定期的なイベントの開催などでたゆまぬ活性化を図る“おばあちゃんの原宿”

巣鴨地蔵通り商店街振興組合

“おばあちゃんの原宿”として知られる巣鴨地蔵通り商店街振興組合では、人気に安住することなく、常に新たな取り組みを模索。シニア層の人気を保つとともに、戦略的な情報発信などによって、ファミリー層をはじめとする新たなターゲットの開拓にも力を入れている。

新聞記事からスタートした“おばあちゃんの原宿”

 “おばあちゃんの原宿”のキャッチフレーズで全国的に知られる東京・巣鴨地蔵通り商店街。しかし、そのキャッチフレーズは商店街を形成する商店で組織される巣鴨地蔵通り商店街振興組合が自発的に使い始めたものではない。
 旧中山道の一部である巣鴨地蔵通りは、江戸時代中期から商業や信仰の場として栄えてきた。その中核に位置するのが“とげぬき地蔵”として全国的に有名な高岩寺であり、また、全長約780mの商店街の両端近くには江戸六地蔵尊のひとつとして知られる東光院眞性寺と巣鴨猿田彦庚申堂(神社)が所在していることから、もともと来街客の多くは参拝と買い物を楽しむシニア層であった。その様子に目を付けた読売新聞社が1987年に、「おばあさんの原宿」という見出しで同商店街を紹介する記事を掲載したことをきっかけに、類似のキャッチフレーズが多くのマスコミにも用いられるようになり、全国的に普及・定着したのだ。
 2013年1月現在、商店街を構成する商店数は約200店舗。衣料品店、雑貨・生活小物・化粧品店、和菓子店・甘味処、食料品店などが多く、最近ではシニア層をターゲットとする健康食品専門店なども増えている。JR・都営三田線巣鴨駅側の入口からとげぬき地蔵(高岩寺)までのエリアでは、関東一円からのバスツアー客などの観光客を意識した衣料品店などが、その他のエリアでは、近隣住民の生活を支える食料品店などが比較的多いのが特徴だ。
 最近の来街者数については正確な統計はないが、通常の平日で1万~ 3万人、後述する“縁日”開催日では4万人前後、日・祝日では6万人前後の人出となっているもようである。

商店の多くが商店街全体の振興を意識

 巣鴨地蔵通り商店街が、キャッチフレーズが生まれた1987年以降、“おばあちゃんの原宿”として高齢者層に不動の人気を誇っている要因としては、その人気に溺れることなく、定期的なイベントの開催などで商店街の活性化に努めていることが挙げられるだろう。
 例えば、毎月“4”の日(4日、14日、24日)には縁日を実施。そのほか春・秋には「どんがら市〈ザDONがら〉」、夏には「すがも朝顔まつり」、11月には「菊まつり」といった大規模イベントを実施しているが、このうち「菊まつり」については21年前の1992年、「すがも朝顔まつり」に至ってはわずか5年前の2008年に始まったもの。つまり、いずれもすでに“おばあちゃんの原宿”として高い人気を獲得して以降にスタートしているのだ。これは、同商店街が人気に安住することなく、常に新たな取り組みを模索している証しであると言えるだろう。
 さらに、歴史ある商店街でありながら、新たな取り組みに積極的にチャレンジしていることも特徴的だ。例えば、2009年には「ゆるキャラブーム」にいち早く対応。当時、商店街のキャラクターとしてポスターや看板に使用していた巣鴨の鴨をモチーフにした“すがもん”の着ぐるみを作成し、イベントに登場させるほか、ぬいぐるみや携帯ストラップなどのグッズの販売も開始した。さらに商店街の各個店にキャラクター使用のライセンスを廉価で提供することによって、さまざまなグッズの開発を後押し。各地の「ゆるキャラまつり」や「ゆるキャラグランプリ」にも積極的に参加し、全国的に知名度を高めた。また、商店街の巣鴨駅側の入口には、“すがもん”のチャームポイントでもある“お尻”のオブジェを設置。女子高生の間で「すがもんのお尻を触ると恋が実る」という“都市伝説”も生まれ、人気スポットとなっている。
 そして、商店街を構成する商店の多くが、自店だけではなく、商店街全体の振興を意識している点も大きな強みだ。例えば“4”の日の縁日には、商店街に200前後の露店が立ち並ぶが、自店の前に露店が並べば客が入りにくくなり、売り上げにはマイナスの面もある。そこで露店を通りの右側と左側とに1日ずつ交互に出店することで、各店舗が少しずつマイナス要素を許容し合い、縁日の円滑な開催を継続しているのだ。

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巣鴨地蔵通り商店街の年中行事のひとつ、「どんがら市」の開催風景。上は2010 年に登場したキャラクター“すがもん”

AEDを商店街内3カ所に設置するとともに使用法の講習会も開催

 主要顧客層であるシニア層を意識した心遣いも多い。
 例えば、シニア層にとって悩みの種ともなるトイレの問題については、公衆トイレの数に限りがあることから、各店舗ができる限り開放している。また、4 ~5年前には、全国の商店街の中でも先駆けてAED(自動体外式除細動器)を商店街の3カ所に設置。いつでも誰でも使える環境を整備するほか、医師免許を持つ高岩寺の現住職を講師として、模擬体験を含めた使用法の講習会を定期的に開催するなどして、シニア顧客の万が一の事態に備えている。
 そのほか、近年では同商店街の店舗を紹介するTV番組などを見た来訪者からの「TVで紹介されていた店舗はどこ?」といった問い合わせが増加していることから、2010年ごろから巣鴨駅側の商店街入口付近に“4”の日および土日・祝日限定で案内所を設置。ガイドが常駐して、問い合わせに対応している。
 さらに近年では、シニア層をターゲットとした振り込め詐欺などの犯罪や、悪徳商法なども増加していることから、商店街の有線放送などで注意を呼び掛けたり、振興組合の入会審査基準を厳しくしたりといった対応も行っている。

シニア層を大切にしつつもそれだけに依存しない商店街を目指す

 同商店街は、特にコミュニケーション施策において、近年ではむしろ、シニア層だけでなく幅広い層に向けた取り組みを強化している。
 従来、同商店街の広報活動では、近隣世帯を対象とする新聞折込チラシ以外はコストが発生する施策は行っておらず、JR・都営三田線巣鴨駅の協力による商店街のイベントのポスター掲示のほか、TV番組を中心とするマスコミ取材への積極的な対応、全国からの視察や修学旅行での職業体験の受け入れなど、パブリシティ効果を狙った取り組みが中心であった。
 最近でも、あまりコストをかけないという方針に変わりはないが、新しい取り組みとしては、公式Webサイトに加え、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアの活用を開始。また、2013年1月には広告代理店での勤務経験がある人材を振興組合事務局の専従スタッフとして迎えるなど、戦略的な情報発信を進めるための体制を整えている。
 これらの取り組みを通じて、同商店街が目指しているのは、現在のメイン顧客層であるシニア層だけでなく、ファミリー層や若者層なども多く来訪する、“会話のできる温かみのある”商店街を実現することだ。その実現を目指し、商店街振興の中核をなす振興組合の理事職についても、従来からの“長老”層に加え、若手の商店主を登用。これら若手理事の意見なども積極的に採用していくことで、老若男女が行き交う活気のある商店街の維持・発展を図っていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年3月号の記事