コールセンター昔話

2008年11月1日

昨日は、某社が単行本を出版するに当たってのインタビューを受けた。
今年は外食産業向けのビデオマガジン、広告会社のWebサイト、
そして今回の単行本と、都合3回にわたりインタビューを受けたが、
いつもはインタビューをする側なので、受けるのはいまいち苦手。
しかし、今回は「通勤電車」の読者でもあるという
出版社の方からのお申し出だったこともあり、喜んでお引き受けした。
テーマは、コールセンターの過去・現状・今後だったので、
10月9日に弊社が開催した「コールセンター年鑑」出版記念セミナーでの
私の講演内容と重複するところも多く、
セミナーのレジメを参照しながら質問に回答した。
同セミナーでは、弊社が1998年の「コールセンター年鑑」の創刊以降、
毎年行ってきた「テレマーケティングおよびコールセンターに関する調査」の
調査結果をもとに、この10年間の変遷を追いかけたかたちだが、
昨日の取材では、10年よりももっと遡って、
日本におけるテレマーケティングの創成期からの話をした。
前出の弊社のセミナーのときにも2000年頃から、
それまでのアウトバウンドにかわってインバウンドが主体になった話をしたが、
改めてそれ以前を振り返ってみても、やはりテレマーケティングというと、
アウトバウンドが中心だったな~とつくづく思う。
もちろん、通信販売の受注も、消費者窓口も昔からあったのだが、
それらはマーケティングというよりも業務の一環として、
テレマーケティングとは異なる文脈のもとで誕生し、育まれていったのだろう。
昔話をひとしきり語り終えたところで受けた質問は、
なぜインバウンドにシフトしたのかということ。
セミナーのときには10年分の調査結果を分析するのに躍起になっており、
その理由に踏み込む余裕がなかったなと心の中で反省しつつ、
それはやはり、モノや情報が豊富になって生活者のパワーが増大したことと、
PCやデジタル家電など複雑な製品が増加したことが2大要因ではないかと伝えた。
確かに子供の頃、両親が企業に問い合わせの電話をかけている、
なんて姿は見たことがないし、自分自身にしたって、
通信販売の申し込みはともかく、よっぽどの製品クレームでもない限り、
企業に問い合わせの電話なんてかけることはなかったな。
だいいち、通信販売の申し込みだって、昔はハガキが多かったのだ。
また、こうした生活者の変化と足並みを揃えて、
当然のことながら、企業も電話の受付体制を拡充してきたわけで、
それがコールセンターという名称で語られるようになったのだろう。
企業側のかつての状況を振り返ってみると、
昭和50年代に私が前職でテレマーケティングの調査にかかわった頃には、
新聞広告などを見ても、電話番号を大きく表示したものは稀で、
大半の広告が住所と同じくらいの小さな文字で電話番号を記しているか、
中には電話番号を記していない広告さえ見受けられた。
テレマーケティングの先進国であるアメリカでは、
大半の広告に800番(日本のフリーダイヤル)が大きく記されていると聞いて、
ふーんと思ったことを、それこそ何十年振りかで思い出した。
その後、“広報ではなく広聴”などのキャッチフレーズで、
先進的企業が今で言うVOCの走りのようなことを目指し始めたのは、
かれこれ20年ぐらい前のことだろうか。
こうして昨日の取材を自分なりに振り返っていたところ、
インバウンドの増加要因について、もうひとつ、思ったことがある。
それはもしかしたら、一般生活者の購買チャネルの変化が
企業への問い合わせを増加させる一因になっているのではないかということ。
私が子供の頃、両親は野菜は八百屋さんで、鮮魚は魚屋さんで、
精肉は肉屋さんで、豆腐は豆腐屋さんで、牛乳は販売店の宅配で、
そしてテレビや洗濯機や冷蔵庫などは最寄の電器屋さんで買っていた。
こうした地域の商店はそれぞれの商品分野の専門家で、
商品の選び方、使い方を熟知しているのはもちろん、
代々の付き合いの中で、お得意さんの家族構成や好みもわかっており、
個々の顧客に最適な商品をコンサルティング・セールスできたはず。
それが今では野菜も鮮魚も精肉もスーパーで買うのが当たり前だし、
家電製品であれば大手家電量販店で買う人が多いだろう。
こうした購買チャネルの変化は、生活者の“選択”でもあったわけだが、
この結果、各商品分野の専門家である地域の商店が減少、
一般生活者と小売業との距離が“物理的”にも“心理的”にも増大し、
結果的に企業への問い合わせが増加している面もあるのではないか。
すなわち、現代の都市生活者は、大手流通業を選択することで、
豊富な品揃えやワンストップでの買い物を享受できるようになったものの、
そのかわりに付加価値の高いサービスを受けるためには、
インターネットの情報洪水の中から自ら適切な情報を探し出したり、
コールセンターの行列に並ばなければならなくなった。
生活者にとって、どっちが便利なのか、どっちが楽しいのかは、
さながら地下鉄の車両をどこから入れるのかと同じくらい、
考えても考えてもわからない問題なのかもしれない。
え? 私がどっちがいいかって? 
私は夕方5時とか6時に閉まるような地域の商店しかなければ、
とっても生活していけません。確かに!