Famiee 代表理事 内山幸樹氏インタビュー
ブロックチェーンによるソーシャルグッドの実現
後編:技術とサービスプロセスの両面からWeb3.0型の社会変革に挑戦

2022年5月17日
月刊『アイ・エム・プレス』誌上でWeb2.0時代の旗振り役としてご活躍いただいたキーパーソンのお一人、ホットリンク代表取締役グループCEO 内山 幸樹さんは、今ではホットリンクを経営する傍ら、「多様な家族形態が当たり前のように認められる社会の実現」をビジョンとする非営利団体、Famieeを立ち上げ、Web3.0を活用した社会変革に取り組まれています。そこで当サイトでは2022年3月、内山さんに久しぶりにインタビューにご協力いただきました。以下はその後編ですが、まだ前編をお読みいただいていないという方は、こちらからご覧ください。

ステイクホルダーの貢献をフェアに認めるWeb3.0の世界

――内山さんはWeb2.0の時代に、ソーシャルリスニングを次世代のCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)として提唱されていましたが、それからさらに10数年を経た今日、Web3.0が時代のキーワードになっています。Web1.0、2.0と比較の上で、内山さんなりに簡単にWeb3.0をご説明いただけますか?
内山:Web1.0の時代には、情報を発信できるのはWebサーバを立ち上げられる人、HTMLを書ける人だけで、その他大勢は情報を受信するだけでした。そしてWeb2.0の時代になると、facebookやTwitterといったプラットフォーマーが台頭することで、ユーザーは情報を受信するだけではなく、発信することもできるようになったのです。しかしこの結果、中央のプラットフォーマーが多くの情報を握るようになり、プライバシーの侵害や世論操作が取り沙汰されるようになりました。そこで今度は、プラットフォーマーがいなくてもユーザーが情報を受発信できる分散型のインターネットの仕組みが求められるようになり、Web3.0が登場したのです。

Web3.0は分散型で情報の受発信ができることに加えて、トークン・エコノミクスと呼ばれるユーザーにも利益を還元できる仕組みを備えているところが、Web2.0との大きな違いだと思います。従来のWeb2.0だと、僕たちが例えばfacebookに投稿したり、友達を招待したりしても、サービス規模が拡大した時に儲かるのはfacebookだけで、ユーザーには利益の還元はありません。ところがWeb3.0では、ユーザーがこれらのアクションを行った時にトークンを分け与えることで、サービス規模が拡大した時にみんなに利益が還元されるというところが大きな違いだと思います。

従来のWeb2.0の世界では——資本主義と言っても良いかもしれませんが、お金を出した人が偉かった。だから投資家など一部の人がお金をごそっと持っていきました。ところがWeb3.0においては、お金以外の貢献も含めたフェアな判断ができるようになりました。お金を出した人も貢献だけど、投稿してくれるユーザーも、ユーザーを呼んできてくれるパートナーも、みんな貢献してくれている。僕はそういう人たちの貢献をフェアに認めようというのが、Web3.0の大きな考え方だと思っています。つまり、ユーザーが利用するだけではなく、一緒に作っていくというのがWeb3.0の考え方です。

――具体例を挙げていただけますか?
内山:例えば通貨を作ろうという時に、従来からの中央集権型の社会変革では、国が“この通貨には価値がある”とお墨付きを与えるから価値が生じるわけです。ところがWeb3.0型の社会変革では、普通はデジタルなデータである仮想通貨に価値があるとは思わないのに、これに価値があると思う人たちが勝手にコンピュータを繋ぎ始め、世界政府なんて存在しないにもかかわらず、いつの間にか世界通貨に相当する通貨ができてしまった。つまり、ビジョンありきで、ビジョンを信じる人たちが集まることによって社会変革が草の根的に起きてくるのです。

これをFamieeに当てはめてみると、同性カップルも家族として認める法律を作るというのが中央集権型の社会変革であるのに対して、Famieeが取り組んでいるのはWeb3.0型の社会変革です。Famieeの活動を通して、同性カップルを家族として認めても良いという自治体や企業がどんどん増えていって、いつの間にか社会が変わっているという草の根的な変革を目指しているわけです。

Web3.0はマーケティングにどんなインパクトを与えるのか

――マーケティングという観点から見ると、Web3.0によりどのような課題解決が期待できるでしょうか?
内山:従来は企業が商品・サービスを作り、お客さまに販売していました。これは企業が勝手に商品・サービスを作ってお客さまに使っていただく、という意味で中央集権的です。これがWeb3.0では、企業がお客さまと一緒に商品・サービスを作っていくので、サービスができた時には既にお客さまが顕在化しています。Web2.0時代にもCRMの一環として、ファンと一緒に商品・サービスを開発しようという動きはありました。当時はまだ大きなムーブメントにはなっていませんでしたが、これを加速するのがWeb3.0なのです。

以前は中心にいるのは企業で、お客さまは単に貢献するだけでした。これに対してWeb3.0では、企業もお客さまも一緒になってプロジェクトを推進する仲間であり、そのプロジェクトから派生したインセンティブをお互いにシェアしていく。企業が儲かるだけではなく、ユーザーも儲かる仕組みが組み込めるので、Web2.0の時代にはできなかったファン・マーケティングを実現できる可能性があると思っています。

――最近ではCX(Customer Experience)はEX(Employee Experience)からなどと言われ、企業が従業員のウェルビーイングにどのように貢献できるかが問われていますが、従業員との関係性という点から見ると、Web3.0によりどのような課題解決が期待できますか?
内山:これまでの企業組織においては、社員はあくまでも従業員でした。事業を通して獲得した収益はあくまでも企業のものであり、社員は企業から給与をもらうという関係にありました。これがWeb3.0の時代になると、従業員を初めとするプロジェクトへの参加者はある意味、株主のようになります。
Famieeに当てはめて考えてみると、まず顧客との関係性では、Famieeは利用企業と一緒になってサービスを開発していきます。また従業員との関係性では、Famieeのスタッフは皆それぞれに本業を持っていて、副業的にFamieeにかかわっているのですが、“多様な家族形態が当たり前のように認められる社会を実現する”というビジョンの実現に貢献したいという人たちが次々に入ってくるという意味では、一般社団法人という法人格はあるものの中心がありません。そうした意味で、Famieeはブロックチェーンというテクノロジーもさることながら、サービスを構築するプロセスにおいても、極めてWeb3.0的だと言えるでしょう。

――Famieeが掲げるビジョンに基づき社会をよくしたいという思いで、この指止まれ的に仲間が集まってくる。最初はプロボノかもしれないけれど、十分な成果が得られた暁には、ストック・オプション的に皆でその収益をシェアしていくということですか?
内山Famieeは、現状では収益モデルがないのですが、これは世界の家族の概念をアップデートするサービスだけに、世の中に大きな経済効果をもたらすはずです。そして将来、Famieeが社会で認められるようになった時、それまでに貢献した人たちが何らかの経済的なインセンティブがもらえるような仕組をWeb3.0の技術により構築できたら良いと思っています。これが今注目の、DAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自立組織)という形態なんです。
Famieeの将来ビジョンを熱く語る内山さん
Famieeの将来ビジョンを熱く語る内山さん

――DAOについて、簡単にご説明いただけますか?
内山:従来の株式会社においては株式によりガバナンスや利益配分がなされていましたが、DAOにおいてはトークンを発行してこれらを行います。株式の場合は各国の法律があることから、異なる国の人にストック・オプションを割り当てるのはものすごく大変です。しかし、トークンの場合には国境を越えて世界中の人たちに簡単に割り当てることができるので、グローバルな組織を作りやすいと思います。また、一般的にスタートアップが株式上場するのに10年ぐらい掛かるのですが、トークンであればだいたい2年ぐらいで(仮想通貨取引所に)上場できたりします。

Web3.0による草の根的な社会変革を目指して

――ホットリンクを経営される傍らでFamieeを設立し、DAO的な組織の実現を目指す内山さんですが、これを実現する上での課題と今後の計画についてお聞かせください。
内山:最大の課題は資金調達ですね。Famieeは利用企業の要望から非営利団体の形式を採っているので、収益モデルがありません。またスタッフも先ほどお話したように本業を別に抱えているので、スケジュールのコミットメントが難しいですね。企業に説明するとなると基本的には9時~17時なので、これを自由に使える人は限られています。となると専任のスタッフが欲しいところですが、これにも資金が必要です。

2つ目の課題としては、利用企業のコミットメントが挙げられます。世の中に社会変革を起こすとなると、自分たちだけでこれを実現するのは難しいです。そこで単に自社のサービス提供対象者としてFamieeのパートナーシップ証明書保有者を受け入れるだけではなく、自社の従業員や顧客を対象にその旨をPRするなど、Famieeを広げるための活動を推進してくださるところが増えていくことが大切ですね。

――今後はさまざまな家族形態を視野に入れて行かれるのですね。
内山:これまでは同姓のパートナーシップ証明書のみを手がけていましたが、今後は異性を含めたパートナーシップ証明書の発行に着手します。同性の場合はそもそも婚姻制度がないのでFamieeの証明書で代替していた側面があるわけですが、異性の場合は婚姻制度があるという中、なぜそれに異論を挟む人たちに対応しなくてはならないのかということにもなりかねません。こうした中、その壁を乗り越えていくのが次のステップですね。

Famieeが目指すのは多様な家族形態です。多様な家族形態には同性パートナーのみならず、夫婦別姓を貫きたい方とか、事実婚を貫きたい方などさまざまな形があります。さらに究極的には、シングルマザー同士で助け合って共同生活を営みたいといったニーズもあるのですが、この場合は愛情や性的な関係ではなく、信頼に基づき人生を共に歩んでいくパートナーという形になります。彼らも法律上、家族として認められないだけに、お互いの収入を合算して住宅ローンを一緒に借りることができないなど、さまざまな問題を抱えているのです。

世の中では家族の概念がどんどん広がってきています。しかし、国は同性パートナーひとつをとってもかなりの時間を要しているので、さまざまな家族形態に即した法律を作ると言ってもとても追いつかないでしょう。そこで、さまざまな家族のカタチを認めていこうというビジョンに共感する人たちで社会を変えていく。つまり、思いのある人たちが行動を起こせば、法律を変えなくても世の中を変えることができるというのがFamieeの哲学であり、これに則って、結婚とか家族の概念を拡張していきたいと思っています。

しかし、どれが正しい家族のカタチかとか、どこまで家族として受け入れるべきかとかは、国が決めるべきものでなければ、ましてやFamieeが決めるべきものではないと思います。今後、Famieeはいろいろな証明書を発行してきますので、それに対して企業はうちの会社はここまでを家族として認めるとか、こういう人たち向けの証明書を受け入れるとかを選択していけば良い。そのための選択肢を与えるのがFamieeの役割であって、それが多様性を包含する社会のカタチだと思っています。

――将来的にFamieeの証明書を国が導入することになる可能性についてどう思われますか?
内山:ありうると思います。実際に宮崎県日南市とか、千葉県の市川市では、Famieeが発行したパートナーシップ証明書を自治体が発行した証明書と同等に取り扱っています。ですから将来的には、Famieeが発行した証明書のうちこの証明書の取得者には扶養控除を適用するとか、法定相続人として認めるといったことが起こり得るのではないかと思っています。

――ホットリンクに続く内山さんの新たな挑戦であるFamieeは、まさにWeb3.0時代のイノベーターですね。これによりホットリンクとはまた異なる角度から、“ホッとする”世の中の実現が促進されることを願ってやみません。そして私も微力ながら、お手伝いさせていただきますね。今日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。

前編:ホットリンクのその後からFamieeの設立まで