマーケティングの未来を語っていたっけ。
通信販売会社のみならず、店舗小売業におけるマルチチャネル化が進む昨今、
通信販売はもはやひとつの小売業態というより、
サービスへと昇華しているのかもしれない。
だとすれば、サービス・サイエンスを小売業にも敷衍し、
小売の抱える問題解決につなげることはできないのだろうか。
日高さんのお話の後半から、話がアカデミックな方向に進むに連れ、
私の頭の中にはこんなことがフツフツと沸いてきてしまった。
恐らくは日高さんの思惑とは異なることと思うが、
私にとってはとても面白く、かつ意義深い講演だった。
サービス・サイエンス
2006年12月2日