ダイレクトマーケティング市場のリーダーは?

2010年8月29日

私は前職である市場調査会社勤務時代から、
通販企業へのヒアリングや、通販市場の調査を行ってきた。
あれから30年を経た今日、通販市場にはネットの大波が押し寄せ、
その風景は大きく変わっているかに見える。
確かに通販などダイレクトマーケティングに用いられるメディアは、
4マス(TV、ラジオ、新聞、雑誌)やカタログなどのアナログから、
インターネットを中心とするデジタルへと大きくシフトし、
今や通販売上高の大半がネットによりもたらされている。
しかし、その上で繰り広げられるマーケティング努力、
すなわち顧客づくりへの取り組みにおいては、
ある意味、同じような試行錯誤が繰り返されている気がしてならない。
今日も、弊誌の校閲をしていると、ネット通販にさえ参入すれば儲かる
という時代はとうの昔に終わった、という表現が目に付いたが、
30年前には「ネット通販」が「カタログ通販」だっただけで、
当時の事情通たちの間でも同じことが取り沙汰されていた。
新たな販売方法が登場するや、各社がこぞって参入するので、
その新たな販売方法はあっという間に当たり前になるし、
そもそも“誰に”“何を”というビジネスの基本が伴わなければ、
“儲かり続ける”ワケなどないのだ。
ネット広告に効率を求めすぎると、新規顧客開拓に自ずと限界が生じる。
次号に掲載する原稿のこんな指摘を目にして思い出したのは、
マス媒体により通販カタログの請求を訴求する時に
カタログ代を有料・無料のいずれとするのが良いかという議論である。
有料にすれば高い転換率が見込めるものの獲得できる見込客の数に限界があるし、
無料にすれば大量の見込客が獲得できるものの転換率は低くなる。
いずれも、獲得する見込客の量と質のバランスをどうするかという問題だ。
また、弊誌の今年の読者アンケートでは、CRM関心層が久しぶりに増大した。
これは長引く不況の影響や、ネット上での競争の激化を受けて、
ネット通販各社がCRMへの関心を高めている証かもしれない。
が、そもそも通販において最もCPOが高いのは既存顧客であり、
その生涯価値の向上が重要な課題であることは、
カタログかネットかというメディアの違いにはかかわらない。
このように考えていくと、“カタログ”が“インターネット”に置き換わっただけで、
同じような試行錯誤を繰り返しているような気がするのは、
古くからのダイレクトマーケティング界の住民に共通する感覚だと思う。
しかし一方で、双方のメディアには、大きな違いがあるのもまた事実である。
それはつまり、顧客や見込客の行動や意見が低コストで、
かつ、スピーディにトラッキングできるということだ。
カタログ通販時代には、トラッキング可能な顧客の行動は、
購買やカタログ請求、問い合わせ・クレームなどに限られており、
その他の行動を知りたいとなれば、市場調査を行う以外に手だてがなかった。
しかし今では、Web上の行動をトラッキングすることで、
見込客の興味や購買動機・非購買動機を探ることができるし、
ソーシャルメディアを通して、広く生活者の意見を知ることも可能になった。
かつて、ダイレクトマーケティングは、
DB上に蓄積された過去の顧客データを参照するという意味で、
バックミラーを見ながら運転しているようなものと評されることがあった。
顧客が変化するものである以上、バックミラーばかり見ていたのでは、
ビジネスは勢い、縮小再生産に向かうというのがその心であり、
これはある意味、ダイレクトマーケティングの限界を言い当てていたと言える。
しかし昨今では、インターネットが進展し、
Web上の行動をトラッキングできるようになったことで、
ダイレクトマーケティングには新たな可能性が開けてきた。
ところが、弊誌の今年の読者アンケートでは、
前述の通り、CRMへの関心層は増大したものの、
ダイレクトマーケティングへの関心層は大きく減少した。
そして、これを支援する企業群に目を向けても、
アナログ系とデジタル系のマーケティングは相変わらず、
それぞれ別個のグループを構成しているかのように見える。
求められるのは、アナログとデジタルの融合に違いないが、
いったい誰が、どのような言葉でこれをリードしていくことになるのか。
ダイレクトマーケティング市場は依然、混沌とした様相を呈している。