共感と顧客ニーズをとらえた情報提供によって顧客の期待を上回るサービス提供に努める

ノバルティス ファーマ(株)

ノバルティスグループの医薬品部門の日本法人であるノバルティスファーマ(株)。同社では医療関係者、および患者(一般)からの問い合わせに対応する「ノバルティスダイレクト」を設置。顧客満足度業界No.1の実現に向けて、共感と、顧客ニーズをとらえた情報提供によって、顧客の期待を上回るサービスの提供に努めている。

医療関係者と患者(一般)からの相談に対応する「ノバルティスダイレクト」を設置

 ノバルティス ファーマ(株)は、ヘルスケアのグローバルリーダーとして知られるノバルティスグループの中核を担う、医薬品部門の日本法人である。
 ノバルティスグループが持つ世界的なネットワークと研究開発力を生かして「人々のいのちと健康に貢献する」ために、革新的な医薬品と、正確で質の高い学術情報を提供している。
 同社において、医師、薬剤師、医療スタッフ、卸、また患者(一般)への情報提供、および問い合わせ対応を担っているのは、サイエンティフィックアフェアーズ本部メディカル情報・コミュニケーション部。主に社外顧客からの一次対応窓口として、「ノバルティスダイレクト」(2002年1月開設)がその役割を担う。10名の専任スタッフに加えて、部内のほかのスタッフがバックアップするかたちで、薬剤師を中心とした総勢約50名が問い合わせ対応に当たっている。
 一般に医薬品メーカーのコールセンターの運営体制としては、一次受付をアウトソーシングし、二次受付をインハウスで行うパターンも少なくない。しかし「ノバルティスダイレクト」では、顧客の第一声に触れることで多くの情報を察知することができるとの考えから、アウトソーシングは選択せず、自社内にコールセンターを開設。スタッフは社員が大半を占めるが、加えて社員と同様の教育を受けた数名の派遣社員を起用している。

1203C41

「ノバルティスダイレクト」では医療関係者、および患者(一般)からの問い合わせに対応している

東日本大震災では在宅勤務システムを活用して対応業務を遂行

 対応チャネルには、電話だけでなく、eメール、ファクスなども活用。電話の受付時間帯は、土日・祝日を除く9時から18時までとなっている。
 コールセンター・システムにはCTIを導入しており、応対者は応対履歴、および世界各国の臨床データや文献情報が登録されている医薬品に関するデータベースを確認しながら対応に当たる。また、新型インフルエンザや地震などの災害に備えて、在宅勤務システムを構築。これが2011年3月の東日本大震災の際に役立ち、同業他社が問い合わせ受付を停止したり、受付時間を短縮したりする中、同社は通常通り対応業務を行うことができたという。
 「ノバルティスダイレクト」に寄せられる問い合わせ件数は、全チャネル合計で月間平均約8,000 件。このうち90%が電話を通じて寄せられている。問い合わせ者の割合を見ると、薬剤師が63%で最も多く、以下、医師が17%、医療スタッフが11%と続く。
 患者からの問い合わせも受け付けるが、医師の診療にかかわる医学的問題、あるいは治療法に関しては答えることができない。必要に応じて客観的な情報提供は行うが、患者自身の健康上の質問がある場合は主治医に相談するよう促し、患者が医療関係者を信頼し、安心して医療を受けられるようサポートしている。その際に求められるのが、情報の質だけでなく、応対の質であると同社は考えている。

応対品質は生産性の尺度では測らない

 一般的にコールセンターのKPI(Key Performance Indicator)には、応答率、一次解決率、放棄呼率、平均通話時間、平均処理時間などさまざまなものがある。以前は同社でもこうした生産性にかかわるKPIに基づきセンターを運営していたが、現在ではこれを取りやめ、替わって第一印象、話し方好感度、業務遂行度、応対マナー度、情報提供度、共感度、総合満足度の7指標に基づいて応対品質を管理している。同社が、一般的な生産性を管理するKPIをセンター運営に用いないのはなぜか。それは、コールセンターの目的が、顧客満足度を高めることにあるためだ。
 特に医師や薬剤師たちは、あらかじめ自分自身で調べてから、同社に問い合わせてくることが多い。中には、欲している回答がないことを知った上で、それを確認するために問い合わせてくるケースもある。その際、あっさりと「データはございません」「回答できません」と言ったのでは、顧客の満足は期待できない。まず困っている相手の状況や心情に共感し、次に解決の糸口になりそうな情報を提供することで、最終的に答えが見つからなかったとしても「ありがとう」と言ってもらえる対応を行う。同社では、このような対応こそが顧客の満足を高め、さらには期待を上回ることにもつながると判断。共感と、顧客ニーズをとらえた情報提供によって、対応の制約を乗り越えようと考えているのだ。
 顧客満足度の測定は、応対者の自己評価と、利用者へのWeb調査によって行っている。前者は、応対者が通話を終えた直後に5段階評価で採点する。しかし例えば、終話時点で4点という評価をしていたとしても、後日、お礼の言葉が手紙やeメール、医薬情報担当者(MR)を通じて寄せられた際には、最高点の5に変更することができる。後者は、隔年で実施している医療関係者を対象としたアンケート調査である。

関係者全員の協力で被災した患者の窮地を救う

 東日本大震災が発生した際に、患者の家族から寄せられたSOSに対応したエピソードがあるので紹介したい。
 震災直後、「ノバルティスダイレクト」に、海外に住む患者の家族から、同社Webサイトの問い合わせフォームを用いたeメールが届いた。内容は、福島県に住む患者の、1日も欠かすことなく服用しなければいけない薬(抗悪性腫瘍剤)が、手元に残りわずかとなったものの、いつも薬を受け取っている調剤薬局が原子力発電所の事故により避難勧告を受けたため、入手できなくなったというもの。同社ではすぐさま震災対策本部に連絡してさまざまな手立てを講じ、自衛隊の協力を得るとともに、現地担当のMRおよび卸、調剤薬局と連携して、この患者に薬を届けた。
 患者を第一に考えたこの迅速な対応は、患者・家族から大変感謝され、それによってスタッフ全員が感動し、業務遂行のモチベーションはさらに高まったという。

“質問力”で問題解決への糸口を探れる人材を育成

 同社の顧客対応の特徴は、対応に制約があることと、標準化が難しいことだ。こうした環境の中で、顧客満足度を高めるポイントとなるのが、相手に対する共感と、顧客ニーズをとらえた情報提供だ。
 相手にとって有用な情報を提供するために、スタッフにはより多くの情報を顧客から引き出すスキルが求められる。今後同社では、顧客に適切な質問を投げ掛けることで解決の糸口を発見できる人材を、1人でも多く育成していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年3月号の記事