アメリカの中の日本<ニューヨーク編>

2014年6月15日

5月末から6月初旬にかけて、アメリカはロサンジェルス(LA)とニューヨーク(NY)に行ってきた。LAに3泊、NYに5泊と、限られた期間の滞在ではあったが、その中で目についた、“アメリカの中の日本”について書いてみたいと思う。本日、お届けするのは、昨日のLA編に続くNY編である。
長時間にわたるフライトを経て、私がNYの玄関口であるJFKに着いたのは、6月1日の午後7時ごろのことだった。だだっ広い空港を端から端までと思えるほどに歩き、タクシーの長蛇の列に並んで宿泊先にたどり着いた頃には、すでに時計の針は10時を回っていたことから、その日は街歩きを断念し、一杯飲ってから間もなくベッドに入った。

NY2日目は、翌日から2日間のイベント参加を控え、終日、オフを決め込んでいた。朝のコーヒーを飲みながら、どこに行こうかと思案の末、これまでに訪れたことがないロウワー・イーストサイドとトライベッカを散策した後、友人が翌日からのイベントでのスピーカーを迎えて開催するというカクテル・パーティに参加することにした。
ロウワー・イーストサイドは、ユダヤ人やプエルトリコ人など、多くの移民が住む街。最近では再開発が進み、おしゃれなショップやレストランが出店しはじめているエリアだ。焼き立てベーグルの店「Kossar`s Bialys」や、自家製ピクルスの店「Pickle Guys」、パストラミ・サンドで有名な老舗デリなどと並んで、日本からの移民が経営しているのか、昭和初期の食堂を思わせるような日本食の店も軒を連ねていた。

ロウアー・イーストサイドの街並みはこんな感じ

焼き立てベーグルの店「Kossar`s Bialys」
アツアツのベーグルを1枚買って撮影許可を取得、
店内にカメラを向けたところ、
スタッフが笑顔でポーズを取ってくれた

自家製ピクルスの店「Pickle Guys」
店内ではさまざまなピクルスを販売していた
私は夕方からのカクテル・パーティの肴に
カリフラワーとキュウリと赤ピーマンのピクルスを購入
再開発が進行中のエリアとあって、店があちこちに点在しているだけに、正午を回ったころには足が棒のように。そこで、休憩方々ランチをと、看板に記された“素”という漢字に惹かれて倒れこむように入った店は、“Vegan”と呼ばれる本格的なベジタリアンのレストラン「素 TIENGARDEN」だった。悩みに悩んだ末、結局は、メニューに写真付きで紹介されていた「Black Wisdom」なる冷やし蕎麦的なもの(写真)をオーダー。麺は柔らかすぎて正直、お世辞にも美味しいとは言えなかったが、麺に添えられたシイタケの含め煮は、薄味でふっくらと上手に煮含められており、街歩きの疲れを癒してくれた。

「素 TIENGARDEN」の「Black Wisdom」
黒小麦で作られた麺に、豆腐、干しシイタケ、
キクラゲ、ケール、クコの実が添えられ、
生姜入りの麺つゆが掛けられている
NY2日目と3日目は、DMAが主催するインテグレーテッド・マーケティングにかかわるイベント「IMW」に参加したため、街歩きはお休みとなったが、それでもランチ時や、怒涛のごとく襲ってくる時差ボケゆえの睡魔と闘うために、イベント会場付近の街並みを見て歩いた。そんな中で発見したのが、月刊『アイ・エム・プレス』でもその優れた顧客サービスについて取り上げたことがある「The Container Store」だった。

キッチンからベッドルーム、書斎、バスに至るまで
ありとあらゆる収納用品を品ぞろえした
「The Container Store」
同店はさまざまな生活用品の整理・整頓に役立つ収納用品を取り扱っているのだが、店頭には弁当箱や茶筒など、日本由来のグッズも並べられていた。中でも弁当箱には「Bento」と日本語がそのまま用いられ、サラダ用や、四角い箱の中にサンドイッチを収める三角形のケースがセットされたサンドイッチ用などがあり、日本の文化が地域に応じてローカライズされている様が見て取れた。

和紙を使って美しく仕上げられた茶筒

上段にある黒字に白い水玉模様の弁当箱が
サラダ用の「Bento Salad Bowl」と
サンドイッチ用の「Bento Sandwich Box」
NY4日目は、朝のうちは雨が降っていたことからスロー・スタートとなったが、日中はタウン・ウォッチングを兼ねて、「Chelsea Market」とソーホーの近くの「Whole Foods Market」をブラブラして日本へのお土産を購入。夕方には、月刊『アイ・エム・プレス』の発行を通じてお世話になった方と、彼女の友人である米国在住日本人アーティストの個展が開かれているアトリエで待ち合わせ、メキシコ料理をご一緒した。
最初に訪れたのは、おなじみの「Chelsea Market」。ここはナビスコの工場の跡地を再開発した、さながら市場のような商業施設で、ニューヨークの食やファッションのトレンド発信基地として知られている。付近にある廃線になった高架鉄道後を再開発した「ハイライン」と合わせて、多くの観光客が訪れると共に、地元の人々の格好の散歩コースともなっている。

ナビスコの工場の跡地を再開発した「Chelsea Market」
食品、キッチン用品、アパレルなどのショップに加え、
魅力的なレストラン、カフェが軒を連ねている

「Chelsea Market」壁面には、
日本人アーティストのものと思われる作品が
展示されていた
全体をゆっくりと一巡した後、マーケット内の「The Lobster Place」でランチ。私が食べたのは、「Spicy Salmon Roll(Brown Rice)」と、ロブスターのポタージュ。店内には鮮魚、寿司、スープなどの売り場に加え、ロブスターを調理してくれるコーナーなどがあり、購入したものをその場で食べられるコーナーも設けられていた。

「Spicy Salmon Roll(Brown Rice)」には、
ワサビとガリ(生姜)とキッコーマンの醤油の小袋が付いていた
以上、私が今回のNY滞在を通じて体験した“日本的なもの”を紹介したが、前回のブログで紹介したLAも含めて総じて言うと、現在、アメリカでは、「クール・ジャパン」や健康志向の高まりを背景に、日本ブームのまっただ中。NYに比べると、LAのほうがその気配が濃厚に感じられたものの、NYにおいても、私が前回訪問した10年以上前と比べると、SUSHIをはじめとする日本食レストランは随所に見られ、もはや市民にとってごく当たり前の食の選択肢のひとつになっているようだ。また、日本の食材やキッチン用品の普及も加速しており、今ではEDAMAMEやBENTOなどの日本語がローマ字に置き換えられ、そのまま英語と化していた。

「Chelsea Market」内の「The Lobster Place」で寿司を握る職人たち
こうした日本の特に食を巡るブームの背景には、キッコーマンによる“UMAMI”を提唱したテレビCMの影響も大きいという。実際、私がLAでの最後の夜に訪れたもうひとつのヘルシーなレストラン「True Food Kitchen」では、メニューの説明コピーの中に“UMAMI”という言葉を発見し、先祖たちが培ってきた日本の食文化を、日本人としてちょっと誇らしく思った。
しかし、アメリカの中の“日本的なもの”は、かならずしも日本にある姿のままで存在しているわけではない。以前から見られた、中国と日本の識別が付かぬままに、日本製であるかのように店先に置かれている中国製の壺のようなものは論外としても、今回の旅で目の当たりにしたLAの「Little Tokyo」にある飲食店やホテルは、もはや日本の都市部には見られない“昭和の生き証人”のようだし、カリフォルニア巻や「Bento Sandwich Box」のように、国境を超えると共に地域の文化に合わせて姿形を変えているものもある。
しかし、こうして日本から離れたところで改めて日本の文化に触れると、そこにはまた新たな発見がある。と同時に、本来とは異なる文脈に置かれた“日本的なもの”に触れることが、その地域の文化への理解を深めることにつながるのではないか。そんなことを考えさせられた旅路だった。

サンタモニカのサード・ストリート・プロムナードにある
アパレル専門店では、1階から2階に上る階段の壁面に
巨大な白と黒の折り鶴を使った装飾を施していた。
これも折からの日本ブームのなせる業だが、
こんな装飾は、日本のアパレル専門店では
思いつきもしないのではないだろうか?