過日、友人ととあるレストランで食事をした。
はじめて訪れたその店は、料理はかなり美味しかったのだが、
接客を担うお兄さんが今日から勤務に就いたかのような新人君だった。
注文を受けて、料理や飲み物を提供して、空いた食器を下げる、
という一連の基本動作もぎこちないのだが、
それ以上に料理や素材に関する質問に答えられず、
いちいちマネージャーのところに聞きに行くのには辟易した。
友人との気軽な会食だったので、不満を口にするには至らなかったが、
そのかわりに“店の新人教育に貢献している”という話で盛り上がった。
折りしも月刊『アイ・エム・プレス』6月号の特集は“顧客接点の人材教育”。
モノ重視→顧客サービス重視のトレンドの中で、
サービスを担う顧客接点の人材教育が注目されて久しいが、
今ではビジネスそのものが顧客視点に基づくものでなければならない
ということがこれまで以上に意識されるようになった結果、
顧客の参加による価値共創が求めらるようになった。
グッズ・ドミナント・ロジックから、
サービス・ドミナント・ロジックへのパラダイムシフト。
この発想の切り替えは“言うは易く行うは難し”で、
私自身も最近になってようやく腑に落とせたというのが正直なところ。
コンピュータ・ソフトの例を挙げれば、単にこれまでのパッケージソフトを
ASPによりサービス商材化することとはレベルの異なる話なのだ。
製造業のサービス化もありの反面、サービス業のモノ化もあり。
こう考えると、サービス・ドミナント・ロジックは、
限りなくCRMに近い概念のような気がしてくる。
つまり、サービス・ドミナント・ロジックに基づくビジネス革新がすなわち、
顧客接点で収集した情報を収集→蓄積→分析→活用するCRMのプロセスであり、
そのプロセスを科学的にマネジメントするために求められるのが
サービス・サイエンスなのではないだろうか。
冒頭で紹介したレストランでの話の続き。
新人君のぎこちない接客についての私たちの会話は、
「店はお客さんと一緒につくるもの」という友人の一言で幕を閉じた。
私たちは取り立てて不満を口にしたわけではないが、
いよいよもってこの店が気に入らなければクレームを申し立てればいいし、
それでも納得いかなければ二度と行かなければいい。
クレームの逆、すなわち賞賛にしても同じことだが、
そうしたお客さまの「声=VOC」が店を変え、
そうしたお客さまの「行動=来店・購買履歴」が顧客を決める。
こう考えると、サービス・ドミナント・ロジックのややこしい話が、
少しはわかりやすくならないだろうか。
サービスをめぐる考察
2009年5月27日