育児経験のあるスタッフがスペシャリストとして売上拡大に貢献

(株)ミキハウス

ベビー・子ども服などの企画・製造・販売を手掛ける(株)ミキハウスでは、主要ブランドのひとつである「ミキハウスファースト」が20周年を迎えるに当たって、「認定子育てキャリアアドバイザー」制度をスタート。育児経験のある女性スタッフに、スペシャリストとして責任ある立場を与えることが、売上拡大にも大きく貢献している。

経験・知識豊富なスペシャリストがマタニティ層の来店客にも責任を持って対応

 国内の約180の直営店、および約60のフランチャイズ店を中心に、ベビー・子ども服、および子ども向けの靴、おもちゃ、雑貨などの販売事業を手掛ける(株)ミキハウス。同社では2010年に主要ブランドのひとつである「ミキハウスファースト」が20周年を迎えるに当たって、「認定子育てキャリアアドバイザー(KCA)」制度を立ち上げ、以降、その運用を通じて、同ブランドの販売促進を図っている。
 「ミキハウスファースト」は「はじめて出会うミキハウス」をコンセプトとするブランドだ。新生児から2歳までの赤ちゃんを対象に、安心・安全・品質を第一として、出産準備品、肌着、セレモニードレス、お出かけ用のウエア、おもちゃ、帽子、家具、寝具などさまざまなアイテムを展開しており、ブランドの性格上、来店客にはマタニティも多い。一方で、同ブランドを取り扱う直営・FC店では店長以下、妊娠・出産を経験していない若いスタッフが大半を占めていることが多く、従来は来店客からの妊娠・出産や子育てにかかわる相談などに十分に対応できないケースも見られた。
 そこで、特に初めての妊娠・出産で大きな不安を抱えているマタニティに、十分なコンサルティングやサポートを提供することを目指し、KCA制度を立ち上げ。多くの店舗で販売サポートスタッフとして活躍していた育児経験のある女性を、あらためて教育・研修を施した上で、責任を持って「ミキハウスファースト」の販売に当たるスペシャリストとして位置付けた。

対象者を選抜して内容を絞り込んだ研修を実施

 KCA制度の立ち上げに当たっては、同社店舗で販売サポートスタッフとして活躍していた出産・育児経験のある女性の中から、店長の推薦などによって、東日本地区で約70名、西日本地区で約80名を選抜。これらのスタッフを対象に2009年2月に初回研修、同年秋に2回目の研修を実施した。
 研修の内容は、KCA制度についての説明のほか、「赤ちゃん」「肌着」「ウエア全般」「グッズ」「布団・寝具」「ベビーカー」についての講義が中心。これを初回と2回目の研修に分けて学ぶ。座学のほかに、販売手法にかかわるロールプレイングなども交え、各スタッフが勤務する店舗で「ミキハウスファースト」の売り場づくりやマタニティへの接客を、自信を持って実施できるように構成した。
 研修を受けたスタッフには、その後、研修内容に基づく売り場づくりなどに関するレポートの提出を義務付け、そのレポート提出を経て、2010年4月に第1期KCAとして認定。代表取締役社長も出席して認定式を実施し、認定証を授与した。なお、同制度についてはその後も新たな対象者への研修を実施。2011年には第2期KCAが誕生、この春には第3期KCAの認定が行われる予定だ。これによって、ほぼ全店に1名以上のKCAを配置する体制が確立されつつある。
 研修の対象になったスタッフにおいては、研修以前は「ミキハウスファースト」を主体的に責任を持って販売していくことについて、「やっていけるか不安」といった声も少なからず聞かれた。しかし、研修を通じてモチベーションを高めたスタッフが多く、その後については非常に積極的な取り組みを行うようになったとのこと。また、対象スタッフにはもともと同社の正社員として勤務し、結婚・出産を機にいったん退職して、子育てが一段落した後に販売サポートスタッフとして復帰した、いわゆるOG層も多数存在したことから、かつての同僚が研修で再会したことをきっかけに、売り場づくりなどについて日常的な情報交換を行うようになるといった副次的効果も生まれているとのことである。

継続的なフォローアップ研修でモチベーションを維持

 KCA制度の特徴は、一度認定を受ければ完了というかたちではなく、2年ごとの更新制とし、認定スタッフにも年2回のフォローアップ研修への参加を義務付けていることだ。
 フォローアップ研修の内容は、「ミキハウスファースト」に関する日常の接客で、多くのスタッフが苦労しているテーマ、例えば、「出産後の顧客へのアプローチ方法について」といったもののほか、特定分野の商品の販売手法についてなど。研修を担当するスタッフサービス事業部では、当該分野で高い実績を上げているスタッフによる模範ロールプレイングや、商品を供給するメーカーの担当者を招き、実験を伴う商品解説なども交えることで、マンネリ化を防ぐとともに、新商品発売など同ブランドの実際の商品展開と連動させることで、研修効果が直接的に発揮されやすいよう配慮している。
 なお、この研修の中でも、特にロールプレイングの様子などについては、ビデオ撮影を行いDVD化。店長の希望に応じて各店に貸し出すかたちとしたところ、ほぼ常時貸出し中という状況であり、KCA以外の若い店舗スタッフの教育用教材としても積極的に活用されている。

スタッフ画像

活発に意見交換が行われる研修風景

KCA認定式_社長から認定証(東日本)

売上高などによって、毎年選ばれる最優秀KCA、優秀KCAの表彰式の風景

売り上げを大幅に拡大するとともに人材の有効活用にも寄与

 KCA制度導入の成果としては、まず「ミキハウスファースト」の売り上げが目に見えて拡大したことが挙げられる。戦略的な売り場づくりや売り場拡大、カウンセリングを交えた接客などにより、特に自家消費用の売り上げが拡大。制度導入前と比較してブランド全体では130%程度、店舗によっては200%前後の売り上げを記録しているケースもある。なお、KCAについては、Webサイトを通じてその内容やKCAが配置されている店舗の紹介などを行うほか、店舗によっては「子育てキャリアアドバイザーにご相談ください」といったパネルを用意したり、KCA自身がバッジを付けたりすることなどで顧客へのアピールを図っており、実際にWebサイトを見て「KCAに相談したい」と来店する顧客も現れ始めているとのことだ。
 KCA自身のモチベーションが格段に高まったことも大きな成果だ。KCAには特別な手当はなく、また、家庭の事情から勤務日数や時間が限られ、「週3日、16時まで」の勤務というスタッフも多い中で、周囲の店舗スタッフの協力を得ながら、「ミキハウスファースト」販売の責任者として、マーチャンダイジングから売り場づくり、接客までの業務を遂行している。このような姿勢は若い店舗スタッフの模範にもなっており、また、KCAという明確な立場が与えられたことで、若いスタッフが接客についての相談をするような機会が増えており、スタッフ間のコミュニケーションも改善されている。さらに、KCA制度によって、妊娠・出産を経た後もやりがいを持って働ける環境が明確に示されたことで、正社員が結婚・妊娠を機に退職するのではなく、産休・育休を取得してその後復帰するケースが増加しているといい、人材の有効活用という意味でも好影響が表れつつあるようだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年5月号の記事