いまどきの還暦祝い

2008年5月10日

昨日は月刊『アイ・エム・プレス』6月号を何とか無事に印刷入稿。
午後からの会議を経て、夜には弊誌のデザイナーの還暦祝いパーティを開催した。
私にとって還暦祝いというのは、企画するのも、参加するのもはじめてで、
頭の中に“かくあるべき”というイメージがまったくなかったのだが、
数日前から「赤いちゃんちゃんこを探さなくちゃ」とか、
すでに還暦を過ぎた役員の古着を活用しようかとか、
(本人曰く)「○○さんの古着の赤いちゃんちゃんこなんて着られるか!」とか、
月刊誌の締め切り間際だというのにさんざん盛り上がった挙句、
いよいよパーティ前日の深夜に雑貨屋に駆け込んで、
それらしきグッズを買い込み、参加者全員からのプレゼントとした。[[pict:ribbon]]
その雑貨屋というのが、「ヴィレッジバンガード」なのだが、
深夜12時まで営業しているのがイザという時には何かと便利。
翌日の入稿の準備を整えて閉店15分前に店に駆け込み、
もはやあれこれ見繕っている時間はないと店員に助けを求めたところ、
すぐに先輩らしき店員がやってきて、自分なりのギフト提案をすると同時に、
恐らくは頭の中に入っているであろう取扱商品のデータベースに
私のニーズを重ね合わせ、時間をかけて私の買い物に付き合ってくれた。
以前に同店ではバイト店員にかなりの権限委譲をしていると聞いたことがあるが、
その先輩店員も「もしかしたらバイト?」と思わせる若さにもかかわらず、
なかなかの接客サービスに感心させられた。[[pict:symbol1]]
具体的に説明すると、以下のような按配だ。
まず、同店は若者向けの雑貨屋だけに、常識的に考えて、
ここに還暦祝いのプレゼントを買いに来る客なんて、そうそう居るわけがない。
しかし、そのほかに買い物方法の選択肢がないというのが私の置かれた状況。
そこで、いったいどんな顔をされるだろう思いながらも、
「還暦祝いのプレゼントを探しているんですが、
何かそれらしきものはありますか?」と恐る恐る尋ねたところ、
しばし考えた上でまず最初に彼が提案したのは「ミニ盆栽キット」であった。
最近は若者や欧米人の間でも盆栽がブームになっているとはいえ、
“還暦→盆栽”という昔ながらの“おきまり”の構図は、
若い店員の頭の中にもしっかりとインプットされていたのであろう。[[pict:futaba]]
しかし、わがままな客の私は、そんな“おきまり”のギフトでは納得しない。
そこで、「たとえば赤いちゃんちゃんこがプリントされたTシャツとか、
何かもっと面白いものはないですか?」と突っ込んだ。
するとその店員は、お誕生日グッズのコーナーに私を案内し、
HAPPY BIRTHDAY”の真っ赤な文字がプリントされた白いTシャツを指差し、
ホワイトスペースに贈り主が自筆のサインをして贈る仕組みだと説明。
店頭には実際にサインを施したTシャツがディスプレイされており、
「なるほどね~」と思った私は、これを購入することを決定。
その後、同コーナーにあったほかのグッズもあれこれ買い求めたのだが、
中でも面白かったのは、「どんだけ~」と書かれた胸につけるリボンで、
「どんだけ生きたの?」か「どんだけ生きるの?」かは知らないが、
デザイナー氏は一次会の間中、これを胸につけて酒を飲み、
二次会終了後もしっかりカバンにしまって家に持ち帰っていた。[[pict:sake]]
お誕生日グッズコーナーをさんざん物色した後、
店員はまだ何か買いたげな私を和風グッズコーナーに誘い、
今度は金色の招き猫をリコメンドしてくれた。
“おきまり”な感じに気が進まなかった私は招き猫は却下したものの、
赤いちゃんちゃんこの代わりに、赤い水玉模様の地下足袋風靴下を購入。
閉店ぎりぎりまで15分ほどかけて、しめて5点のギフトを購入したのだが、
その間、店員はずっと私の買い物に付き合ってくれた。
帰り際、店員に御礼を言いつつ、「これからは高齢化社会なのだから、
おたくの店も還暦グッズも品揃えしたら?」と声をかけると、
「ハイ! ありがとうございます」と気持ちの良い返事。
最近の若者の接客サービスもなかなかだなと感心させられた。[[pict:heart]]
しかし、「かなり満足」な買い物を終えて帰宅した私の頭には、
ひとつ引っ掛かることがあった。それは店員の頭の中の還暦のイメージ。
店員の頭の中では「還暦→盆栽→お誕生日Tシャツ→金色の招き猫」
という連想がなされていたわけだが、「どんだけ~」のリボンを胸に
大酒を飲んでいたデザイナーのとても“還暦”には見えない若さを考えると、
そこには果てしなく大きなギャップが横たわっているのであった。
経験したことのない年代の顧客のことがイメージできない。
これが高齢者向けビジネスが必ずしも成功しない理由なのだろう。
“KY(気分読めない)な客”かもしれない私の買い物に付き合ってくれたことが、
その店員の頭の中にある“おきまり”の還暦のイメージの払拭に
少しでも寄与すればいいなと思う私なのであった。[[pict:symbol2]]