通信ネットワーク最前線(第21回) 

AT&T Jens(株) 

今、通話料金が安いことで注目を集めているインターネット電話。AT&T Jens(株)が提供するインターネット電話サービス「AT&T @phone」について話を聞いた。

独自の環境を利用したインターネット電話サービスを開始

 AT&T Jens(ジェンズ)(株)は1984年、米国AT&T社と大手日本企業25社との合併により設立されたグローバル通信企業。日本初の商用インターネット・サービス・プロバイダーとして1992年11月に商用インターネット・サービス「S p i n 」( 現「AT&T ワールドネット・MIS」)を開始し、AT&Tインターネット・バックボーンを利用して、世界各国へ直接接続を行っている。1997年12月には、個人ユーザーを対象としたインターネット接続サービス「AT&Tワールドネット・サービス」を開始。現在、この加入者数は世界で約100万人に上る。
 同社が提供するインターネット・サービスは、これまで①専用接続線やダイヤルアップIP接続といった“接続サービス”、②「専用線の帯域を有効に使いたい」「ダイヤルアップでもウェブで情報発信がしたい」などのお客様の要望に応える“ホスティングサービス”、③ゲートウェイマシンの設定・設置、ファイアウォールの構築サービスなどインターネット接続の際の難問を引き受ける“プロフェッショナルサービス”の大きく3つであったが、さらなるサービス内容の拡充を図るため、1997年8月4日よりインターネット電話サービス「AT&T @phone」の提供を開始した。
 発表当初、同サービスを提供できる体制は整っていたが、当時はインターネット国際電話に対して郵政省の認可がおりていなかったため、課金することができなかった。そこで同社では、まず8月中の申込者に対しては、当月使用の国際電話に限り、30分間無料サービスを実施することで対応。郵政省の認可がおりた翌日の8月27日より課金を開始した。
 現在、インターネット電話サービスを提供する、もしくは関連機器を提供する事業者は数10社あるが、サービスの位置付けは事業者によって異なる。コモンキャリアなどでは「従来より安い通話料金の電話サービス」ととらえられ、インターネット事業を中心に行っている事業者などでは「インターネットサービスのひとつ」と位置付けているケースが多いようだ。ちなみに、インターネット・サービス・プロバイダーである同社のインターネット電話サービスの位置付けは後者である。

サービスの概要

 「AT&T @phone」は、パソコンやモデムなど専用機器を一切使用せずに、通常の電話と同様に国際・国内電話が利用できるインターネット電話サービスである。同サービスの特徴は2つ。ひとつ目は、独自のインターネット・バックボーンを使用しているため信頼性が高く、また、パケットロスや遅延を最小限に防ぐことができるため、通常の電話回線を使用した通話と同じくらい音声品質に優れていること。2つ目は、独自のインターネット・バックボーンを通って通常の電話回線に接続されるため、通話料金を低く抑えられることである。通話料金は1分課金制で、たとえば日本からアメリカへかけた場合が33円、イギリスへは45円、香港へは80円、オーストラリアへは50円、東京-大阪間は23円となっている。日本からアメリカへかけた場合のKDDの通話料金は3分450円。東京-大阪間のNTTの通話料金は3分110円であるから、これと比較すると、アメリカへは78%、東京-大阪間の通話は37%安い。また「AT&T ワールドネット・サービス」の会員には10%の割引を実施しているため、さらに通話料が安くなる。
 サービスの対象は個人と法人の両方。個人の場合は日本国内に住んでおり、クレジットカードによる決済が可能なことが条件となっている。個人、法人ともに加入料、および月々の基本料金はかからない。
 サービスエリアは、国際電話はアメリカ、ヨーロッパをはじめとする36カ国、国内電話は東京(03)、大阪(06)の2局よりスタート。10月には、サービス地域の拡大を図り、日本発信の国際電話の中でも特にニーズの高いアジア地域6カ国(インド、インドネシア、フィリピン、タイ、ベトナム、マカオ)を含む20カ国を追加した。続いて98年5月中旬にもサービス地域を拡大し、現在では、国際電話は110カ国、国内電話は東京(03)、横浜(045)、大阪(06)、広島(082)、福岡(092)の5地域に電話をかけることができるようになった。
 申込方法は、カスタマーサポートセンターに資料を請求するか、FAXからカスタマーサポートセンターの電話番号をダイヤルし、加入申込用紙を取り出して必要事項を記入した上で郵送、またはFAXで送る。申込手続き終了後、サービスを利用するために必要な10桁のID番号と4桁のパスワードが発行されるが、これはセキュリティ保護のため郵送で届けられる。
 サービスの告知には国内外の新聞・雑誌などを活用している。広告の出稿頻度は1カ月当たり約6回。インターネット利用者がインターネット電話のターゲットであるとは限らないため、告知媒体の選択やどのようなマーケティングを行っていくかが課題となっている。

中面が申込用紙になっている「AT&T@phone」のリーフレット

中面が申込用紙になっている「AT&T@phone」のリーフレット


アクセスポイントまでフリーダイヤルを導入

 「AT&T @phone」を利用する際は、まず同社のアクセス番号に電話をする。アナウンスにしたがい、ID番号、パスワードを入力した後、国際電話の場合は国番号-市外局番-電話番号-#を、国内電話の場合は市外局番-電話番号-#を入力するだけと、いたって簡単。公衆電話やPHS、携帯電話からもかけることができる。
 お客様がかけた電話はまず、通常の公衆回線網を通り、東京、横浜、名古屋、大阪、広島、福岡に設けたアクセスポイントを経由してAT&Tのネットワークに入る。ここで音声情報はパケット形式に変換され、インターネット・バックボーンを通り、相手先の最寄りのアクセスポイントまで中継され、再び通常の電話回線を利用して通話先につながる(図表1)。

【図表1】「AT&T @phone」のしくみ

 同社では、このアクセス番号にフリーダイヤルを導入。一部の地域に限ってではあるが、お客様からアクセスポイントまでの通話料金を負担している。フリーダイヤルサービス提供地域は関東エリアの13局、中部エリアの16局、関西エリアの14局、中国エリアの13局、九州エリアの16局。フリーダイヤルの付加サービス「全国共通番号サービス」を利用し、発信地域から一番近いアクセスポイントを経由する仕組みになっている。フリーダイヤルのサービス地域以外から発信する場合は、一般加入回線のアクセス番号を利用。フリーダイヤルサービス地域からでも、PHSや携帯電話からはフリーダイヤルを利用することができないので、一般加入回線のアクセス番号を利用する。
 インターネット電話サービスには、情報をバラして小包(パケット)にする技術、効率良く送る技術、バラバラにしたものを復元する技術が活用されている。これらの技術によって通常の電話の約5倍の音声情報を効率良く伝送できるため、その分をお客様に低料金やフリーダイヤルの導入といったかたちで還元できるのだという。

「ナンバー・ディスプレイ」の効果的な活用により利便性を向上

 同社では1998年3月20日より「AT&T @phone」の利便性向上を目的に、個人ユーザー向け新サービス「スマートダイヤルプラン」を開始した。同サービスは、NTTの新サービス「ナンバー・ディスプレイ(発信電話番号表示サービス)」を活用したサービスである。従来のID番号とパスワードの代わりに、発信電話番号情報によって瞬時にお客様の確認ができるため、アクセス番号に続けて相手先の電話番号をダイヤルするだけで会話ができるという仕組みだ。サービスを利用するためには、公衆電話、PHS、携帯電話を除く、自宅などの発信者番号を登録するだけでいい。ただし、登録した電話番号が「ナンバー・ディスプレイ」サービスの「回線ごと非通知」を選択している場合には、アクセス番号の前に「186」をダイヤルして番号を通知する必要がある。
 新規、および既存の「AT&T@phone」ユーザーの申し込みは、初回登録のみ無料。それ以降の変更に対しては、1回につき200円の登録内容変更料が発生する。

申し込みなしで利用できるプリペイドカードを発行

 「AT&T @phone」の利用方法はさまざまだ。法人では、たとえば東京-大阪間に専用線を引くよりも、このサービスを利用したほうが安いため、本支店間の連絡用として国内通話のみで利用していたり、世界各地に工場を持つ製造業などが業務連絡のために利用するケースもある。個人では、海外に滞在する家族のいる家庭が利用しているケースが多い。また、祖国の家族へ電話をするために在日外国人が利用している場合もある。
 個人の場合、クレジットカードでの決済が可能なことが加入の条件。しかし、外国人などではそれが不可能な場合が多い。そこで同社では、1998年5月13日より、クレジットカード決済ができない外国人やあまり頻繁に国際電話を利用しない人のために、契約なしで利用できるプリペイドカード「AT&T@phone Card」を発売した。カードの種類は、1,000円、3,000円、5,000円の3種類。1,000円には50円、3,000円には200円、5,000円には400円のプレミアムが付いている。このカードは、通信販売、および全国のLAWSONの店頭で販売している。
 通信販売の申し込みには、日本全国からかけられる専用のフリーダイヤル番号を設け、月~金曜日の午前10時から午後10時まで受け付けている。購入は1枚から可能。合計購入金額が8,000円以上の場合、送料は無料。それ以下の場合は、4枚までは330円、4枚以上は340円の送料がかかる。申し込みをした翌日、または翌々日にはカードが届けられるという。
 カードの利用方法は、カードの裏面に記載されているアクセス番号(NCCの「フリーコール」を利用)にかけ、アナウンスにしたがって10桁のID番号と4桁のパスワードを入力。国際電話の場合は、国番号-市外局番-電話番号-#を入力、国内電話の場合は市外局番からダイヤルすればいい。ID番号とパスワードはカードごとに付けられており、本人の手元に届く前に他人に知られないよう、スクラッチ式になっている。銀色の部分をコインなどで削るとID番号とパスワードが表れる仕組みだ。公衆電話から利用する場合ははじめに硬貨かテレホンカードが必要だが、通話料はかからない。この場合も、PHSや携帯電話からは一般加入回線のアクセス番号を利用することになる。
 「AT&T @phone Card」の告知には、「AT&T @phone」と同様に国内外の新聞・雑誌のほか、ポスター、リーフレット、FMラジオ、LAWSONの店頭POPなどを効果的に利用している。
 同社では、フリーダイヤルによる「AT&T Jens カスタマーサポートセンター」を設け、購入方法や利用方法など「AT&T@phone Card」についての詳しいお問い合わせを受け付けている。受付時間帯は午前9時から午後11時まで。年中無休で対応している。
 また現在、同社では、募集専用ダイヤルを設けて「AT&T@phone Card」取扱代理店を募集中。販売チャネルの増加にともなって、すぐに利用したい人、旅行者など短期滞在の外国人の間に普及していくものと同社では期待している。

申込手続きなしでインターネット電話が利用できる「AT&T @phone Card」

申込手続きなしでインターネット電話が利用できる「AT&T @phone Card」


今後の展望

 今後同社では、国内のアクセスポイントを増設することで、通話できる地域を拡大する意向だ。また、フリーダイヤルサービス提供地域も拡大したいとしている。そうなれば、国際電話におけるインターネット電話のシェアばかりか、国内通話におけるインターネット電話のシェアも増えていくと考えられる。
 インターネット電話は、2000年には国際電話市場の20%を占めるとも言われているが、決して従来のタイプの国際電話がなくなることはないだろう。お互いが刺激し合うことによって、サービス内容や利用方法が改善され、全体の利用件数が伸びていくのではないかと同社は考えている。
 1996年後半には、インターネット電話はボイス・オーバー・インターネット、もしくはインターネット・テレフォニーと呼ばれていた。当時はパソコン同士で、あるいはパソコンと通常の電話機で会話をするシステムで、“パソコンやモデムを介さずにインターネット電話が使えるはずがない”というのが一般的な考えであったというから、情報通信技術の進歩のスピードがどれだけ速いかがわかるだろう。2000年には、インターネットが通信の主流である世界が誕生しているのだろうか。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年6月号の記事