先日、折りしも来日中だった、米国のダイナ・サーチ・インク
代表取締役社長の石塚しのぶさんに情報交換方々お目にかかった。
石塚さんは、私が発行する月刊『アイ・エム・プレス』の連載陣のお一人で、
最近では「ソーシャル時代のカスタマー・リレーション」と題した連載を
2011年3月号から8月号にかけてご執筆いただいている。
石塚さんとの話題は、各国のソーシャルメディア事情に始まった。
まずは私が、日本国内では、ビジネス誌などマスコミが
ソーシャルメディアの負の側面に注目した企画を打ち出してきたこと。 ※1
この分野のコンサルタントの中にも、昨年来のブームの延長線上で、
この4月には大手企業のFacebookページの開設が相次ぐものの、
早ければ5~6月にも一気にブームが沈静化すると予測する向きもあること。
一方では、ネット系企業のこの分野への進出ラッシュに続いて、
昨秋来、コールセンター系企業のこの分野への進出が相次いでいることなどを紹介。
※1 『日経ビジネス』(2012年2月6日)が「忍び寄るSNS疲れ リスクを乗り越え使いこなせ」、
『ニューズウィーク日本版』(2012年2月22日)が「危ないね! facebook」を特集。
これに対して石塚さんは、米国においてFacebookは、
すでに日々の生活に不可欠なインフラとなっており、
日本でもFacebookのユーザーはまだまだ伸びるというお考えを披露された。
そこで、日本のソーシャルメディア上でも話題になった、
米国・Gap社のFacebookページからの撤退を持ち出すと、
米国ではGapに限らず多くの企業がFacebookページからいったん撤退し、
戦略の見直しを図っているとのこと。
その理由として、同ページはソーシャルメディアであるにもかかわらず、
これらの企業の多くはその戦略を誤り、通常のWebサイト、
さらにはECサイトと同様の運営を図ってきたことを挙げられた。
そして、そのような意味で第二ステージを迎えたとも言える
“ソーシャル時代”における企業に不可欠な要素として
“企業文化”の重要性に言及、後半はこの話題で盛り上がった。
石塚さんがその重要性を指摘しておられる企業文化とは、
従来からの「顧客第一主義」「お客さま第一主義」などといった、
わかりやすく言えば「お客さまは神様です」的なお題目ではなく、
これを企業組織の隅々にまで浸透させることを意味している。
つまり、そのコンセプトを共有するだけではなく、
それが実際の企業の、あるいは顧客接点における従業員の言動に
裏付けられていることが大切だということだと思う。
そして、米国の成長企業の多くがこうした意味での企業文化を明確化し、
その具現化に取り組んでいるということであった。
ソーシャル時代が、生活者も企業も一緒になってソーシャルメディアの海に飛び込み、
自らの情報を公開すると同時に、主体的な選択を行う時代だとすれば、
店頭の販売員、営業担当者はもちろん、コールセンターのオペレーターなど、
企業のあらゆる顧客接点には、ある程度の権限委譲がなされることが不可欠だ。
つまり、いくら美声で、丁寧な言葉遣いで対応に臨んだとしても、
あらかじめ取り決められた二者択一的な対応に終始していたのでは、
お客さまの期待を超えるサービスの提供はかなわないと言えるだろう。
そして、これらの顧客接点への権限委譲を行うに当たっての大前提が、
石塚さんがその重要性を指摘されるところの企業文化なのではないか。
抽象的な話なので、ひとつ事例を出そう。
数ヶ月前、私は店頭でチェックインすれば、割引クーポンがもらえるという、
ある店舗のチラシを受け取り、そのサービスの利用を楽しみに店に出向き、
いくつかの商品をピックアップして、レジの長蛇の列に並び、
スマホでチェックインしようとしたところ、どうにもうまくいかない。
そこで、若い女性スタッフに声をかけて、手伝ってもらおうとしたところ、
彼女もうまくチェックインができず、結果、バックヤードに聞きに行くことに。
そうこうしている間にレジは私の順番が回ってきて、
私の後ろに並んでいた何人かのお客さんに順番を譲った挙句、
戻ってきた彼女が口にしたのは、下記の一言だ。
「申し訳ございません。お客さまのスマホは対象外となっております」
落胆する私を前に、彼女はサイト上の長くてわかりにくい注意書きの中に、
対象外の機種にかかわる記述があるのを見せてくれたが、
もはや、だからなんだというのがこちらの気分。
根が楽天的な私がかすかに期待していた、
「今回は特別に割引を適用させていただきます」という一言は、
ついに彼女の口から発されることはなかったのだ。
これは言わば、お客さまの期待を上回るどころか、
お客さまの期待を裏切った事例と言えるが、
このときに、私がかすかに期待していた一言が発せられなかったのは、
一介の販売員である彼女にその権限が委譲されていなかったためでは?
実際に店に来て商品を抱えてレジに並んでいるというのに、
また、店員と言葉を交わしてもいるのに、スマホの機種が対象外というだけで
たかが何百円かの割引が受けられなかったこの体験を通して、
私の同店へのロイヤルティは大きく低下し、
悪いサービスの好例として、この話を披露するようになっているのだ。
話が逆だったら、つまり、その女性スタッフに
「今回は特別に割引を適用させていただきます」と言われていたらどうだろう?
恐らく私は、そのルールを逸脱した対応を、優れたサービスの典型として
仕事仲間はもちろん、多くの友人達に語っていただろうし、
その友人達もまた、その話を彼らの友人達に伝えていたかもしれない。
これがソーシャルメディア上への書き込みであれば、
ポジティブな評価であれ、ネガティブな評価であれ、
それが伝わる速度と対象者の人数はハンパではない。
企業文化というのはある意味、抽象的でわかりにくいところがあるが、
私は石塚さんのお話を自分の体験に置き換えて、
こんな風に受け止めさせていただいた。
ちなみに石塚さんは、近々、「企業文化育成研修&ワークショップ」を
米国はラスベガスで開催されるそうだ。
ソーシャル時代に求められる企業文化経営とは
2012年3月17日