Facebook の持ち味を生かした“顔が見えるコミュニケーション”に確かな手ごたえ

オイシックス(株)

有機野菜や無添加加工食品の通販事業を展開するオイシックス( 株) は、2012年8月からFacebook公式アカウントの運用を開始。Facebookが提供する「カスタムオーディエンス」など新しい広告サービスも積極的に活用することで、新規顧客の獲得や既存顧客とのコミュニケーション活性化を目指している。

1人の女性社員が運用を担当することで情報発信に一貫性

 食品の安全性に配慮し、品質や味にこだわった有機野菜や無添加加工食品などの通販事業を手掛けるオイシックス(株)は、2000年に設立された。生鮮食品20品目の実験的な販売からスタートしたECサイトの「Oisix(おいしっくす)」は、30 ~ 40代の女性を中心とする生活者の支持を得て、売り上げを急速に拡大。全国の産地から果物や魚介類を直送する「産直おとりよせ」、毎日の食卓に上る野菜や日配品など食品のセットを定期的に届ける「おいしっくすくらぶ」といったサービスを提供。定期宅配の利用会員は2013年5月時点で、7万6,499人となっている。
 また首都圏では、「Oisix」ブランドの店舗(2カ所)を営業しているほか、スーパー店内に専用コーナー(6カ所)を開設。このほか2011年11月には、やはり通販販売で生花や食品のギフト商品などを扱う(株)ウェルネスを買収し、ECサイトの「花とグルメのオンラインギフトショップ ウェルネス」の運営を引き継いだ。
 このように積極的に事業を展開する同社では、早くからソーシャルメディアの可能性に着目し、試行的にTwitterのアカウントを運営するなどして、マーケティングへの活用を模索してきた。2012年春には、Facebookの活用を検討するべく、社内に部門横断のチームを立ち上げ。十数人のメンバーで検討を重ねた結果、新規顧客の獲得や既存顧客とのコミュニケーション活性化などを目的に、公式アカウントの運用と各種Facebook広告の活用という2つの側面から取り組む方針を打ち出し、同年8月から公式アカウントの運用をスタートさせた。
 運用業務は、Facebookページに投稿する情報のトーン&マナーや内容に一貫性を持たせることで“顔が見えるコミュニケーション”を実現するために、立ち上げの検討チームのメンバーだった1人の女性社員が兼務のかたちで担当。日々の業務におけるエピソードなどを投稿しているほか、ECサイト運営や商品開発、広報など広く社内の各部門から情報提供や依頼を受けて投稿することも多い。ちなみに担当者は、新たな“つながり”や思いがけないコミュニケーションが生まれるソーシャルメディアへの興味や関心が高く、さまざまな企業のマーケティング担当者が集う勉強会に参加するなど知識も豊富。ソーシャルメディアを所管するプロモーション部門から異動となった現在も、Facebookページの運用業務に限っては引き続き担当している。

10パターン以上の広告を試験的に掲載し広告費の約5倍の売り上げを獲得

 Facebookページでは、より豊かな食生活の実現に貢献するという同社の企業理念にのっとり、食にまつわる役立つ情報や話題を提供することが原則。週に2~ 3回の頻度で、投稿を行っている。
 投稿の内容は、例えば出張で訪れた地方の生産農家の畑に咲いていた可憐なジャガイモの花を写真とコメント入りで紹介するものや、四季折々の旬の野菜などを豆知識とともに紹介するものなど、担当者が日常の業務を通じて得た情報をコンテンツ化しており、担当者の独自の視点や個性がうかがえる。
 また、ECサイトの運営部門から、同サイトに週替わりで掲載しているイチオシ商品の特集記事の提供を受けて、これを二次利用している。特集記事はコンテンツとしてのクオリティが高く、注目度も高いが、掲載期間が1週間に限定されていることから、Facebookページに投稿することで、継続的に閲覧してもらっているのだ。
 商品開発部門からは、バイヤーが商品化を検討している珍しい食材に関する情報が提供されることも少なくない。例えば、品種改良で生まれた通常の緑色のゴーヤとは外見が異なる白いゴーヤや、果肉が魚卵のようにプチプチとした粒状のフィンガーライムという果物についてなど話題性のある投稿には、「この食材を知っている!」といった反響が数多く寄せられ、商品化に向けて顧客の関心の程度を測るひとつの目安ともなっている。
 このほか、キャンペーンの告知など販売促進を目的とした情報も投稿しているが、一般に反響が少ないことから、こうした投稿の頻度はあまり高くならないように配慮している。また広報活動の一環として、同社からのお知らせを掲載することもある。例えば、採用情報の告知では、ハロウィーンにちなんだ社内のイベントで、社員たちが仮装している写真を併せて紹介。こうした趣向はソーシャルメディアならではの遊び心と言えるだろう。
 一方、Facebook広告の活用については、新たな広告サービスが次々と提供されていることから、積極的に試験導入しては、効果を検証している。例えば、「カスタムオーディエンス」というサービスを活用し、特殊な情報処理技術によってFacebookユーザーと同社の顧客のマッチングを行ったところ、1年以内に購入実績のある顧客の約3割がFacebookユーザーであることが判明。また、このサービスでは、Facebookの閲覧画面に特定の広告を表示させるといったことができるが、同社ではこれを“1回顧客”のリピート促進に活用。通常、このようなお客さまに対しては、DMやメルマガなどでアプローチしているが、ここにFacebook広告というコミュニケーション手法を加える試みだ。2012年末に、それぞれ異なる内容の10パターン以上の広告を用いて実際に購入につながるかをテストしたところ、お節料理をオファーしたパターンでは、投下した広告費の約5倍の売り上げを獲得するという成果を得た。

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社内の各部署から話題提供を募っているOisixのFacebookページ。投稿写真の撮影には担当者のiPhoneが大活躍。言いたいことが伝わる画像を撮るために、ひとつの投稿に対して20カットは試すという

他社には真似できない同社らしいコンテンツづくりを目指す

 同社のFacebookページの「いいね!」の総数は2013年10月末現在、約2万9,000件。それぞれの投稿への反応では、例えば、豆乳にすりおろしたヤマイモを加えた人気商品の「山芋寄せ豆腐」を投稿した際には、掲載直後に「いいね!」が1,000件を突破し、数十件の熱烈なコメントが付いた。ただし同社によると、Facebookの投稿が、実際的な売上効果であるLTV(顧客生涯価値)の増大にどの程度、寄与できているかを定量的に検証できる段階にはまだ至っておらず、あくまでも顧客エンゲージメントを強化するための施策の性格が強いという。
 もっとも、前述の「カスタムオーディエンス」の広告でも実証されたように、同社のECサイトを利用する顧客は、一般にFacebookの利用も活発であることから、例えば、Facebookユーザーを首都圏のリアル店舗に誘導するなど、新たな施策を今後も引き続き投入していく考えだ。また一方で、Facebookは投稿する内容のエンターテインメント性やクオリティが、反響や注目度に直結する傾向が強いことから、コンテンツのさらなる強化を図っていく方針。生鮮食料品の通販市場は競争が激しく、コンテンツ開発に各社がしのぎを削っている。新たな試みも、すぐに業界に広がってしまい、差別化を図るのは容易ではない。そこで同社では、有機野菜や無添加加工食品の品ぞろえに強みを持つ、同社らしい、他社には真似できないコンテンツづくりを目指していく。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年12月号の記事