編集性の高いコンテンツによりソーシャルメディアにふさわしいコマースを目指す

(株)東急ハンズ

「東急ハンズ」「ハンズ ビー」などの小売店舗を運営する(株)東急ハンズでは、2009年9月のTwitterアカウント取得を皮切りにソーシャルメディアへの取り組みを開始。特にFacebookページには「Shop」コンテンツを設置するなど、話題づくりとコマースの連携性強化を図っている。

双方向コミュニケーション・チャネルとしてソーシャルメディアを積極活用

 1976年8月に設立し、同年11月開店の藤沢店(2006年12月閉店)を皮切りに全国各地で「東急ハンズ」を展開し、住まいと住生活・手づくり関連の製品・道具・工具・素材・部品の総合専門小売業という新たな小売業態を日本に定着させた(株)東急ハンズ。同社では現在、「ここは、ヒント・マーケット。」をキャッチフレーズに、東急ハンズ24店舗(FC3店舗含む)のほか、「ハンズ ビー」(提案型ライフスタイルショップ)14店舗、「アウトパーツ」(カバン、革小物・トラベル用品専門店)1店舗を展開している。
 同社では2009年9月にTwitterの公式アカウントを取得して運用を開始し、ソーシャルメディアへの本格的な取り組みをスタート。その後、2010年12月にはFacebookページを開設、さらに2011年8月には(株)ミクシィがサービス提供を開始したばかりのmixiページを開設するなど、積極的な取り組みを続けている。
 2012年2月末現在、Twitterについては3万1,000人以上のフォロワーを集める公式アカウントのほか、広報アカウント、ネット通販「HANDS NET(ハンズネット)」のアカウントを運用。これとは別に札幌、銀座、横浜、梅田、広島、博多の各店舗が独自アカウントを運用している。また、Facebookページについては17万人以上のファン(「いいね!」)を獲得。mixiページについても開設から半年で5,000人以上のフォロワーを獲得している状況だ。
 同社では取り組みをスタートした当初、ソーシャルメディアを店頭やWebサイト、チラシなどと同様、生活者に同社が発信したい情報をプッシュするメディアと位置付けていた。しかしその後、運用を続ける中で、ソーシャルメディアやそのユーザーの特性についての理解を深めたことから認識を改め、現在では双方向コミュニケーション・チャネルとしての側面を重視している。すなわち、Twitterはユーザーと1対1のコミュニケーションを行う「デジタルにおける1人の店員」、Facebookページおよびmixiページは商品・イベント情報を起点とするコミュニケーションを行うためのプラットホームと位置付けて運用を行っている。

日常の接客で培ったホスピタリティをソーシャルメディアにも活用

 ソーシャルメディアを通じた情報発信、コミュニケーションは、本社ではITコマース部および経営企画部のスタッフが担当。独自にTwitterアカウントを運用している各店舗では、それぞれ数名のスタッフが担当している。基本的に、普段から実施している接客研修などにより十分なホスピタリティを身に付け、また、「ここは、ヒント・マーケット。」というキャッチフレーズのコンセプトを理解し、知見をベースにコミュニケーション相手に最適なものを提案していこうという姿勢を持つスタッフを信頼し、業務を一任しており、特にソーシャルメディアでのコミュニケーションに特化した研修などは行っていない。実際、経営企画部のスタッフが各店舗のTwitterアカウントでのやり取りをウオッチしていると、店頭での接客と同様、クレームの発生は皆無ではないが、オープンで真摯な対応を行うことにより解決している。中にはクレームを書き込んだユーザーが対応に感激して同社のファンになるようなケースもあるとのことである。
 Twitterでは前述の通り「デジタルにおける1人の店員」であることを意識していることから、具体的なコミュニケーションの内容としては、フォロワーのツイートに対する返信が7 割、同社からの情報発信が2割、フォロワーとの雑談が1割といった構成になっている。一方、Facebookページおよびmixiページでは、同社が考える情報の3要素である「ヒト」「モノ」「コト」の中で、「モノ」と「コト」を中心とした情報発信を志向。ユニークな商品やイベント・キャンペーンなどの情報を発信することで話題づくりを行い、ファン同士のコミュニケーションのきっかけとすることを狙っている。

Facebookページに「Shop」コンテンツを設置

 ソーシャルメディアの運用をビジネスにつなげていくという観点から、ソーシャルコマースへの取り組みも始められている。具体的にはFacebookページに「Shop」というコンテンツを設置。商品を紹介するととともに「商品購入ページに移動」というボタンを配置し、クリックすると同社のオンラインショップ「HANDS NET」の当該商品購入画面が立ち上がるという仕組みで購入への動線を確保している。
 しかし、前述の通り同社ではソーシャルメディアを双方向コミュニケーション・チャネルととらえており、その中でビジネスを前面に打ち出すことはマイナス効果が大きいと考えている。従って、Facebookページでの商品紹介は、購買促進という観点ではなく話題づくりの一環として行っており、例えば最近では、話題を集めている「タニタ食堂まんぷくレシピ」を軸に関連商品を紹介するなど、編集性の高いコンテンツづくりを行っている。また商品数も、「HANDS NET」が約10万点を取り扱っている中で100点前後に限定。2~3週間ごとに更新することで常に新鮮な話題を提供できるように留意している。

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Facebookページの「Shop」では、話題性の高い商品を紹介

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商品購入の申し込みはオンラインショップ「HANDS NET」で行う仕組み

ソーシャルメディアにふさわしいコマースのあり方を模索

 ソーシャルメディア運用の効果測定としては、アクセス数、クリック数、RT数、フォロワー数、ファン数などの定量的指標については時系列的に把握。来店促進への貢献度についてもモバイル端末の位置情報サービス機能の活用やユーザーのツイートの「♯HandsNow」をカウントすることなどで、可能な範囲で把握している。さらにソーシャルメディアに期待される波及効果についても、発生したクチコミの広がりを観測することなどで、その動向の把握に努めている。
 今後については、Twitterに関してはコミュニケーションの内容がかなり洗練されてきたという感触を得ていることから、基本的にはこれまでの路線を継続しつつ、さらに“店員性”を強化していくことを目指す。Facebookについては、ファン間のコミュニケーションが多数発生するコミュニティとして成長していくことを期待しているが、それを意識するあまり同社スタッフが過剰なリードを行うことはかえってマイナスにつながるという認識から、今後も愚直に話題性の高い情報の発信に努めていく。また、mixiページについては当面は試行錯誤を繰り返しながら、効果的な運用方法の確立を図っていきたい考えだ。
 なお、同社では現在、ユーザーのプロフィールや投稿履歴などをベースに最適なギフトをレコメンドするFacebookアプリの開発を進めている。今後もこのようなエンターテインメント性の高い取り組みを交えながら、ソーシャルメディアにふさわしいコマースのあり方を模索していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年4月号の記事