ウサギの英語学校①

2005年1月15日

2年ぶりにウサギのキャラクターで有名な英語学校に通い始めた。
入学したのは3年前で、そこが在宅学習システムと合わせて“売り”にしている予約無しで好きな時間に出入りできるフリータイム・レッスン(といっても、特定のカリキュラムがあるわけではなく、ネイティブの先生と会話するだけだが)に興味を持ったのがきっかけだ。
入会後、半年か1年は通ったものの、忙しさにかまけてずーっとお休みしていたところ、チケットの有効期限が目の前に迫ってきた。しかも、手元に残ったチケットは20枚以上。おそらく、4万円分ぐらいに相当する。そこで、有効期間を延長する手立てはないものかと、その英語学校を訪れたのは、有効期限が切れる数日前の週末。暮れも押し迫ってのことだった。
そもそも3年前に入学した当初から、私はその学校のカウンターにいる常にハイテンションな女性が苦手だった。なんでそんなにハイテンションなのか、その文脈がわからないところが不気味で、自分のテンションがこれに反比例して下がっていく気がしたのだ。だからそのときも、あのお姉さんがいたら嫌だな・・・と思いつつ、学校の扉を開けた。
するとそこにはお姉さんの姿は見当たらず、かわりに妙にハイテンションなお兄さんがいた。お兄さんと言っても、おじさんに片足突っ込んでいる。そして私は、そのお兄さんに「期限切れ間近の20数枚のチケットを有効活用する方法」を説明してもらうことになった。心の中で、ハイテンションなお姉さんと、おじさんに片足突っ込んだお兄さんとどっちがいいかを考えながら・・・である。
そして、お兄さんの立て板に水のようなセールストークの中から、その英語学校に再入学すれば、手元のチケットの有効期間も入学期間中は延長でき、かつ、そこには従来どおりのフリータイム・レッスン(3年間有効)と、カリキュラムに基づく普通のレッスン(1年間有効)という2つの選択肢があるという“事実”のみをすくい上げた。しかし、前者では、ただでさえ20枚以上も残っているフリータイム・レッスンのチケットを、さらに大量に買わなくてはならないし、後者は受講に当たって予約が必要な上、前者に比べて2万~3万円高いお金を支払わねばならない。
「期限切れ間近の20数枚のチケットを有効活用する」という目的においては前者のほうが低コストだが、過去2年間に一度も利用できなかったチケットをさらに買い足して、果たして消化できるだろうか。だからと言って、そもそも予約するのが嫌いなので選ばなかった、カリキュラムに基づく普通のレッスンを、今なら受講する気になるだろうか? しかも、前者の有効期間が3年なのに、後者の有効期間は1年と短い。つまり、1年間の間に残りのチケットを消化しなければ、同じことの繰り返しになるのだ。
思案の後、覚悟を決めて普通のレッスンにする旨を伝えると、今度はお兄さんが「テキスト代が必要です」と言い出した。えーっ?
私:そんなことは聞いていないし、はじめに言ってくれないと・・・。
お兄さん:・・・待ってください。テキスト代は、もしかしたら割引ができるかもしれません。
私:・・・(絶句)・・・。
<1分後に>
お兄さん:テキスト代は○円ですので、これを半額にしましょう。
私:・・・(しょうがない)・・・入学します。
こんなやり取りを経て、暮れも押し迫ったある日に、私はそのウサギの英語学校に再入学することになった。そして、お兄さんのテンションの高さに圧倒されてすっかりテンションを落とし、すごすごと家路に着こうとしたそのとき。エレベーターホールに山と積まれたウサギのぬいぐるみに何気なく目をやっていると、背後から、またお兄さんの声が聞こえてきた。
「○○様、忘れていました。いま、ご入学いただいた方には、ウサギをプレゼントするキャンペーンを展開しております。どれでもお好きなものをひとつお持ち下さい」
私はお兄さんに少しだけ微笑んで、ピンクのウサギのぬいぐるみを手にした。帰り道、寒風に吹かれつつ、なんだか泣きたいような気持ちになった。英語を習うという新しいことを始めるのに、ちっとも楽しくないのだ。私は小1時間に渡りお兄さんのセールストークやその学校のオファーと戦って、とにかく疲れ果てていた。おまけになんで、取ってつけたかのようにウサギまでもらわなくちゃいけないのか・・・。私はそのピンク色のウサギを指でツンツンと小突いてみた。でも、ウサギには罪はない。
                             <続く>