シニア男性に料理教室が人気 実践を通じて独自のノウハウ培う

(一財)ベターホーム協会

東京や大阪など全国18カ所で料理教室を運営する(一財)ベターホーム協会では、趣味として料理を楽しむシニア男性に料理の初心者向けコースが人気だ。長年の実践を通じて培ってきた独自の指導ノウハウを講師の間で共有することによって、受講者の満足度アップやリピート促進を目指している。

全国18カ所で料理教室を開催 初心者向けなど16コース

  (一財)ベターホーム協会は、日本が高度経済成長期の真っただ中にあった1963年、いたずらに消費文明に乗ることなく、暮らしや食についてよく勉強し、賢い消費者になろうという主婦たちの自発的な学習組織として発足。基本理念として、食を通して多くの人々の健康で心豊かな暮らしをサポートし、社会に貢献すること、そして食分野で社会貢献しようとする志の高い主婦たちの生涯学習と自己実現をサポートすることを掲げている。1975年には財団法人の認可を受け、2010年には一般財団法人に移行。現在の活動拠点は、東京、大阪、名古屋、札幌、仙台、福岡の5都市である。
 中核事業となるのは料理教室。発足当初から主婦たちが協会で学んできたことを、さらに地域社会へ広めていこうと、誰もが楽しく参加できる料理教室という形態をとって、多くの人への普及啓発を行っている。つまり、教室指導に当たっている女性たちこそが、賢い消費者になろうと協会で学び、体系的な研修を受けたリーダー会員と呼ばれる主婦たちなのである。家庭でパンを作る文化がまだほとんどなかった1972年には、安全でおいしいパンを手作りしようと、パン作りの入門講座「パンの会」をスタートさせ、話題を呼んだことでも知られる「ベターホームのお料理教室」は現在、全国18カ所で開催。初心者向けのコースをはじめ、お米料理や魚のさばき方を教える会など、同協会が社会へ伝えていきたいことを講習会化し、全16コースを提供している。
 このほか、出版事業や、リーダー会員が生活者の視点で開発した調理器具や食品の販売事業も展開する。また、家庭科の先生や保育士を対象に食育をテーマとする講習会や、ホームヘルパー向け料理教室を無料開催するなど、公益事業にも積極的に取り組んでいる。

退職後に趣味で料理を始める シニア男性向けコースを企画

 「ベターホームのお料理教室」の受講には会員登録が必要だが、現在の会員数は、約5万人となっている。受講者のボリュームゾーンは発足当初から、20 〜 30代の女性であることに変わりはないものの、時代とともに、受講者の料理教室に対するニーズや技術的なレベルは大きく変化してきた。例えば、近年は若い女性の間で、料理に関する知識や経験が極端に乏しい受講者が目立ち、一昔前には考えなれなかった「お米をとぐのに、食器用の洗剤を使ってしまった」というようなケースも見られるという。そのため、こうした初心者向けのコースを拡充している。
 国内における高齢化の進展を背景に、60代以上のシニア会員も増加傾向にあり、現在では60代以上の会員が全体の2割程度を占めている。特にシニア層の会員については、男女によって、受講の動機や料理のレベルなどに大きな違いがある。
 シニア女性の場合は、これまで長年にわたって同協会の料理教室を継続的に受講してきた層が中心。主婦として料理の経験が豊富で、調理のスキルも高く、例えば、和菓子作りといった新しいコースが加わると、レパートリーを増やそうと受講するケースが目立つ。
 一方でシニア男性の場合は、かつては家庭の事情から自炊する必要性に迫られて受講するケースも少なくなかったが、近年では、退職後に自由な時間を楽しむための趣味として料理を始めるケースが大半であり、日常的な料理の経験がほとんどない初心者も多い。同協会では、こういったシニア男性を意識したコースやカリキュラムの充実を図ってきた。「女性ばかりの中で受講するのは気が引ける」といった声を受けて、男性だけのクラスも編成している。
 そもそも、「ベターホームのお料理教室」で男性だけのクラスを開講したのは1991年のことだが、以来、男性会員は増加傾向にあり、現在は約6,000人に達している。そのうち、60代が約半数を占め、70代が1割強。男性会員の中心はシニア層となっている。

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ベターホーム協会の男性向け料理教室の風景(上)。新規会員獲得には新聞広告を活用。写真は日本経済新聞に出広した全5 段広告(右下)

理由や根拠を具体的に示し納得感を得ることがポイント

 料理の初心者であるシニア男性向けのコースとしては、和洋中の定番料理をゆっくりとしたペースで実習する「お料理はじめての会」や、基本的な料理の技術の習得に力点を置いた「ベターホームの和食基本技術の会」の2つがある。いずれも、月1回のペースで2時間15分の実習があり、期間は1年間。初めての受講には、入会金として2,100円が必要で、半年分(6回)の受講料(材料費込み)は、「お料理はじめての会」が2万1,900円、「ベターホームの和食基本技術の会」が2万2,900円。調理方法だけでなく、エプロンや三角巾などの身支度や調理器具の扱い方から、食器洗いなどの後片付けまで指導している。中でもシニア男性向けコースでは、これまでの実践を通じて蓄積してきた独自の指導ノウハウを生かし、受講生の実習に対する理解促進や満足度アップに効果を上げている。
 特に男性は、調理方法などに関して、理由や根拠を求める傾向があるという。そのため、例えば煮魚を作る際、「煮汁が沸騰してから魚を入れると、表面のたんぱく質が固まって、うまみ成分が逃げ出さない」「ふたをせずに煮ると生臭さがこもらない」といった、なぜそうするのかの理由を盛り込むことが効果的とされる。また、受講者の自主性を尊重する姿勢も重要。「自分1人で上手に調理して見せたい」という気持ちが強く、調理の途中で講師の手を借りることを嫌う傾向も強い。企業の管理職などとしてキャリアを積んできた男性も多く、自尊心を損なわずに実習を楽しんでもらえるよう、指示的な表現や態度は控えるようにしている。
 一方でシニア男性は、「大さじ1杯」「ゆで時間3分」といったレシピの細かい指示にも、概してきちょうめんに対応。「実習で学んだ料理を、家庭で家族に振る舞いたい」というように目的意識も明確であることから、実習にも熱心に取り組み、上達も早い。「お料理はじめての会」のメニューの中で、ハンバーグがシニア男性に最も人気がある理由のひとつには、「家で作って、孫や家族に好評で嬉しい」といった思いがあるようだ。

受講者に現れる“前向きな変化”クチコミで評判を呼ぶ

 シニア向け男性教室の告知は、主に新聞広告とWebサイトを通じて行っている。しかし実は、最も効果があるのは、実際に料理教室を受講した体験者によるクチコミだという。
 同協会では、シニア男性に対して、料理を習うことによって生活や気持ちがどう変化したかについてのアンケート調査を定期的に実施し、その結果を広く社会に発信している。このアンケート結果によると、料理を始めたことをきっかけに、家事や買い物、暮らしなどとさまざまなことに視野や興味が広がり、夫婦の会話が増え、妻への感謝の念が生じるなど、シニア男性の受講者の多くには“前向きな変化”が現れている。この結果、1年間のコース終了後も別のコースを継続して受講するシニア男性の割合は高く、同時に、その喜び・楽しさを本人から聞いた友人・知人が、新たに入会するというケースが多い。これを受けて協会としても、受講生に友人・知人を紹介してもらうキャンペーンを展開している。加えてシニア男性にとっては、新たな友人が得られることも料理教室を受講する楽しみのひとつとなっているようだ。
 同協会では今後も、料理教室などを通して、シニア男性の食の自立をサポートしていく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年3月号の記事