(株)資生堂は、2003 年に若い女性向けの化粧品ブランド「マジョリカ マジョルカ」を発売して以来、独自のコンテンツ・マーケティングを実践。「物語」と呼ばれる独特なWebコンテンツや、話題性のある他企業とのコラボレーションを展開し、独自のポジショニングを確立している。
ブランドチェンジと流行という2つの“不安定要素”を乗り越えるために
(株)資生堂が2003年7月に発売した化粧品ブランド「マジョリカ マジョルカ」(以下、同ブランド)。ターゲット層は10代後半から20代の若い女性で、商品ラインナップは、マスカラやアイライナーなどメーキャップ商品全般。価格帯は200~1,800円と同社の化粧品ブランドとしては比較的低く設定、全国のドラッグストアを通じて販売されている。
一般に国内の化粧品市場では、10代後半から20代の層はこれより上の年代に比べてブランドチェンジの頻度が高い上に、そもそもメーキャップ用品は流行に左右されやすい。そこで同ブラントでは、この2つの“不安定要素”を克服するために、明確なコンセプトを提示。マーケティング・コミュニケーションの展開においては、同社の他ブランドでも多用されるテレビCMなどのマス広告よりも、Webを中心とするコンテンツ・マーケティングに軸足が置かれた。そして、こうした戦略が奏功し、発売から約10年にわたって、若い女性の支持を獲得し続けている。
「物語」と呼ばれる独特なスタイルのコンテンツ
「マジョリカ マジョルカ」というブランド名は、“女の子がかわいくなるためのおまじない”をイメージした造語。美しくなりたいと願う若い女性の変身願望をメークによってかなえる“ 願えば叶うマジョリカ マジョルカ”がコンセプトだ。また、10代後半から20代のすべての女性を対象にするのではなく、この世代のうち、自分らしく生きることや個性にこだわりを持つ、時代感覚に敏感な層にターゲットを絞り込んでいる。
マーケティング・コミュニケーションにおいては、かわいいモノに目がない若い女性のDNAに訴え掛けるように商品を演出し、商品を使うことで、あたかもファンタジーの主人公のように愛らしく、美しく変身する気分まで味わってもらうことを意識しているという。一般的な化粧品のように、商品の使用によりもたらされる“美”を前面に押し出すのではなく、さらに踏み込み、後述するような「ストーリー性」や「世界観」の発信に発売当初から注力してきた。
発売から3年間はテレビCMを活用していたが、2006年で終了。これは、15秒間といった短時間のCMでブランドの世界観を伝えるのは難しく、費用対効果の面からも決して得策ではないと判断したことが大きな理由。その一方で公式Webサイトによる情報発信を重視し、同社が「物語」と呼ぶ、ストーリー性のある独創的な様式のコンテンツを中核に据えてきた。
物語には動画やフラッシュ・ムービーが用いられ、ゴシック・ファッションを基調にドレスアップしたモデルのビジュアル、手の込んだグラフィック、ポエム調のキャッチコピー、幻想的な音楽などにより構成。例えば、2013年5月リリースの「Moonlight Virgin」では、青白い満月に照らし出された幻想的な空間に、白い羽根飾りをあしらい、白鳥をイメージしたドレス姿の女性モデルがたたずむメーンビジュアルを採用。女性モデルのメーキャップには、この物語のリリースと同じタイミングで発売された数量限定商品が使用され、これらのアイテムの商品説明も挿入。このように丹念に作り込まれた独自の世界が、若い女性の変身願望をかき立てる。
商品の一例を挙げれば、「シャイニーレイライナー」は、柄の部分に白い羽根飾りが付いた“羽根ペンライナー”(税込1,365円)。この物語の企画と同時並行で商品開発されたもので、モデルのドレスと同様、白鳥を連想させ、あたかもドレスの羽根飾りが1枚舞い落ち、羽根ペンライナーになったかのような趣向となっている。
こうした物語のコンテンツは、ブランド投入当初から年間3 ~ 4回の新商品発売のタイミングで新作がリリースされ、前述の「Moonlight Virgin」が37作目。回ごとにテーマカラーやモデルのメークなどの印象はがらりと変わるが、幻想的な独特のテイストは全作品に共通するもので、作品のクオリティは、カンヌ国際広告賞サイバー部門で2度の受賞に輝くなど国際的にも高く評価されている。
5月にリリースされたマジョリカ マジョルカの2013年夏「Moonlight Virgin」
甘い香りの香水と甘いアイスクリームのコラボレーションで認知拡大
こうした取り組みの中心的な役割を担うのが、同社国内化粧品事業部セルフスキンケア・メーキャップブランドユニットのメーキャップグループ。同グループにクリエイティブ・スタッフなどが加わったチームが、商品開発や物語の企画制作を手掛ける。クリエイティブの一貫性を維持する意味もあり、業務はすべて内製化し、外部委託はしていない。ドラッグストアの店頭には、各回の物語の世界を表現したデザインの商品陳列棚を設置し、同ブランドの商品を販売。コミュニケーション・チャネルとしては、スマホ対応サイト、女性誌におけるパブリシティ、ソーシャルメディアなどを活用するほか、2010年からは不定期ではあるが、他企業とのコラボレーションを積極的に展開してきた。
コラボレーションの実績には、①(株)ロッテのガム、②ハーゲンダッツ ジャパン(株)のアイスクリーム、③(株)パルコのクリスマスツリー展示(渋谷店)、④パークホテル東京のコラボルーム特別宿泊プランなどがある。例えば②では、甘い香りととろりとした風合いが特徴の香水「マジョロマンティカ」の発売時に、やはり甘く、とろりとしたチョコレートがかかったアイスクリームとのコラボレーションにより、商品パッケージや販促ツールなどで互いの商品を紹介。また④では、ホテルの一室を同ブランドの持つ世界観と共通するデザインの調度品やインテリアでコーディネートし、客室に置かれた同ブランドのメーキャップ商品が使い放題という特典付きの期間限定宿泊プランを販売。こうした話題性のある取り組み自体を、ソーシャルメディアのコンテンツとして発信し、拡散を狙った。
同ブランドの商品は流通ルートに乗って販売されるため、このような施策の効果の定量的な把握は難しいが、2010年の「マジョロマンティカ」の発売時には、物語のリリースと、②③④のコラボを同時並行で実施した結果、ドラッグストアなどの小売店舗で扱うセルフ化粧品、全SKU売上ランキングで、一時は7位を記録。マス広告を実施していない新製品の異例の“スタート・ダッシュ”は、業界の注目を集めた。また、ソーシャルメディアのファン数、フォロワー数は、Facebookが5万1,000人、Twitterが4万4,000人、mixiが3万8,000人に達し、2013年1月に(株)日経BPが調査した「第2回ソーシャルメディア活用売上ランキング」で33位にランクインした。
同グループは、同ブランドの愛用者層はソーシャルメディアとの“親和性”があり、ソーシャルメディアによるクチコミ拡散などがプラスに作用してコンテンツ・マーケティングが高い効果を上げているものと分析。今後もこの路線を継続する方針で、国内でも急速に普及する可能性がある画像共有型のソーシャルメディアPinterestの活用などにも力を入れている。