全国のバーテンダーを会員化 来店客に「竹鶴ピュアモルト」を薦めるトークの材料を提供

アサヒビール(株)

アサヒビール(株)は、同社が販売する主力ウイスキーブランドの「竹鶴ピュアモルト」を推奨してくれるバーテンダーを会員化する「竹鶴アンバサダープログラム」を2012年にスタートさせた。年間を通じて、同ブランドの隠されたストーリーや情報を参加するバーテンダーに提供するユニークな試みだ。

主要な販売先は夜間営業の飲食店 エンドユーザーは男性の来店客

 国内ビールメーカー大手のアサヒビール(株)は、1934年創業の洋酒メーカーであるニッカウヰスキー(株)を2001年に完全子会社化し、同社商品の販売や営業をアサヒビール側が主導する現体制に移行。2012年4月から主力ウイスキーブランドの「竹鶴ピュアモルト」を推奨してくれるバーテンダーを会員化する「竹鶴アンバサダープログラム」を展開。年間を通じた独自のプログラムで、参加登録をしたバーテンダーに情報を継続的に提供し、最終的なレポート審査で「竹鶴アンバサダー」に認定する制度である。
 竹鶴ピュアモルトは、ニッカウヰスキーの創業者で、「日本のウイスキーの父」と称される故竹鶴政孝氏の名を冠し、2000年に発売。商品ラインナップには、数量限定の「竹鶴25年ピュアモルト700ml」を筆頭に、熟成期間や容量などが異なる9アイテムがある。
 2012年の販売数量は、前年比104.1%の約9万5,000箱(1箱=700ml×12本換算)に達し、好調に推移している。ウイスキーの世界的な品評会で、「ニッカ竹鶴17年」が2012年の最高賞を受賞するなど、名実ともに、ニッカウヰスキーのフラッグシップ・ブランドとしての地位を確立している。
 販売先は、ビールのように一般家庭でも消費される商品とは異なり、酒類量販店のウエイトは比較的小さく、夜間営業の飲食店が中心。特に、クラブやラウンジ、スナックといった経営形態の店舗が多い。最終消費者は、こうした店舗を利用する40〜50代を中心とする男性層である。

創業者の偉業にフォーカス 巧みに差別化されたアプローチ

 販売拡大に向けてのプロモーションには、従来から、ボトルキープをしたお客さまに店舗を介してノベルティを提供するといったキャンペーン型の手法を採用しているが、一定の効果は得られるものの、目新しさに欠け、効果もキャンペーン期間に限定されるきらいがある。マス広告については、テレビCMはコスト効率の観点から利用しておらず、一部の雑誌広告などを限定的に実施してきた。これらに加えて新たに企画された竹鶴アンバサダープログラムには、競合ブランドのプロモーション戦略と一線を画し、差別化を推し進める狙いがあった。
 このプログラムのターゲットは、夜間営業の飲食店のうち最も多い販売先であるクラブやラウンジではなく、来店客がバーテンダーとのコミュニケーションを通じてお酒を楽しむバーである。バーでは、どのブランドのウイスキーを来店客に薦めるかはカウンターに立つバーテンダー個人の判断に委ねられている場合があるため、竹鶴ピュアモルトに対するバーデンター自身のロイヤルティを向上させることを目標とした。
 また同時に、バーテンダーが来店客に特定のブランドを薦める際の典型的なアプローチが、ブランドにまつわる何らかの薀蓄(うんちく)や固有のストーリーを語り、来店客の関心や興味を巧みにブランドに向けてもらうものであることから、ブランドを語る上で欠かせない、ストーリー性のある具体的な情報をバーテンダーに提供することに企画の主眼が置かれた。
 さらに提供する情報は、競合ブランドとの差別化を図るため、国内のバーテンダーの間で、没後もなおカリスマ的な存在として語り継がれるニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝氏の人生にフォーカス。ウイスキーづくりにかけた竹鶴氏の人生をストーリーとして発信することで、バーテンダーが来店客にブランドを推奨する際に、話題のきっかけとしてもらうことを狙った。

最終レポート評価の上位20人を北海道工場余市蒸留所の視察旅行に招待

 竹鶴アンバサダープログラムを初めて実施した2012年度は、4~5月にアサヒビールの営業担当者が、全国のバーを訪ねてプログラムの参加者を募集。参加登録者にはもれなく、特製オリジナルのピンバッジがセットになったキットなどを送付。6月には、参加者限定のWebサイトを公開。ニッカウヰスキーのチーフブレンダ―が、竹鶴政孝氏の歩みやエピソードをはじめ、竹鶴ピュアモルトのテイスティングの方法を動画で紹介するコンテンツを用意した。
 ウイスキーの消費が増えるのは、例年、秋口から年末にかけてであることから、この時期にプログラムの効果が発揮されるように、2回の会員向けダイレクトメール(DM)を実施。7月発送の初回DMでは、会員限定のWebサイトを告知したほか、竹鶴ピュアモルトの販売実績があった参加者を対象に、ボトルをディスプレイするための特製スタンドを贈るキャンペーンを実施。続く10月発送のDMでは、やはり販売実績のあった参加者を対象に、カウンターなどで使う特製バーマットとカクテルづくりに使う特製シェーカーのセットを贈った。
 プログラムの途中で参加者が脱落することを防ぐため、参加者限定のWebサイトでは、新規のコンテンツを段階的にアップするなど、DM以外にも会員との接点を設けた。12月には、竹鶴ピュアモルトのブランドを店内で効果的にアピールする手法やオリジナルカクテルなど新しい飲み方、ブランドへの思いなどをつづるレポートの提出を求め、社内外の審査員が点数で評価。販売本数などの要素も加味して、上位20人を「竹鶴アンバサダー・オブ・ザ・イヤー」に認定し、今年6月に北海道工場余市蒸留所の視察旅行に招待する。中でも特に優秀と認められた5人については「竹鶴トップ・アンバサダー・オブ・ザ・イヤー」として18金の特製ピンバッジを贈呈し、殿堂入りさせる予定だ。

ブログなどを通じて“体験”が拡散 Web 調査で浸透指標のポイントが上昇

 初年度は全国のバー1,000店の参加を目標に登録を募り、約850人のバーテンダーの応募を獲得。これらの会員に特製グッズを贈るキャンペーンを案内するDMを送付したが、これへの参加数は、7月発送のDMで約400人、10月発送のDMで約200人だった。最終レポートの応募は、ウイスキーづくりを学ぶために単身、渡英した竹鶴政孝氏が万年筆1本と記録用のノートを肌身離さず持ち歩いていた逸話にちなみ、直筆を条件としたこともあり、80人程度にとどまったというが、あえてハードルを高く設定することで参加者の達成感や高揚感が高まった。
 プログラムは、あくまでもブランドの評判を高めてくれるバーテンダーを養成するのが狙いで、短期的な売上効果を期待するものではない。参加したバーテンダーには、竹鶴ピュアモルトの熱烈な支持者も多く、プログラムに参加した体験をブログやソーシャルメディアを通じて拡散するケースも少なくなかった。一方、エンドユーザーを対象にアサヒビールが定期的に実施しているWeb調査では、ブランドの認知や購入意向など浸透指標のポイントは昨年秋以降、上昇傾向にあり、プログラム実施の効果のひとつと考えられている。
 今年4月からは2013年度のプログラム参加者の募集を始めており、昨年度の参加者には継続参加を呼び掛けている。同社では、参加者限定のWebサイトによる情報発信の強化など、プログラムの拡充を図っていく方針で、ウイスキーづくりに打ち込んだ創業者の夢と情熱をてこに、バーテンダーのロイヤルティを一層高めていくことにしている。

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「2012 竹鶴アンバサダープログラム」のパンフレットと登録用紙。営業担当者が丁寧に主旨や内容を説明し、登録を募った


月刊『アイ・エム・プレス』2013年6月号の記事