「売り方は類人猿が知っている」を読んで

2010年1月3日

今年のお正月休みはそもそもが短かったし、
お正月明け締め切りの仕事に追われていたので、
あまり本を読む時間はなかったのだが、
昨日、読もうと思っていた2冊のうちの1冊、
ルディー和子さんの新刊『売り方は類人猿が知っている』
(日経プレミアシリーズ、2009年12月8日発行)を読了した。

不況の中で購買を控える現代人は猛獣におびえて身をすくめるサルと同じ。
そんなところからタイトルが付けられた本書は、
神経科学、行動経済学、進化心理学などの実験結果を織り交ぜて、
不況下で売るためのヒントを提示している。
マーケティングや営業、顧客サービスの担当者のみならず、
現代を生きるあらゆるビジネスマンにとって一読の価値があるといえるだろう。
本書は以下の六章から構成されている。
第一章 不安なホモサピエンスはモノを買わない
第二章 人間もサルも「得る」よりも「失う」を重く考える
第三章 金持ち父さんは貧乏父さんがとても気になる
第四章 自動車の売上と孔雀の羽の関係
第五章 感情と記憶が長寿ブランドをつくる
第六章 人間も進化の歴史から逃れられない
中でも私自身が最も興味深かったのは、
第五章の「感情と記憶が長寿ブランドをつくる」。
本章では、リッツカールトンやノードストロームなど、
顧客に感動を提供する小売・サービス業の例を挙げて、
その感動をもたらしているのが従業員=人間であるとする傍ら、
コカコーラとペプシコーラの実験結果などを交えて、
パワーブランドが感情と記憶から作られることを紹介している。
つまり、前者における感動が企業の顧客接点でもたらされるのに対し、
後者における感動は、顧客の生活の中で培われていくわけで、
そこでは商品そのものがメディアになるということなのだろう。
実際、私自身が長年、愛用しているブランドを振り返ってみても、
そこには何らかの経験がかかわっているものが多い。
例えばバターは、何十年もX社のものを使っているのだが、
幼いころにX社のアイスクリームが大好きだったそうで、
ある日、母がX社のバターを買ってきて机上に置いておいたところ、
X社のアイスクリームならぬバターを変な顔をしつつも
ムシャムシャと食べていたことがあるという。
子供なりにX社のロゴマークを記憶していたわけだが、
その私はことバターに関しては、今でもX社の製品しか買わない。
私自身もそうだったのだが、読者は本書を読み進むに連れて、
本書に紹介されたさまざまな実験結果を
自分自身や知人・友人の性向と照らし合わせたり、
過去のエピソードにあれこれ思いをめぐらせることになるだろう。
それは必ずしも納得できることばかりではなく、
自分はそんなんじゃないと、心外なこともあるかもしれない。
しかし、類人猿に売り方を学ぶだけではなく、
そうしたプロセスを味わうことができるのは、
本書のもうひとつの魅力と言えるのではないだろうか。