商品づくりから販売促進に至るマーケティング施策全般に“お客さまの声”を反映

(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

(株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントでは、パッケージ・メディア商品企画の参考情報収集を目的として、ソーシャルリスニングを実施。スタッフの推測や想像ではなく、“お客さまの声”に基づいて、マーケティング施策に“1本の軸”を通すために活用している。

パッケージ・メディアの商品企画に役立つ情報の収集を目的にソーシャルリスニングを実施

 (株)ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントは、ソニーグループのトータル映像エンタテインメント企業として、映画およびテレビ番組の製作、配給、DVDおよびブルーレイ・ディスク(BD)などのパッケージ・メディアの発売・販売、BS / CSチャンネルの運営などを手掛けている。
 映画ビジネスにおいては、興行収入と並んで、DVD・BDなどのパッケージ・メディアのレンタル/セルが重要な収入源。同社でもホームエンタテインメント部門において、劇場公開を終了した映画作品のパッケージ・メディアの販売、デジタル配信などを積極的に展開している。このホームエンタテインメント部門では、2011年から、パッケージ・メディアの商品企画や広告企画に役立つ情報の収集を主な目的として、ソーシャルリスニングの取り組みを開始している。
 特に販売用のパッケージ・メディアについては、いかに映画ファンの琴線に触れる魅力的な商品を企画できるかがカギとなる。そのためには、ターゲットとなる映画ファンが、その作品のどこに惹かれているのかを的確につかむ必要がある。
 広告宣伝活動についても同様だ。同社が年間を通じて配給する数多くの映画の中には、劇場公開時に、想定した興行収入を得られないものもある。その理由のひとつとして、広告宣伝活動における訴求内容が、映画ファンの興味に合致していなかったことが考えられる。その場合、パッケージ・メディアのレンタル/セルに当たっては、劇場公開時とは異なった角度からの訴求が必要とされるのだが、どのようなアプローチが有効かを判断するためには、実際にその映画を観た人がどのような感想を持ったのかを把握することが重要である。
 そこでホームエンタテインメント部門では、ソーシャルメディア上に散在する対象映画作品に関する書き込みの内容から映画ファンの興味や感想を把握する、ソーシャルリスニングへの取り組みを開始したのだ。
 同部門ではこれまで、作品ごとのFacebookページを運用するなど、映画作品の宣伝活動にソーシャルメディアを活用してきたが、ユーザーの声を積極的に収集するための活用としては、初の試みであると言える。

リスニング対象となるメディアの特性を意識

 同部門のソーシャルリスニングにおいては、(株)ホットリンクが提供するソーシャルメディア分析ツール「クチコミ@係長」を活用してTwitter、ブログなどを対象とした分析を行うほか、Facebookへの投稿や「Yahoo!映画」「coco」といった映画関連サイトに寄せられるレビューなど、幅広い領域をカバー。対象となる投稿の数は、発信したコンテンツにもよるが、週300件前後である。
 ソーシャルリスニングのスケジュールについては、通常では発売日の3カ月程度前に設定されているDVD・BDの発売告知解禁日にスタートし、実際の発売日まで継続される。
 リスニング結果については、基本的には1カ月に1回程度の告知・宣伝活動の区切りごとに、8名ほどで構成されているコンテンツごとのマーケティング・チーム、および営業担当者で共有され、それぞれの担当業務に活用されている。
 なお、メディアごとの投稿内容については、Twitterでは140文字という制限があることから、ストレートな感想など断片的な投稿が多い一方、ブログや映画関連サイトのレビューなどでは、作品の内容にまで深く踏み込んだ投稿が多い。この点を踏まえ、前者については全体的な傾向の把握、後者についてはマーケティング施策のヒントになる情報の収集など、それぞれの特性を生かした活用を行っている。

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ソーシャルリスニングの結果を基に、『ジャンゴ 繋がれざる者』の日本版DVDプレミアム・エディションには、初期構想を再現した32ページの日本語版コミックブックや、海外の出版物に掲載された記事をまとめたブックレットなど、タランティーノ監督ファン垂涎の品をセットした

“お客さまの声”に基づいてマーケティング施策全体に“1本の軸”を通す

 同部門におけるソーシャルリスニングの活用範囲は、商品づくりから販売促進まで、マーケティング施策全般に及んでいる。
 例えば、2013年3月1日から全国ロードショー公開され、同年8月7日にDVD・BDの発売が予定されている『ジャンゴ 繋がれざる者』を例にとってみよう。 
 この映画はクエンティン・タランティーノ監督の最新作であり、ジェイミー・フォックス、レオナルド・ディカプリオといった著名俳優の出演などにより、日本でも順調な興行成績を獲得した。
 しかし、DVD・BDの販売量を伸ばすという観点では、特にDVD・BD購入のメーン・ターゲットとなる「映画館でこの映画を鑑賞したコアな映画ファン」が、この映画のどのような部分に特に魅力を感じているのかを把握することが不可欠だ。
 同部門ではこの点について、“西部劇”というジャンルや豪華な俳優陣といったことよりも、熱烈なファンが多いと言われるクエンティン・タランティーノ監督の作品であることが大きいという仮説を立てた。そしてソーシャルリスニングの結果、その仮説が大筋において正しいことが判明したことから、映画本編のBDに同作品に関するタランティーノ監督へのインタビューを収録したボーナスDVDやタランティーノ監督の初期構想を再現した32ページの日本語版コミックブック、海外での出版物に掲載されたタランティーノ監督や同作品に関連する原稿を日本語訳してまとめたブックレットなどをセットにした日本だけのプレミアム・エディションを用意。さらに有力な販売チャネルとなる「amazon.co.jp」上には、タランティーノ監督へのインタビュー動画コンテンツを掲載するなど、“タランティーノ監督”にこだわった商品づくり、販売促進を行うことで、購入予約を順調に獲得している。
 つまり、ソーシャルリスニングは、担当スタッフの推測や想像ではなく、“お客さまの声”に基づいて、マーケティング施策全体に“1本の軸”を通すために活用されており、それが一定の効果を発揮しているのだ。
 なお、ソーシャルリスニングの実施のためには当然のことながら一定のコストが発生しているが、その収益への貢献度を明らかにすることが困難であるため、費用対効果の検証は難しいとのこと。しかし現状では、コスト以上の効果を実感していることから、今後も積極的な活用を継続していきたい考えである。

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クエンティン・タランティーノ監督の最新作『ジャンゴ繋がれざる者』© 2012 Visiona Romantica, Inc. All Rights Reserved.


月刊『アイ・エム・プレス』2013年7月号の記事