1950 年に銀座でデビュー
小さな子どもからお年寄りまで、誰もが知っているカンパニー・キャラクターと言えば、文句なくその筆頭に挙げられるのが、不二家の「ペコちゃん」である。ペロっと舌を出したぷっくりほっぺたの顔立ちも愛くるしいキャラクターだ。
「ペコちゃん」の歴史は古い。はじめて登場したのは、1950 年。不二家はそれまで、集客のために銀座の店頭でゴム風船を配っていたが、当時の社長、藤井誠司氏はそれに代わるモノを思案していた。そしてある時、日本劇場の舞台に出ている張り子を見て「ああいう人形を店頭におけば、何かおどけた印象で人の目を引きやすいのでは……」と考えついたのである。さっそく張り子の人形が作られ、店頭にお目見えした。「ペコちゃん」の誕生である。紙でできた首振りの張り子のため、よく壊れたが、不二家ではそのたびに修理を重ね、やがてこれが評判になっていく。
そして1951 年に発売された「ミルキー」のパッケージにも「ペコちゃん」は登場。翌年「ミルキーはママの味」というキャッチフレーズとともに全国デビューを果たした。「ペコちゃん」のボーイフレンド、「ポコちゃん」が誕生したのもこの時である。一方、張り子人形の「ペコちゃん」は1956 年に第1 次南極観測隊とともに南極へと渡り、これが話題になったことから、「ペコちゃん」の知名度はますます上がった。こうして「不二家と言えばペコちゃん」というイメージは確実に定着していった。
ところで「ペコちゃん」と「ポコちゃん」、名前も顔も良く知られているこの2 人だが、名前の由来や年齢などをご存じだろうか。「ペコ」は子牛のことを指す「べこ」から、「ポコ」は幼児を指す「ぼこ」からの命名である。「べこ」「ぼこ」をちょっと西洋風にアレンジして「ペコ」「ポコ」となった。この名前は、もともと商品名として使用することを考え、1930 年代からあたためていたものだと言うから、「ペコちゃん」「ポコちゃん」への思い入れの深さを感じずにはいられない。「ペコちゃん」がまず、練乳をたっぷり使った「ミルキー」の商品キャラクターとして採用されたのには「子牛」→「べこ」→「ペコ」という必然的な理由があった。年齢は、「ペコちゃん」が、永遠に6 歳。「ポコちゃん」が永遠に7歳である。これは、1958 年9 月から11 月にかけて「ペコちゃんいくつ?」キャンペーンを展開し、決定した。このキャンペーンに166 万 の応募があったことからも当時の人気ぶりがうかがえる。「ポコちゃん」の年齢もその時に決まったと言われているが、定かではない。
現在活躍中の「ペコちゃん」「ポコちゃん」
“ミルキー”のパッケージの変遷。左から1951 年〜64 年頃、68 年頃、85 年頃のもの
「ペコちゃん」は安心のシンボル
約50 年の長きにわたり、同社の看板娘として「ペコちゃん」はどのような役割を果たしてきたのだろうか。銀座の店頭に立つ「ペコちゃん」人形は、「街のオアシス・不二家」のシンボル・キャラクターとして登場した。一方、「ミルキー」は「味・品質」で勝負する商品。“おまけ”を付けるなどして販売促進を図るべきではないとの考えから「ペコちゃん」が起用され、以降は個々の商品の販売促進という使命を担っていくことになる。
現在「ペコちゃん」は、全国約1,100 店舗の不二家の洋菓子店・レストランの店頭で、季節に合わせて年10 回の衣替えをしながら、いまだ活躍を続けている。これらの店頭で販売されている、キャラクター名を冠した商品「ペコちゃんのほっぺ」は、人気洋菓子のベスト3 に入っている。また、一般の食品流通ルートを通じてスーパーやコンビニで販売されているお菓子のうち、ロングセラー商品である「ミルキー」、「チョコえんぴつ」「パラソルチョコ」などのパッケージにも使われている。商品サイクルの短いスーパー、コンビニの店頭で、揺るがぬロングセラー商品であり続けるこれらの商品は、取りも直さず不二家の主力商品。その主力の商品群を引っ張ってきたのが「ペコちゃん」なのだ。
同社では、「いまや『ペコちゃん』は、安心品質のマークとしての意味合いを持っている」と考えている。「ペコちゃん」は、母親が安心して子どもにそのお菓子を与えることができる信頼の印だ。これも母親の代からずっと愛され続けたキャラクターゆえである。
1997 年、不二家では「よりお客様に近づく」を合言葉に営業展開を進めてきた。その中でも“陳列が売り上げに直結する、それがペコのチカラ”だとし、「ペコちゃん」をより魅力的にアピールできるようにパッケージを一新するなどの施策を実施してきた。商品についても「やっぱりミルキー!」と、「ペコちゃん」をヌキにして、同社の販売促進は語れない。
誕生からほぼ50 年。同時期に生まれたキャラクターが次々と消えゆく中、「ペコちゃん」という6 歳の女の子は、オリジナル・カンパニー・キャラクターとして不動の地位を築き上げた。「ミルキー」のパッケージの変遷を見るとわかるが、「ペコちゃん」は1968 年頃に一度初期図案を変更したのをはじめ、徐々に現代風に洗練されてきている。しかし、基本的なデザインは変わらない。完成度が高く、古さをまったく感じさせないところが長く愛されている理由のひとつと言えるだろう。今、巷では、キャラクター・ブームが沸き起こっているが、数年後にはいくつかのキャラクターは消えていくに違いない。しかし「ペコちゃん」はそんなブームに流されることがない。永遠に6 歳という、その“永遠に”の言葉に、不二家の「ペコちゃん」への誇りと自信が表れているような気がする。