ユーザーとの長期的な関係性を築くマーケティング施策としてアクティブサポートを展開

NHN Japan(株)

検索サービス「NAVER」、無料電話・e メールアプリ「LINE」の提供などを手掛けるNHN Japan(株)では2009年5 月、「NAVER」の提供開始に先立ってTwitter上でのアクティブサポートをスタート。カスタマーサポート部門と役割分担しつつ、提供サービスへの疑問や不満への対応を行っている。

提供する検索サービスの個性訴求を目的にアクティブサポートをスタート

 2000年9月にハンゲームジャパン(株)として設立。2003年8月に現社名への商号変更を行い、その後、検索関連事業を行う子会社ネイバージャパン(株)の設立(2007年11月)、(株)ライブドアの株式取得・子会社化(2010年5月)といった経緯を経て、2012年1月にネイバージャパン、ライブドアを経営統合して、ほぼ現在のかたちを整えたNHN Japan(株)。現在、「ハンゲーム」ブランドでのオンラインゲーム事業と、検索サービス「NAVER(ネイバー)」、ニュース・ブログサービス「livedoor(ライブドア)」、さらには近年話題を集めている無料電話・eメールアプリ「LINE(ライン)」などのWebサービス事業という2本柱の事業を展開する同社では、2009年5月からTwitter上でのアクティブサポートを展開している。
 同社がアクティブサポートをスタートするきっかけとなったのは、2009年7月の検索サービス「NAVER」の提供開始である。「NAVER」は韓国で圧倒的なシェアを誇る検索サービスであるが、当時、日本国内では、検索サービスとして「Yahoo! JAPAN」と「Google」が2大ブランドとして圧倒的なシェアを誇っており、果たして一般のインターネット・ユーザーが新たな検索サービスを欲しているのかという懸念があった。しかし一方には、「NAVER」は以前、2001年4月に日本国内でのサービス提供を開始したものの、思うようにユーザーを獲得できずに2005年8月にいったん撤退したという経緯があったことから、今回は失敗できないという事情もあった。
 同社では「NAVER」を普及させるためには、「Yahoo!JAPAN」「Google」とは異なる個性を訴求することが必要であろうと考えた。そして、「Yahoo! JAPAN」が“有名人”のようなメジャーな存在として認識され、「Google」がその検索精度の高さから“先生”のような存在として評価される中、「NAVER」を“近所の友人”のような存在と位置付け、「世界で一番身近な検索サービス」としての地位を確立することを志向。これを訴求するための手段として全国行脚のキャラバンやオフ会の開催など、さまざまな施策を検討した結果、サービスそのものと同じインターネット上での施策だけに親和性が高く、1対1対nで数多くのユーザーとの関係性を深めることのできるツールとしてTwitterに着目し、検索サービスに対する潜在的な不満や要望を抱いているユーザーに能動的に働きかけるアクティブサポートの実施を決めたのである。

カスタマーサポート部門と役割分担して提供サービスへの質問や不満に対応

 同社のアクティブサポートは、「NAVER」の提供開始に先立って2009年5月からスタート。“NAVER”“ネイバー”といったキーワードでツイートを検索し、対応を行うこととしたが、サービス提供前ということもあり、当然のことながら出現数は極めて少なかった。そこで、一般名詞である“検索サービス”のほか、競合ブランドである“Yahoo”や“Google”などもキーワードに追加。これらに“便利”“不便”“精度”など検索サービスとのマッチング度が高いワードを組み合わせて検索を行い、前後のツイート履歴などを確認した上で、こちらからアプローチしても違和感がないと思われるツイートに対して投稿を進めていった。その後、「NAVER」の普及が進む中でもこの施策を継続。さらに2011年6月の「LINE」リリースに伴って、同アプリに関連する検索キーワードも追加し、現在に至っている。
 同社でアクティブサポートを担当しているのは、プレスリリース配信やマスコミ対応などを手掛けるマーケティングコミュニケーションチームのスタッフ。基本的には1名で業務時間中に対応しており、新サービス・機能のリリース時など多くのツイートが集中するタイミングでは、周辺のスタッフが協力する体制を採っている。
 対応しているツイートは1日平均20 ~ 30件程度だが、新サービス・機能のリリース時などには「使い方がわからない」「バグがある」といったツイートが増加することから、最大100件前後に対応することもある。内容的には提供するサービスに対する疑問や不満などへの対応が中心だ。なお、ユーザーからの疑問や不満への対応は、カスタマーサポート部門が担当するWebサイトの問い合わせフォームでも行っているが、これがクローズドなコミュニケーションで個別の質問・不満を解決しているのに対し、アクティブサポートでは、1対1対nのコミュニケーションの中で、個別の質問・不満を解決しつつ広く周知も図れると認識しており、役割の違いから今後も双方を並行して実施していく考えである。

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同社が今後もサービス訴求に役立てていきたいという「NAVER」アカウント

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さらなる信頼性向上のために活用していく意向の「LINE公式アカウント」

社内各部門の協力を得ながら提供する情報の正確性を確保

 同社がアクティブサポートの実施において留意しているのは、まず公式アカウントからの発信として信頼性を確保すること。そのために投稿する内容については、社内各部門の協力を得ながら提供する情報の正確性を確保するよう心掛けている。
 また、コミュニケーションの品質という部分では、対象とするツイートの発信者とできる限りトーンを合わせるように努めている。もちろん最低限の敬語を使うことが前提とはなるが、やり取りとして違和感がない程度にフランクな表現を志向。また、特にインターネットの世界ではリテラシーによりどの程度の専門用語が通用するかが大きく異なるため、前後のツイートなどを十分に検討し、伝わりやすいワードを選択するといった配慮も行っている。
 なお、Twitterでのやり取りにおいて個人情報は扱わないこととしており、質問や不満の解決に個人情報が必要となる場合には、Webサイトの問い合わせフォームに誘導するといった対応を行っている。
 アクティブサポートの効果については、具体的な検証を行うことはなかなか難しいと感じている。当初は公式アカウントのフォロワー数などをチェックしていたが、アクティブサポートとの因果関係が不明確なことなどから、現状では特に重要視していない。しかし、少なくともユーザーの疑問や不満の解消に一定の貢献を果たしていることは確実。また、アクティブサポート実施のために行っているTwitterの“傾聴”により得られた情報が、毎日、社内(Webサービス本部内)にレポートされることで、例えばTwitter上で行われていた「LINEのフォントが小さすぎて見えない」「いや、大きすぎる」といったやり取りに対応して、フォントを4段階に設定できるように変更するなど、サービス・機能の機動的な開発・改善にも役立っていることから、今後も施策は継続していく方針である。
 その中で、特に「NAVER」についてはまだまだ普及の余地があるという認識からサービスの訴求に、一方「LINE」については無料電話・eメールアプリのマーケット・リーダーとしての地位を確保しているという認識から信頼性の訴求に力点をおいて、コミュニケーションを展開していくという。
 さらに今後については、同社サービスの北米市場での展開なども計画していることから、英語対応も視野に入れつつ、知見・ノウハウの蓄積に努めていく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年10月号の記事