ソーシャル・シェアでデジタル・コンテンツをつなぐ「アンバサダー・プログラム」を開設

Nitto Tire U.S.A. Inc.

米国を中心にマニア層向けのタイヤを販売するNitto Tire では、顧客が商品購入時にネット上のクチコミを重視することに着目し、ソーシャルメディアの活用を推進。この2月には、Facebookのエッジランクの仕様変更を受けて「アンバサダー・プログラム」を開発し、熱狂的なファン層によるクチコミの拡散を促進している。

車のマニア層を対象にコスメティック・タイヤを販売

 「Nitto」は、米国で販売されているタイヤブランド。実はその出生は日本で、スタートは1949年にさかのぼる。1979年に東洋ゴム工業(株)が支援するかたちで吸収、本拠を米国に移し、Nitto Tire U.S.A Inc.が誕生した。当初は一般向けのタイヤを商社経由で販売してきたが、現社長の水谷友重氏が1992年に米国に赴任したのを機に戦略を転換。1990年代半ばからは、車好きでタイヤにも徹底的にこだわるマニア層を対象に、コスメティック・タイヤの販売に注力してきた。日本国内では2005年にニットージャパン(株)を設立してビジネスを本格化。現在は「Nitto」をグローバル・ブランドに育成するべく、積極的な展開に乗り出している。
 同社のターゲットは、いわゆる“Connected Generation”。彼らは年代にかかわらず、日々の生活の中でインターネットによりつながり合っており、商品購入時にはネット上のクチコミを重視するのが大きな特徴。従って、マーケティング・コミュニケーションにおいてはインターネットに注力し、ソーシャルメディアからWebサイトへの流入を促進することで、急成長を遂げてきた。
 同社が活用しているソーシャルメディアの中でも代表的なのはFacebook。同社のページに「いいね!」をしているファン数は、2010年5月の立ち上げ当初は10万人だったものが、翌2011年には100万人、そして今日では350万人に達している。これは世界のタイヤメーカーの中でも圧倒的な1位であり、自動車業界全体でも10位に位置する。
 同社のマーケティング・マネージャーである宮本グロリア氏によると、100万人のファンを獲得するまでは比較的簡単だが、100万人をさらに増やしていくのは容易ではなく、戦略的な取り組み抜きには成し得ないという。同社におけるファン拡大の起爆剤となったのは、ソーシャル・ゲーム。「Car Town」というFacebookのゲームに協賛し、同社のページに「いいね!」をすると、ほかでは手に入らないバーチャルな車をプレゼントするキャンペーンを展開、一気に80万人のファンを獲得するに至った(現在ではFacebookの規約が変わり、同一のキャンペーンは展開できなくなっている)。
 現在、同社のWebサイトのアクセス数が月に約14万件であるのに対し、Facebookのファン数は約24倍の350万人、「話題にしている人」は1日に25万人に達しており、1日でWebサイトの1カ月分を抜く勢い。かつ、Webサイトが一方向的であるのに対し、Facebookは双方向であることから、ファンとの信頼関係の構築には最適と高く評価している。
 同社ではファン数のみならず、投稿への「いいね!」や シェアなどのエンゲージメントを重視しており、毎朝欠かさずにファン数、エンゲージメント数に加え、エンゲージメント数をファン数で割ったエンゲージメント率をチェック。投稿当たりの「いいね!」数は3万、シェア数は2,000に及び、エンゲージメント率は、自動車業界の平均が3%と言われる中、8 ~ 11%と驚異的な数値を達成している。

Facebookのエッジランク変更を受けて「アンバサダー・プログラム」を開設

 前述のように、Facebookページの運用で、業界水準を大きく上回る実績を挙げる同社だが、最近ではエッジランクのアルゴリズムが変更されたことで、Facebookページのリーチは減少傾向にあり、一般的にファンの15%程度にしか到達できなくなっているという。これに伴い、米国のマーケターの間では、(リーチを広げるためには)いずれ有料での広告出稿に踏み切らざるを得ないとの噂も流布されている。こうした中、同社ではこの2月末に「アンバサダー・プログラム」を開設。Facebookをはじめとするソーシャルメディアのリーチ拡大に乗り出した。
 これは、18歳以上であれば、Webサイト上で必要事項を登録するだけで誰でも参加できるプログラム。アンバサダーの役割は、コミュニティ・サイト上のNittoの記事をソーシャルメディアを介して友人とシェアしたり、自らテキストや写真、動画を投稿したりすることでクチコミを拡散し、Nittoブランドのファン醸成に寄与すること。シェアや投稿の報酬としてポイントを獲得し、これを蓄積して、Tシャツやバッグなど、非売品のNittoのロゴ入りグッズと交換できる仕組みになっている。
 アンバサダー向けのコミュニティ・サイトには、自動車関連のニュースやモータースポーツ情報、同社からのお知らせ、製品情報などが掲載されており、それぞれの記事の右上にはシェアボタンと合わせて、その記事をシェアすることで獲得できるポイント数が表示されている。記事ごとのポイント数は、例えばTwitterやFacebookへのシェアでは動画以外が35ポイント、動画が60ポイント、投稿では動画以外が50ポイント、動画が100ポイントといった具合。月間、年間での獲得ポイント数上位者は、サイト上の「LEADERBOARD」のページで紹介されるほか、同社製品を含む特別な賞品を受け取ることができる。
 プログラムの立ち上げに当たり、同社が月2回、発行しているeニュースレターの講読者3万2,000人の中から毎回開封しているファン層を対象に案内を送信したところ、4月22日時点で813人が登録するに至っている。

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「アンバサダー・プログラム」のホームページ(写真左)と、ポイント獲得上位者を表示した「Member Leaderboard」(写真上)のページ

ソーシャルメディア活用を支えるコンテンツ開発の仕組みづくり

 同社におけるソーシャルメディア活用の成功の影には、ファンを魅了するコンテンツ開発の仕組みがある。具体的には、Automotive Newsサイト「Driving Line」やコンテンツ・コントリビューション・ページ「Lightbox」を運営しているほか、米国では200以上を数えると言われる自動車の車種別のフォーラム(コミュニティ・サイト)にその車に装着できるタイヤのオンライン・リリースを投稿。さらには、フォーラムのオピニオン・リーダーにサンプリングを行って、商品が気に入ればレビューを書いてもらうといったことだ。
 この2月に立ち上げたばかりの「Driving Line」では、同社が「コントリビューター」と呼ぶプロのライターに、車やモータースポーツに関する記事の執筆を依頼。「Lightbox」は、同社のタイヤを履いた車の写真や動画を収集することを目的に2011年9月に立ち上げたページで、同サイトに投稿された写真や動画を広告やソーシャルメディアで活用した場合には投稿者にポイントを付与、獲得ポイント数に応じてロゴ入りグッズや自社製品と交換する仕組みになっている。各サイトのコンテンツの一部は、アンバサダー・プログラムのコミュニティ・サイト上にもアップされている。
 同社がこれらのサイトに注力するのは、多くのリーチが見込めることに加え、効果測定が容易なため。つまり、記事ごとのアクセスログを集計・分析することで、どのような記事に人気があるかを一目瞭然で把握し、サイト運用やコンテンツ開発に生かすことができるからだ。
 これらのサイトからのリンクを一手に担う同社のWebサイトでは、ブランド・イメージをしっかりと表現。加えてスマートフォン対応にも注力しており、2010年に専用サイトを構築したほか、アプリ開発やゲームへの協賛も行っている。ちなみに現在、同社サイトへの1カ月当たりの総アクセス数約20万件のうち、スマートフォン経由でのアクセスは30%に達しているそうだ。
 「アンバサダー・プログラム」自体は開設から2カ月とまだ日が浅いが、Facebookのエッジランクの行方と合わせて、今後の動向を見守っていきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年6月号の記事