将来のパソコン・ユーザーをモニターとして組織

日本電気(株)

将来を睨んで女性モニターを組織

 女性のパソコン・ユーザーの意見を収集するために日本電気(株)の“She-Wave プロジェクト”が発足したのは、1991 年 1 月 。
 その頃、ホームユースを前提に PC-9800 シリーズを購入する顧客のうち女性の比率は約 8 % と決して多くはなかったものの、急激に増加の 一途をたどっていた。 同社では、パソコン市場がますます拡大するためには、女性のニーズに応えた商品開発、使い方などについての説明方法を研究することが重要だと考えたのである。プロジェクトの企画・運営は、同社の女性スタッフが中心になって行われた。

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“She-Wave プロジェクト”のプレス用パンフレッ卜( 1991 年発行)

 メンバーのターゲットはオフィスでコンピュータを使っている 20代後半の女性と、家庭の主婦。 全国紙と、『マフィン』『クロワッサン』『ESSE』『レタスクラブ』などの女性誌に募集広告を掲載、計 1,400人を全国の主な支社ごとに組織した。そのうちパソコンを持っている人は約半数だった。
 この主な活動は、“映画”“旅行”などのテーマとパソコン体験を組み合わせたセミナーの開催、女性のパソコン活用事例などを掲載した機関誌 『She-Wave MAGAZINE』の発行などで、メンバーにパソコンに親しんでもらうとともに、セミナー会場や機関誌上でアンケートを実施するなどの方法で、パソコンに関する意見を収集した。
 これと並行して、同社では家計簿ソフトなどを搭載した女性用特別仕様のノート型パソコン“NT CLUB”を開発・発売している 。 1 万台の限定生産で、購入者には IDカードが発行される。購入者だけが利用できるフリーダイヤルによる 24時間 365 日のアフターサービスも実施した。店頭限定販売で価格が高かったこともあって販売は苦戦したが、当時大きな話題となった 。
 “She-Wave プロジェクト”は 1992年 12 月、 2 年間の期間を終えて解散している 。

パソコン通信を活用したモニタリング

 “She-Wave プロジェクト”実施中 の 1992年 3 月、同社は文化放送と共同で、 PC-VAN の中に、主婦にターゲットを絞ったフォーラム“文化放送ハイライフクラブ”をスタートさせている。同社の目的は、パソコンをまったく使ったことのない主婦が 1 年間でどのくらい技術を習得し、生活の中でどのように使いこなしていくかをフォローすること 。“She-Wave プロジェクト”を通して、一口に「女性」と言ってもニーズはさまざまであることが次第にはっきりわかってきた。そこで団塊世代の主婦にターゲットを絞り込むことによって、ニーズをより詳細に把握したいと考えたのだ。
 一方、文化放送には、日中の中心的なリスナ一層である主婦の声をリアルタイムで番組に反映させ、また番組への要望などを収集するという目的があった。
 開始直前の 1 カ月間に、ラジオ番組、サンケイリビング、女性誌などでメンバー募集の告知広告を行ったところ、 100人の募集枠に対して約9,000人の応募があった。応募の動機を 400字にまとめてもらい、参加意欲が強く、目的意識が明確な人を“生活特派員”として選抜。パソコンを無料で貸与し、パソコン教室を開催して使い方を説明した。その結果、 5 月までには 100人全員から 1 度はパソコン通信でアクセスがあったほど、メンバーの技術習得のスピードは速かった。
 同社ではメンバー100人に対し、月1回の割合でパソコンに関するアンケートを実施。特にパソコン購入に至るまでの心理的障壁が何であるのかについて、毎回異なる切り口から質問を投げ、コミュニケーションを繰り返すことによって本音を聞き出すことが目的であった。これによって興味ある分析結果がまとまったが、それよりさらに、このネットワークの活動そのものが確かな答えを引き出してくれた。さまざまな障壁を飛び超え、購入を決断させる決め手は、それを何に使うかという目的の明瞭さである。ユーザーはワクワクする使い方の提案を望んでいたのだ。 ここで得られたデータや同社自身の経験は、 Canbe の開発などに生かされたという。

“ハイライフクラブ”は現在も活発に活動中。会員へのアンケー 卜結果は文化放送生活情報局が発行している情報誌『あら』にも紹介されている

“ハイライフクラブ”は現在も活発に活動中。会員へのアンケー 卜結果は文化放送 生活情報局が発行している情報誌『あら』にも紹介されている

 スタートから 1 年を経たところで、メンバーを 300人に拡大。 この頃までにはパソコンの価格がかなり下がってきたこともあり、 2 年目以降からのメンバーには自分でパソコンを用意してもらい、パソコン教室への参加も有料とした。
 同社が文化放送との共同事業として“文化放送ハイライフクラブ”に関わり、自社製品についてのモニタリングを実施したのは、 1995年 2 月まで の丸 2 年間 。 同クラブには現在430人の会員がおり、活発な活動を続けている。同社は現在、これをシステム、ネットワークなどの面からバックアップしているという立場である。

パーソナルなニーズに応えるために

 同社では現在、企業イメージなどを調査するためのモニターを 1,200人、コーポレート・デザイン部が窓口になって組織しているほか、製品ごとのモニターをそれぞれの開発・営業セクションで自主的に組織している。パソコンを取り扱うパーソナルC&Cマーケティング本部では、“文化放送ハイライフクラブ”以降は特にモニター組織を持ってこなかった。
 今パソコン業界は、 Windows95の登場などによって激変の波の中にある。一方、ユーザーは数年前と比較して急拡大しており、パソコンへのニーズは多様化、細分化している。
 次にモニターを組織するとしたら、使用目的別、利用環境別などにセグメントしたユーザーとより深いコミュニケーションをとり、細かなニーズを収集することが必要なのではないかと同社では考えている。今はそのためにパイを広げる段階だ。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年4月号の記事