通信ネットワーク最前線(第40回)

イー・トレード証券(株)

1999年10月1日より、インターネット上での証券取引業務を開始したイー・トレード証券(株)。インターネットとの両輪をなすチャネルと位置付けられる、コールセンターの現状を紹介する。

米国イー・トレード社 日本上陸

 国内のインターネット人口が1,700万人に達すると言われる今日、利用者の急増に支えられて、マーケティングにおけるインターネットの活用が広がりを見せている。中でも電子商取引への参入が活発化し、とりわけインターネット上での証券取引への関心が高まっている。
 インターネットの先進国である米国では、インターネットを活用した証券取引が拡大し、オンライン・ブローカーが高収益を上げている。中でも個人投資家については、2000年までにオンライン取引の割合が50%に達するという予測が出されるなど、市場の急激な拡大が続いているという。
 米国におけるオンライン・ブローカーの最大手として知られるイー・トレード社のウェブサイトは、現在、米国だけでも155万人以上の投資家に利用されており、カナダ、オーストラリア、フランス、スウェーデン、イギリスをはじめとする世界119カ国もの国々でサービスを展開している。1998年6月には、イー・トレード社とソフトバンク(株)が日本における合弁会社 イー・トレード証券(株)を設立し、日本への参入を果たした。

e-ビジネスにおけるコールセンターの役割

 その後、イー・トレード証券(株)では日本におけるインターネット上での証券取引の開始に向けて、大沢証券(株)の全発行済株式を取得するとともに、インターネット・トレーディング・システムやコールセンターの設置など 営業基盤の構築に着手。1999年4月にコールセンターを開設し(図表1)、インターネットに先駆けて電話による取り引きをスタートした。そして、半年後の10月1日、インターネット証券取引サービスの開始に至った。
 e-ビジネスにおいて、コールセンターは必要ないと考える企業もある。しかし、イー・トレード証券(株)では、コールセンターはお客様とのコミュニケーション手段として、また、お客様の利便性を高めるために必要不可欠な要素であると確信している。
 同社がインターネットに100%頼らず、コールセンターを必要不可欠と考える理由は3つある。
 ひとつ目は、間口を広げること。従来の取引方法と言えば、フェイス・トゥ・フェイスが基本であった。いくら一般家庭にパソコンが普及したからといって、突如、顔が見えないインターネットに転換することは難しい。前述の通り、 現在、国内のインターネット人口は1,700万人と言われているが、マーケットとして捉えた場合、その規模はまだまだ小さいと言えよう。さらにこの限られたマーケットで、株式や投資信託を購入する個人投資家の割合を考えると、その規模がさらに小さくなることは容易に想像できる。そこでコールセンターを設けることにより、パソコンを持っていない層やパソコンが苦手な層、あるいはインターネットに接続していない層にまで取り引きを広げようというのがその狙いだ。
 2つ目は、取り引きの機会を逃さないこと。お客様は常にパソコンに向かっているわけではない。たとえば、旅行中や街を歩いている時に相場の変動を知り、取り引きをしたいと思うこともあるだろう。そのような場合でも、電話さえあれば取り引きを行うことができるわけだ。
 3つ目は、お客様に安価な手数料でサービスを提供すること。営業スタッフを雇用するために必要なコストとコールセンターの運営に必要なコストを比較すると、後者の方が遥かに低いからである。
 同社では、インターネットを巧みに使いこなして投資を行う個人投資家が主流になるまでは、コールセンターをインターネットとの両輪をなす不可欠なチャネルとして、機能させていく意向。コールセンターにスポットを当てた広告を出稿するなどして、これを積極的にアピールしていく意向だ(資料1)。

【図表1】コールセンター・システム概念図 (資料1)コールセンターの告知を目的とした新聞広告。電話でも取り引きできることが強調されている(資料出所:1999年12月7日付日本経済新聞)

(資料1)コールセンターの告知を目的とした新聞広告。電話でも取り引きできることが強調されている(資料出所:1999年12月7日付日本経済新聞)

オペレーターの過半数は外務員資格保持者

 同社のコールセンターは埼玉県熊谷市にあり、ここ1カ所で全国からの電話を受け付けている。同社では、「各種資料請求」「その他問い合わせ」「注文」「入出金等取引に関する問い合わせ」についてはオペレーターが対応に当たり、「新規口座開設申込書の請求」「新規公開株式、その他の売り出しに関するブックビルディングの申し込み」「ファックスBOXによる要約仮目論見書請求」については24時間自動音声応答ダイヤルで受け付けている。
 オペレーターの受付窓口にはNTTのフリーダイヤルを導入。番号は0120-104214(トーシニイーヨ)と語呂がよく覚えやすい。導入の理由は、お客様の負担を軽減すること。通話料金を気にせず、問い合わせや取り引きを促進する環境を整えることが目的であった。他の通信会社の同様のサービスにくらべ、1番号につき400回線まで利用可能と、回線のキャパシティが大きいことも理由のひとつであったという。
 また、近年、普及が激増した携帯電話やPHSからは、一般加入回線番号で受け付けている。
 受付時間帯は、8時から18時まで。土・日・祝日と年末年始は休業となっている。受け付けに当たるのは約150名のオペレーター。その過半数は外務員資格保持者で、「注文」と「入出金等取引に関する問い合わせ」については外務員資格をもったオペレーターが対応に当たっている。用件を問わず入り口はすべて自動音声応答装置で受け付けており、お客様がガイダンスに従って希望する用件の番号を入力するだけで、用件に最適なオペレーターにつながる仕組み。オペレーターを用件別にグループ分けして対応することによって、迅速、かつ的確なオペレーションを実現し、顧客満足度の向上に努めているという。
 一方、自動音声応答システムの受付窓口にはKDDフリーフォンを利用している。番号は0070-800-104214。こちらもトーシニイーヨで統一されている。
 ライブオペレーションと自動音声応答システムの受付窓口を分けている理由は2つある。ひとつ目は、ひとつの番号で最大限の回線数を確保するためである。受付窓口をひとつにすると、トータルな回線数の中でそれぞれに割り当てる回線数を決定することになるため、回線数が限定されるのだ。2つ目には、コールセンターとIVRが別の場所にあるため、コールセンターとIVR間を専用線で結ぶとコストが発生するからである。
 これら受付窓口の告知媒体には、新聞広告、雑誌広告、各種パンフレット、口座開設者全員に送るスターターキットの中にある切り取って携帯できるカードなどを活用。フリーダイヤル番号についてはホームページでも告知している(資料2)。

(資料2)イー・トレード証券(株)のホームページ画面

(資料2)イー・トレード証券(株)のホームページ画面

(資料3)資料請求者に送られる口座開設キット。「サービス内容のご案内」「取扱投資信託一覧」「約款・規程集」「申込書」など口座開設に必要な書類一式がセットになっている

(資料3)資料請求者に送られる口座開設キット。「サービス内容のご案内」「取扱投資信託一覧」「約款・規程集」「申込書」 など口座開設に必要な書類一式がセットになっている)

人材育成が生産性向上の鍵

 同社では、各種の緻密なマニュアルを用意し、ひとりのオペレーターがあらゆる問い合わせに対応できるよう、教育に取り組んでいる。現在、外務員資格をもったオペレーターについては、取り引き以外の簡単な問い合わせから、株価、売買の注文、インターネット上での取り引きに関する問い合わせまで、すべての問い合わせに対応できるようになっているという。
 日本全国からコールセンターに寄せられる1日のコール数は、少ない時で数千件、多い時には数万件におよぶ。大量のコールが寄せられるのは、注目株の新規公開時や広告出稿直後などで、これらはあらかじめ予測することができる。このように、類似のコールが一時的に急増する場合には、他のグループのオペレーターをコールが集中するグループにまわすことで対応。予測コール数に基づいたフレキシブルな対応は、オペレーターの稼働率を高め、生産性の向上につながっているという。
 また、投資家保護の観点から、1998年12月より、営業店以外でコンサルティングや有価証券の販売を行う者に加えて、コールセンターや営業店内で窓口業務を行う者にも証券外務員資格の取得が求められるようになった。同社では、 外務員資格をもっていないオペレーターには、社内で外務員資格取得を目的とした研修を実施し、外務員資格取得に積極的に取り組んでいる。社内で研修を受け、外務員資格を取得したオペレーターは、同社に対する愛着がより一層強まるのはもちろん、企業理念や方針に対する理解が深まるはずである。同社では、一から教育して育て上げたオペレーターを、トレーナーとして新たな人材の教育に携わらせることで、同社に適した人材を育成するための良い循環を作っていきたいとしている。

総合的なサービス提供の実現を目指して

 今後同社では、サービス面、システム面ともに充実を図り、サービス・レベルの向上に努めたいとしている。そこで、良い手本となるのが米国イー・トレード社である。
 米国イー・トレード社では、日本のそれよりはるかに優れた音声認識装置を活用して、株価の照会などもシステムで対応することにより、受付業務の生産性を向上させているという。日本でもこれと同様の技術を取り入れて、システム面でのレベル・アップを図る意向。また、サービス面では、投資相談の充実を目指している。
 ソフトバンク・グループのインターネット金融会社はイー・トレード証券(株)のほかに、保険商品の検索や比較情報の提供を行う「iNSWEB」やファイナンシャル・プランニングを行う「e*advisor」などがある。これらを含むすべてのインターネット金融会社の司令塔を担うソフトバンク・ファイナンス(株)では、コールセンターの将来的な展望として、イー・トレード証券(株)のみならず、グループのすべてのインターネット金融会社の統合的なコールセンタ ーの構築に向けて、歩みを進めていきたいとしている。つまり、お客様に金融に関する総合的なサービスをワンストップで提供することを目指しているのだ。そのためにも、まずはイー・トレード証券(株)のコールセンターにおけるサービスの確立が急務となっていると言えるだろう。

埼玉県熊谷市にあるコールセンターのオペレーション風景

埼玉県熊谷市にあるコールセンターのオペレーション風景


月刊『アイ・エム・プレス』2000年1月号の記事