昨晩、会社の帰りに、久しぶりに地元の焼鳥屋に行った。
昨晩と言っても、12時を過ぎていたので、厳密に言えば今朝のことだ。
仕事で遅くなったときに、食事かたがた立ち寄る店が数件あるが、
これはそのうちの1件。月に1~2回は足を運んでいると思う。
商店街にあるその店の前に行くと、こともあろうに、
その焼鳥屋の隣に、新しい焼鳥屋ができていた。
私の馴染みの店の朽ちかけたような赤提灯の隣に、
まっさらのピカピカの提灯がぶら下がっていたのだ。
店に入るなり、「隣にも焼鳥屋を出したの?」と一言。
飲み屋でこういうオヤジ臭いことを言うのは私の得意技(?)だ。
店内にいた数人の客がいっせいに私のほうに目を向けた。
一瞬の間を置いて、店の女将が料理の手を休めて私のほうを向き、
そもそも寿司屋だった隣の店が焼鳥屋に転業したのだと答えた。
えーっ?? 寿司屋が焼鳥屋になった? そんなのアリ?
私にとっては寿司屋は寿司屋だし焼鳥屋は焼鳥屋。
そんなに簡単に転業されても困る。そう思いつつも理由を尋ねると、
どうやら寿司職人が独立し、寿司の握り手がいなくなったので、
焼鳥屋にしたらしい、と(行きつけの方の)焼鳥屋が言う。
しかし、「寿司職人がいなくなったから焼鳥屋」という、
さながら「でもしか先生」のようなことを同業の焼鳥屋に言われると、
こちらは妙に緊張し、(寿司ではなく)焼鳥の側に立って、
そのプロフェッショナリズムについて、
一家言を呈さなくてはならないような気分になる。
モジモジしている私を尻目に、女将はさらに話を続ける。
隣の店は、大昔は焼鳥屋だったのが、途中から割烹になって、
それから寿司屋になって、また焼鳥屋になったの。
えっ? 酒が回ってきたこともあり、私の頭はだんだん混乱して、
女将の話に付いていくのが煩わしくなってきた。
そこで話題を変えようと、女将の長い話に割って入った。
でも、隣に同業の焼鳥屋ができるなんて、嫌でしょう?
すると、女将は答えた。でも、お隣も長い間やっているので、
お隣にはお隣のお客様が付いていらっしゃるから・・・。
語尾は濁していたが、要はお互いに常連客がいるので、
特に客を取り合うこともないと言いたげだ。
でも、そこで私は再びハタと考える。
この店を私が訪れるのは、月に1~2回。上得意とは言えないものの、
常連の末席ぐらいには入れてもらえるだろう。
しかし、だからと言って、ある日突然、
この焼鳥屋が寿司屋になったら、それでも私は常連であり続けるか?
・・・・どう考えても、答えはNOだ。
そこはやっぱり、朽ち果てそうな赤提灯の下がったこの店で、
長年の油が染み付いたようなカウンターに止まり、
店内にモクモクと立ち上る煙や、手際よく焼鳥を焼く女将を見ながら、
焼鳥を頬張り、杯を傾けるのが好きなのであって、
ある日突然、寿司屋になられても困るのだ。
洗いものをしながら、つぶやくように女将が言った。
隣の店は25年間にもわたって、うちの焼鳥が煙い、煙いと
文句を言い続けてきたのに、焼鳥屋さんになるなんて・・・。
私は、思わず笑いながらも確信した。
この店は25年間にもわたり焼鳥屋であり続けてきたわけだし、
今後も間違っても寿司屋にはならず、焼鳥屋であり続けるだろう。
焼鳥屋は焼鳥屋
2005年2月26日