情報サイトをベースに啓蒙による市場創造とブランディングを展開

(株)セールスフォース・ドッドコム

(株)セールスフォース・ドットコムでは、注力度を高めているソーシャルメディア・マーケティング・ソリューションの普及を目的に、情報サイト「Social Success」を運用。ソーシャルメディア・マーケティングの有用性の啓蒙による市場創造とブランディングに役立てている。

ビジネス成果獲得のためのソーシャルメディア活用をテーマとするWebサイト「Social Success」

 米国で1999年に創業したsalesforce.com, Inc.の日本法人として2000年4月に設立され、わが国における企業向けクラウド・コンピューティングの市場を切り拓いてきた(株)セールスフォース・ドットコム。同社では2012年7月からビジネス成果獲得のためのソーシャルメディア活用をテーマとする情報サイト「Social Success(ソーシャルサクセス)」を運用。同サイトを舞台としてコンテンツ・マーケティングに取り組んでいる。
 多くのマーケターが、“セールスフォース”と聞いて思い浮かべるのは、営業支援(SFA)や顧客管理(CRM)のアプリケーションだろう。事実、同社の主力製品である「Sales Cloud」は、世界で最も利用されているクラウド型SFA・CRMアプリケーションとして、多くの企業のSFA・CRM施策をサポートしている。
 そのセールスフォースが近年、力を入れているのが、ソーシャルメディアのマーケティング活用(ソーシャルメディア・マーケティング)の分野である。例えば2011年5月には、salesforce.com, Inc.が、当時FORTUNE 100企業の半数以上が導入していたソーシャルメディア・モニタリング・プラットフォームのスタンダードとも言える「Radian6」を提供するRadian6社を買収。現在では、「Radian6」を2012年6月のBuddy Media社買収により同社が取得したソーシャルメディア・マーケティング・ソリューション「Buddy Media」と統合、「Marketing Cloud(マーケティングクラウド)」として提供している。
 このような流れを受けて、日本法人であるセールスフォース・ドットコムでも「Marketing Cloud」をはじめとするソーシャルメディア・マーケティングのためのソリューションの販売に力を入れているのだが、前述のようにマーケットでは“セールスフォース=SFA・CRM”というイメージが定着している。また、もともとオンプレミス型の製品により市場が確立しており、同社としては“クラウド”の優位性を武器にシェアを拡大していけばよかったSFA・CRM市場の場合と異なり、まだ端緒に付いたばかりのソーシャルメディア・マーケティングにおいてソリューションを普及させていくためには、新たに市場を形成していく必要がある。
 このような認識から企画され、運用が始まったのが、「Social Success」なのだ。

中長期的な視野に基づき“戦略的”な取り組みを展開

 同社ではもともと、積極的なコンテンツ・マーケティングへの取り組みが行われていた。
 その取り組みは、特定の期間における注力製品やメーン・ターゲットの企業規模・業態などに対応して、例えば「中小企業の経営者向け」などに特化したWebサイトを随時開設。関連するコンテンツを集積することでサイトへの集客を図り、そこに会社名、部署・役職名、eメールアドレス、電話番号などを入力すると、より詳しい情報が得られるといった“ゲート”を設定してリードを獲得し、その後の営業活動に役立てるといったものであり、いわば、営業に直結する“戦術的”なものであった。
 一方、「Social Success」では、ゲートを設定してリードを獲得するという手法は一部で踏襲しているものの、全体としては可能な限り営業色を排除し、ビジネス成果獲得のためのソーシャルメディア活用をテーマとする“情報サイト”という性格を前面に打ち出している。
 これは、ソーシャルメディア・マーケティングが、現状では普及の初期にあり、多くの経営者やマーケティング担当者がその理解のための情報を求めている段階にあるという認識に基づくものであり、その理解に役立つ情報を提供するという立場でのサイトづくりが行われている。つまり、ソーシャルメディア・マーケティングの有用性を啓蒙することで市場を創造していくと同時に、“ソーシャルメディア・マーケティング=セールスフォース”というイメージを形成していくためのサイト運用というスタンスであり、中長期的な視野に基づく“戦略的”な取り組みであると言うことができるだろう。
 とはいえ、先進的な企業ではすでに積極的なソーシャルメディア・マーケティングへの取り組みが行われており、また、取り組みを始めるために有効なソリューションを探している段階の企業も数多く存在する。そこで、「Social Success」のコンテンツ構成においては、ソーシャルメディア・マーケティングの理解に努めている段階の経営者やマーケティング担当者に役立つ基礎知識と、ソーシャルメディア・マーケティングの具体的な取り組みに向けて情報収集を開始した企業をターゲットとした各種データ、さらにソリューション導入の意思決定段階にある経営者・マーケティング担当者に“最後の一押し”をする導入事例の紹介などをバランスよく配分することに腐心している。

1308C21

情報サイトとしての性格を前面に押し出している「Social Success」

Facebookページを活用した集客も展開

 具体的なコンテンツとしては、「ソーシャルメディア収益化講座」「海外事例」「動画・デモ」「無料eBook」などを用意。社内スタッフ制作のコンテンツだけでなく、ソーシャルメディア・マーケティングについて多くのノウハウを持つ外部専門家などのコンテンツ連載なども行うことで、情報のバリエーションと客観性・信頼性の担保に努めている。
 実際のコンテンツの制作においては、あまりアカデミックになりすぎず、具体性が感じられるものであることを意識している。その意味で動画を用いた「ムービー講座」などに注力しており、実際、オーディエンスの人気も高いとのことである。
 また、連載ものなどを中心に最低でも週に1本以上のコンテンツを追加することでマンネリ化を防ぎ、定期的にサイトを訪問する動機付けを強化。一方で、過去のコンテンツについても、ニュース性が強く時間の経過により陳腐化してしまった情報以外は、すべてアーカイブとしてサイト上に残しておくことで、“情報量の多いサイト”を実現している。なお、過去のコンテンツのアーカイブは、SEO対策にも一役買っているとのことである。
 サイトへの集客については、一般的なSEO対策のほか、「Social Success」の開設とほぼ同時期に、ソーシャルメディア・マーケティングを担当する新部署「ソーシャルメディア&インフルエンサーマーケティング」を立ち上げ、組織としてFacebookページの運用も開始。例えば、「あなたと会社のソーシャル度診断」といったコンテンツをフックにファンを増やし、「SocialSuccess」の告知につなげている。
 「Social Success」の運用効果については、オーディエンス数、アクセス数のほか、同社が従来から運営してきたリード・ジェネレーションのための手法と同様、設置したゲートによるリードの獲得数なども検証しているが、前述の通り、「Social Success」については“情報サイト”という性格を前面に打ち出していることから、リードの獲得数についてはほかのサイトとは目標値を変えている。なお、実際に獲得しているリードには、同社とこれまで取引のなかった企業からのものも多いとのことであり、“ソーシャルメディア・マーケティング=セールスフォース”というブランディングはある程度成功を収めていると言えるだろう。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年8月号の記事