イベントとWebによる地道なブランディングで経験価値の向上に貢献

ソニーマーケティング(株)

ソニー(株)は、2006年7月21日「α100」を発売、デジタル一眼レフカメラ市場への参入を果たした。この間、記者発表前、製品発売前、製品発売後の3段階で各チャネルを効果的に活用。製品発売後はイベントとWebを核とした継続的取り組みにより、息の長い商品のブランディングを図っている。

10年ぶりの新市場への参入 「α100」発売までの軌跡

 2006年7月21日、ソニー(株)は「α100」の発売により、デジタル一眼レフカメラ市場への参入を果たした。新しい市場への参入は、パーソナルコンピュータ「VAIO」の発売以来、実に10年ぶりのことである。
 「α100」は、本体に手ブレ補正機能が搭載された初心者向け商品だ。ブランド名の「α」はギリシア文字の1文字目から採ったもの。「始まり」または「最重要」という意味を持ち合わせており、新市場に参入する意志と、コニカミノルタの技術を継承した「αマウントシステム」に対する信頼感などを表現したとしている。シンボルカラーにはシナバー(辰砂)というオレンジ色を採用。ブランド名「α」に使われているばかりでなく、“マウントを守っていく”という思いを込めて、マウントをこの色で丸く縁取っている。
 同社が「α」を初めて発表したのは、同年4月20日のこと。その後、5月30日から広告をスタートさせ、6月6日には表参道ヒルズにて記者発表会を開催。注目のスポットで、ビルボードをはじめ、会場全体を「α」一色に埋め尽くす大々的な演出とともに初めて商品を公開したところ、参加者から大きな反響が寄せられた。翌6月7日からは、銀座ソニービルにて商品展示を開始。6月11日から約1カ月半をかけて、全国7都市での“体験イベント” を開催。商品のお披露目を経て、発売日を迎えたのだ。
 商品発売の発表から記者発表前までの間、広告やWeb上では商品の露出は一切行わず、コンセプトを伝えるにとどめた。このことが顧客の期待感を高め、同商品を紹介するWebページへのアクセス数は同社のトップページを上回る結果に。顧客の関心を惹き続けるための演出として、この期間だけでも3回ほどサイトの更新を行ったという。

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長く使い続けていただきたいという想いを込めて、マウント部分はブランド名「α」のシンボルカラーであるシナバーを採用している

実際に商品に触れてもらうイベントに5,000名以上が参加

 前述の通り、記者発表の翌日からは、実際に商品に触れてもらうために、一般ユーザー向けの公開が始まった。オープン時には100名以上が並び、初日だけでも600名が参加するほどの盛況ぶりだったという。
 マス広告は、6月8日から新聞広告、18日から提供番組でTVCM、20日から雑誌広告を展開し、一気に市場での認知度UPを狙った。量販店の売り場では、初めて取り扱う商品のため、売り場づくりや店員の勉強会などを丁寧に行った。売り場は、シンボルカラーのシナバーをふんだんに使ったPOP類を使うことで、目を惹くように工夫を凝らした。
 そして、より多くの一般ユーザーに商品の良さを確かめてもらうために、6月11日の仙台を皮切りに、札幌、東京、大阪、名古屋、福岡、広島の全国7都市にて“体験イベント”を開催。延べ10日間にわたって開催されたが、来場者総数は約5,200名に上る好結果となった。
 体験イベントでは、展示コーナーをはじめ、実際に手に取って操作するコーナー、撮影体験コーナー、写真評論家によるセミナーなどを用意したほか、「VAIO」を使った写真データの取り込みや編集、印刷など、同社ならではの取り組みも行った。コニカミノルタ時代の既存顧客からは「安心した」という声が聞かれるとともに、新規需要が見込まれるソニーファンからは「感動」や「期待」の声が寄せられ、イベントは好評のうちに幕を閉じた。

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「α」のトップページ。ハード優先タイプ/ソフト優先タイプの双方にとって魅力的なコンテンツが一覧できる

安心して使い続けてもらうための取り組み 点検イベントによるフォロー活動も

 商品発売後は、店頭でのコーナー作りに加え、Webによる情報提供とセミナー開催に継続的に取り組んでいる。デジタル一眼レフカメラは息の長い商品であるため、レンズの使い方に関する情報や撮影の楽しみ方を提供するなど、顧客に長く使い続けてもらうための働きかけを行っているというわけだ。
 ユーザーには、カメラを趣味とし、スペックや機能に詳しい“ハード優先タイプ”と、特定の撮りたいシーンがある“ソフト優先タイプ”がいるため、Web上では双方のニーズを満たすようなコンテンツを掲載している。
 例えば、「Mr.イナバーのみんなでαレッスン」は、カメラ機能を使いこなすためのノウハウ情報。アマチュアの手による初心者目線に立ったわかりやすい説明が好評で、一番人気のコンテンツだ。ほかにも、プロカメラマンの作品や、魅力的な写真の撮り方を説明するコーナーを設けるなど、幅広い層に楽しんでもらえるように工夫を凝らしている。
 セミナーは、東京、大阪、名古屋で有料にて開催。プロカメラマンを招き、「花」や「街歩き」など季節ごとのテーマを決めて撮影指導に当たる。このときのセミナー風景や、参加者が撮影した写真や感想をWeb上で公開することで、双方向性のあるコンテンツづくりを目指している。
 また、Web上に新しく掲載されたコンテンツの紹介や、セミナー案内をお知らせするメールマガジンは、開封率が30%を超えているという。通常は10%前後と言われているので、いかに顧客とのリレーションが図れているかを物語る数値だ。
 さらに、既存顧客向けのフォロー活動として、2007年2~3月にかけて「αクリニック」と題した点検イベントを、全国7都市の社屋にて実施。総来場者数は1,400名を数え、4~5時間待ちの会場が出るほどの盛況ぶりであった。参加者のうち「α100」のユーザーは30%であり、残る70%はコニタミノルタ時代の機種のユーザーだという。1名当たり20分くらいかけて行う丁寧な点検が好評であり、同社では安心して長く使ってもらうためにも、今後も継続して点検イベントを行うことを予定している。
 一方で、新機種へ寄せられる顧客の期待も大きい。2007年3月に東京ビッグサイトで開催された「PIE(Photo Imaging Expo)2007」では、新モデル2機種を参考出展した。
 これらの取り組みが評価され、「α100」はカメラグランプリ2007にて「カメラ記者クラブ特別賞」を受賞した。「α100」のブランディングに当たり、“長く使い続けるための安心感”を何よりも重視し、地道で実直なブランドづくりを心掛けたという。広告展開だけではなく、イベントやWebを通じた経験価値がブランド価値の向上に貢献したと言えるのではないだろうか。
 2006年度の販売台数は40万台。ブランドが定着するまでに3年かかると見ている同社は、今後も引き続きWebとイベントを核にマーケティング活動を行っていくとともに、展開過程において “ソニーらしさ”を打ち出して行く構えだ。

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全国7都市にて行った「αクリニック」の一場面。点検・メンテナンスを求めて多くのユーザーが殺到した


月刊『アイ・エム・プレス』2007年7月号の記事