よりビジネスに貢献するために現場への権限委譲を推進

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Incでは、日本国内のコールセンターにおいて現場への権限委譲を進める取り組みを展開。一次対応で完了に至らなかったコールの内容検証をベースに、徐々に対応業務を拡大していくことで、お客さま満足度の向上を実現している。

“お客さまに感動体験を届ける”ための重要拠点

 1850年に創業し、クレジットカード事業、旅行小切手や旅行代理店などの旅行関連事業などを展開するグローバル企業、アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc。日本では1917年、横浜に事務所を開設。さらに1954年には日本支社を開設し、クレジットカード・サービスを中心とする事業を展開している。
 全社を挙げて“お客さまに感動体験を届ける”ことを大きなテーマとして掲げている同社にとって、コールセンターはカード会員と直接コンタクトできる重要拠点として位置付けられている。単に問い合わせへの対応を行ったり、依頼された案件を処理したりするだけでなく、カード会員のサポートを通じて長期的な関係構築に貢献することがミッションとなっており、カスタマーケア・プロフェッショナル(CCP)と呼ばれるスタッフが、“リレーションシップ・ケア”の精神に基づいたお客さま対応を実践している。
 コールセンターの拠点は主に東京で、直接雇用の正社員を中心とする200名弱のCCPをチームリーダー、シニアと呼ばれる管理スタッフが管轄している。対応時間は対象業務によって異なるが、基本的に365日24時間体制で運用している。
 同社の日本国内のコールセンターでは、2010年からCCPへの権限委譲を含む“リレーションシップ・ケア”の取り組みを展開している。この取り組みは、同社の米国のコールセンターから始まった。その結果、米国では多くのお客さまの支持を獲得し、「『アメリカン・エキスプレス』のカードをどの程度家族や友人、知人にお勧めしますか」という設問に対し、推奨度を10段階(最低1、最高10)で示すネット・プロモーター・スコア調査(NPS)で高い評価を得るとともに、利用額や退会率といった指標が大幅に向上。さらにコールセンターの運営コストが約10%抑制されるという成果を得られたことから、日本国内でもスタートするに至ったのである。

「いかにお客さまの気持ちや状況を考え真のニーズをくみ取るか」をトレーニングの中心に

 取り組みの中でまず着手したのが、CCPに対するトレーニングの考え方を変えることだ。
 従来、同社コールセンターにおけるCCPへのトレーニングでは、「いかに間違いのない対応を行えるか」といった“対応スキル”が重視されていた。しかし、高いスキルに基づく対応は、時として“事務的”な印象を与えることもあり、必ずしもお客さま満足につながるとは限らない。そこで同社では、トレーニングの中心を「いかにお客さまの気持ちや状況を考え、真のニーズをくみ取るか」に転換。CCPに対して、問い合わせや依頼の内容、会員データベースからもたらされるプロファイル情報に加え、対話を通じて得られるさまざまな情報、例えば会話内容以外で聞こえてくる周辺の音などにより、どこからのコールなのかを判断し、個々のニーズに対応したパーソナルなサービスの提供を行うためのトレーニングを課すとともに、管理スタッフであるチームリーダーに対しては、適切な指導を行うためのコーチングのあり方をトレーニングしていった。
 CCPの評価のあり方も大きく転換した。従来はQC担当者がCCPの対応をモニタリングし、「いかにスムーズなハンドリングを行えているか」といった観点で判定したスコアをそのままCCPの評価としていたが、その基準をお客さまの評価、具体的には対応完了後のeメールでのアンケートに基づくNPSのスコアに一新。徐々に浸透を図っていった。ちなみにその過程においては、従来、高評価を受けていたスムーズな対応の評価が低くなる一方で、従来は低評価であった、多少たどたどしい部分がありつつもお客さまの意向をできる限り実現しようという対応が高く評価されるといった“逆転現象”も発生したが、時間の経過とともにCCPの意識が変革されていったことで、“スムーズだがお客さま満足につながらない”対応はなくなりつつある。
 このようなトレーニング、評価軸の転換などをベースに進められているのが、取り組みの最終目的とも言えるCCPへの権限委譲である。

具体的なニーズにひとつひとつ対応していくボトムアップ方式で権限委譲を実現

 実際の権限委譲は、机上で対象業務の範囲を定め、適用していくトップダウン方式ではなく、コールセンターの現場での実際のやり取りの中で見つけられた具体的なニーズに基づくボトムアップ方式で展開された。
 具体的には、チームリーダーが定期的に行っているミーティングにおいて、同社コールセンターが目指すところである一次対応完了に至らなかったコールの内容をひとつひとつ検証。その原因が社内の業務システムにある場合、「本当にコールセンター内で解決できないか」を検討し、同時に関係各部署とも協議し、そのサポートを受けつつ、可能なものについて段階的に委譲を行っていった。
 その過程においては、当然、広範な業務知識の取得が必要となることから、社内ポータルサイトを通じたオンラインのセルフスタディのほか、関連部署との共同によるレクチャーやスピーチ・コンテストなどを実施。その結果、CCPへの権限委譲は、これまでのところ順調に進められている。
 なお、同社コールセンターでは、NPSのスコアアップと応答時間の短縮という、一見、相反する目標を掲げている。その実現は非常に困難なものに思われるが、「お客さまのニーズを的確かつ速やかにくみ取れば、対応マニュアルで定められているトークの一部を“端折る(はしょる)”といった対応もできるようになります。実際に、短い応答時間で高い満足度を得るサービスをお届けすることが可能になってきています」と、コールセンターを統括するアメリカン・エキスプレス・ジャパンワールド・サービス事業部担当副社長の萬年良子氏は言う。取り組み開始以降、NPSのスコアは確実に上昇し、同社の業績の向上に貢献しているとのことだ。

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CCPの教育の一環として、スピーチ・コンテストを実施。全員がフリーフォーマットで、顧客視点に立ったプレゼンテーションを行う

お客さま対応に適性の高い人材の確保が課題

 同社コールセンターにおける今後の課題としては、お客さま対応に適性の高い人材をいかに確保していくかが挙げられている。
 同社が目指す“お客さまに感動体験を届ける”コールセンターを実現するためには、高いホスピタリティを持ち、同時に自律的な対処能力がある人材が不可欠である。採用時にこのような資質を持つ人材かどうかを判定することは容易ではないが、今後、採用のメカニズムをブラッシュアップしていくことで、その精度を高めていきたい考えだ。
 さらにコールセンター利用の満足度については、クレジットカード業界にとどまらず、全産業中でのトップを目指して向上を図っていく方針だ。そのための取り組みを通じて、コールセンターのビジネスへの貢献度も明らかにしていきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年2月号の記事