充実した研修プログラムとスタッフへの権限委譲により「お客様第一主義」を体現

チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド日本支店

チューリッヒ保険会社では、カスタマーケアセンターの運営においてスタッフを直接雇用。充実した研修プログラムを用意するとともに、現場の最前線に広範囲な権限委譲を行うことで、優れたスキルを持ったスタッフが高いモチベーションのもと、業務を遂行することにつなげ、結果として高い顧客満足度を実現している。

ダイレクト型自動車保険のパイオニアとして業界をリード

 140年にわたる歴史を持つ国際的な保険グループであるチューリッヒ・ファイナンシャル・サービシズグループの日本における拠点として1986年に設立されたチューリッヒ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド日本支店(チューリッヒ保険会社)。同社はその後20年以上にわたり、日本の保険市場において革新的で質の高いソリューションを提供しており、特に1998年に発売した「スーパー自動車保険」では、代理店を通さず、電話やインターネットなどを通じてお客さまに保険商品を直接販売するダイレクト型自動車保険のパイオニアとして、契約者へのロードサービス(ロードアシスタンス)の提供、インターネットによる見積もり・契約締結サービスなど、さまざまな分野で業界をリードしてきた。また2009年7月には、渋滞の多い都市圏でもいち早く現場に到着できる専属バイク、専任スタッフによるロードサービス「Z -エクスプレス」の提供を開始。さらに2012年1月には同サービスで使用するバイクとして、環境に優しく、低騒音の電動スクーターを導入するなど、常に革新的な試みに取り組んでいる。
 基本理念のひとつとして「お客様第一主義」を掲げ、ダイレクト型保険を販売する同社では、コールセンターをお客さまとの重要なコンタクトポイントと位置付けており、その充実化に努めている。
 なお、同社のコールセンターには、新規見積もり・契約の受け付け、契約継続手続きなどを担当する「カスタマーケアセンター」と事故の受け付けを担当する「緊急デスク事故受付センター」があるが、今回のケーススタディではカスタマーケアセンターにスポットを当てて、その取り組みをご紹介する。

直接雇用と充実した研修プログラムにより高いスキルを持つ人材を確保

 同社カスタマーケアセンターは東京・調布、大阪・千里、北海道・札幌の3拠点で運営。エリア別の受け付けではなく、3拠点をシームレスに連携することによって、あたかもひとつのセンターであるかのように業務を分担し合って運営されている。
 ブース数は3拠点合計で約300ブース。“ケアスタッフ”と呼ばれるスタッフは同じく合計400名強であり、マネージャー1名の下、スーパーバイザー5名前後、リーダー格となるアソシエイト5名前後、一般スタッフ40~50名前後からなる50~60名程度を1チームとして、平日9時~ 20時、土日・祝日9時~19時に、シフトを組んで業務を遂行している。
 コール数はインバウンド/アウトバウンドとも年間110万コール前後。ワークフォース・マネジメント・システムを導入し、コール予測に基づいたスタッフ配置を行っている。
 同社カスタマーケアセンターの運営において注目されるのは、直接雇用主義を貫いていること。ケアスタッフは契約社員として採用しており、その後、能力や成果によって正社員として登用するキャリアパス制度も設けている。実際にマネージャーやアソシエイト、スーパーバイザーの多くは契約社員からの登用組であり、さらに適性によって、カスタマーケアセンターからマーケティング部門などの本社機構に転属となったスタッフも数多い。勤続年数もコールセンター業務としては比較的長く、契約社員では平均4年超、正社員では平均8年超となっている。なお、近年では1回の新規スタッフ募集に際し、70~80名の応募があり、その中から接客マインドや傾聴力を基準に選考を行い、10名前後を採用するケースが多いとのことだ。
 新規採用したケアスタッフには、まず、40時間前後の座学、70時間前後のOJTによる約1カ月の初期研修を実施。その後1年間にわたり、体系的なフォローアップ研修が用意されており、基本的には1年間で同センターが担当する業務を一通りこなせるスキルを身に付けることとなっている。

直接の対応を行うケアスタッフを企業の“顔”に

 同社のケアスタッフには、幅広い裁量権が与えられている。例えば、同社の主力商品であるスーパー自動車保険では、所定の研修を終えたスタッフであれば、改造車両や保険金額が極端に高いなど、ごく一部の特殊なケースを除き、契約を受け付けるかどうかを上長の判断を仰ぐことなく、自分で判断することができる。お客さまにとっては、直接の対応を担うケアスタッフこそが「チューリッヒ保険会社」であることから、ケアスタッフに多くの裁量権を付与し、スピーディな対応を行うことがお客さま満足につながるという姿勢を徹底しているのだ。
 対応の柔軟性の高さも特徴的だ。例えばスーパー自動車保険では、Webサイトで契約を行うとインターネット割引が適用される。しかし、インターネットに慣れていないお客さまでは、操作上の問題などからWebサイトでの契約を途中であきらめ、カスタマーケアセンターに電話を掛けてくるケースもある。そのような場合は、「このままお電話での契約もできますが、Webサイトでご契約いただけば、割引が適用されます」と案内し、最終的な契約経路をお客さまに委ねる。そしてWebサイトでの申し込みを希望される場合には、その操作手順を詳しく説明している。また、特に関東圏には、遠慮して聞きたいことを十分に聞けないお客さまも少なくないとの認識から、コールの最後には必ず「ほかに何かお困りのこと、お尋ねになりたいことはございませんか」といった問いかけを行い、“見えざる不満”の解消に努めている。

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ケアスタッフが快適な環境でお客さま対応に取り組めるよう、一人ひとりのスペースを大きくとり、椅子の座り心地にもこだわっている

成約率・継続率などの達成状況を共有しモチベーションの源泉に

 センターの管理指標については、KPI(KeyPerformance Indicator)として生産性や品質、顧客満足度にかかわるものに加えて、成約率・継続率など業績に直結する指標を設定。その達成状況をセンター内で共有することでスタッフのモチベーションを高めている。また、放棄呼率、サービスレベルなど、低下すると顧客満足の低下に直結する指標については、別途KRI(Key Risk Indicator)として把握・管理することで、顧客満足度の維持・向上につなげている。
 このような取り組みの根幹にあるのが、「お客様第一主義」である。カスタマーケアセンターでは、その実現の指針として「親身な対応でお客様の期待を超えるサービスを提供します」という宣言を掲げたクレドを作成。その実践のための5項目の行動指針とともに名刺大のカードにまとめ、センターの全スタッフに配布するほか、ポスターにしてセンター各所に掲示。各スタッフが初心を忘れることなく、業務を遂行することにつなげている。
 さらに今後は、お客さまの声(VOC)を経営に生かすことが、お客さま満足につながるという認識から、センターに集まるVOCの有効活用を進めていく。現状でもVOCは商品・サービスの改善などに役立てられているが、さらに対応スピードを上げていくことで、社内への提言機能の強化に取り組んでいきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年3月号の記事