航空券購入に利用できるeクーポンをオファーにコミュニティサイトへの投稿を促進

全日本空輸(株)

全日本空輸(株)では、Webサイト「ANA SKY WEB」の中でソーシャルメディアと連携したプラットフォーム「Social Sky Park」を運営。航空券の購入に利用できるeクーポンをオファーにTwitter、Facebookを通じた投稿を促進し、双方向型のコミュニケーションを実現している。

双方向型コミュニケーションを目指したソーシャルメディア連携 プラットフォームを開設

 全日本空輸(株)(ANA)では、2011年6月、同社のWebサイト「ANA SKY WEB」の中でソーシャルメディアと連携したプラットフォーム「Social SkyPark」の運営を開始した。
 同社が提供する航空輸送サービスは、中には出張などで頻繁に利用するヘビーユーザーもいるものの、多くの生活者にとっては日常的に利用するサービスではなく、いわば“非日常的”なものだと言える。ちなみに同社のマイレージ会員組織「ANAマイレージクラブ」は2,000万人以上の会員を有するが、同社の航空輸送サービスを年に1回も利用しない会員も少なくない状況だ。
 また、機内サービスなどのソフト面では差異はあるものの、出発地の空港から到着地の空港まで身体や荷物を移動させるという本質的な機能においては、例えば所要時間などはどの企業が提供するサービスにも大きな違いはなく、価格以外の要素で差別化を図ることは難しい。
 そのような状況の中で同社では、生活者が航空輸送サービスを利用する数少ない機会に同社を選択してもらう上で、いかに日常的に同社とのつながりを感じてもらい、また、同社への共感を持ってもらうかが重要であると考えていた。
 そのためのチャネルとして注目されたのが、双方向性の高いコミュニケーションが可能なインターネットである。同社のWebサイト「ANA SKY WEB」は、航空チケットを販売するECサイトという性格が強く、航空チケットに対する具体的な需要が発生した場合にのみサイトを訪れるユーザーが大半であった。また、コミュニケーションについても同社からの情報発信が主であり、ユーザーからの情報発信が行われる場面は極めて限られていた。
 そこで同社が企画したのが、ソーシャルメディアと連携したプラットフォーム「Social Sky Park」である。「Social Sky Park」ではANAマイレージクラブ会員を対象に、同社が提示するさまざまなテーマに関する投稿を募集しており、会員が「Social Sky Park」を通じてTwitter、Facebookに投稿すると、投稿内容が「Social Sky Park」に表示される仕組みになっている。つまり、ANAマイレージクラブ会員の投稿がそのままコンテンツとなるわけで、同社にとってはこれまでにない生活者参加型のインターネット・プラットフォームと言える。
 「Social Sky Park」はANAマイレージクラブ会員の投稿がなければ成立しないプラットフォームであり、その成否は投稿の量に掛かっている。そこで同社が「Social Sky Park」への投稿のオファーとして設定したのが「ANA利用券(e クーポン)」である。

投稿にはもれなく航空券の購入に利用できるeクーポンを付与

 eクーポンは、同社が2008年の秋から発行を開始したオンラインで使えるクーポン。同社では従来からANAマイレージクラブの特典のひとつとして紙ベースのクーポン「ANA利用券」を用意していたが、これを利用するに当たっては、まずマイレージとの交換手続きを行い、手元に券が届いてからフライト予約を行い、その後、市内や空港のANAカウンターで航空券と引き換えるという煩雑な手続きが必要だった。eクーポンはこれをペーパレス化し、ANA SKY WEBやモバイルサイトのANA SKY MOBILEからの航空券の申し込み・購入時に「1eクーポン=1円」(10円単位で利用可能)としてすぐに使用できるようにしたもの。現在はマイレージ1万2,000マイルを1万8,000円分のeクーポンと交換できるようになっている。
 「Social Sky Park」では、ANAマイレージクラブ会員がTwitter、Facebookにテーマに関する投稿を行うと、もれなく1テーマにつき100eクーポンを付与しており、これによって継続的な参加を促すとともに、eクーポンを貯めてもらうことで、航空輸送サービス利用時に同社を選択する動機付けを図っているのだ。
 このような取り組みの成果により、特にコストを掛けた告知活動を行っていないにもかかわらず、クチコミなどにより投稿数が徐々に増加。スタート当初は1テーマ当たり数百件に過ぎなかったものが、最近では平均3,000件程度、多い時には4,000件にも及んでいる。

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活発な投稿が行われている「Social Sky Park」の画面

外部企業・団体とのコラボレーションによりマンネリ化を防止

 「Social Sky Park」への投稿は、Twitter、Facebookのアカウントを持っているANAマイレージクラブ会員であれば誰でも行うことができる。「ANA SKYWEB」のANAマイレージクラブページへのログインを行った状態で、「Social Sky Park」ページに設置されている「Twitterで投稿する」または「Facebookで投稿する」をクリックし、初回のみはTwitterまたはFacebookとの連携に必要な手続きを行った上で投稿を行えば、瞬時に「Social Sky Park」にも投稿内容が表示される。
 1テーマ当たりの投稿募集期間は基本的に2週間程度。内容は「今年の夏、あなたの休暇プランは?」や「もう一度行きたいスポットや過ごし方、あなたのアメリカの思い出は?」など旅行に関連するもの、「ANAカードの気になる特典は?」や「ANAのビジネスクラス、どんな風に過ごしたい?」など同社のサービスに関連するものなどが中心。そのほか、例えば日産自動車(株)と提携して「日産のコンパクトカーでドライブ、あなたならどのクルマでどこに行く?」、秋田県と提携して「みなさんが秋田県と聞いて連想するのは?」といった問いかけを行うなど、外部の企業や団体とのコラボレーション企画なども随時行い、マンネリ化を防いでいる。なお、このようなコラボ企画では、運用コストの一部を提携先の企業・団体に負担してもらっているとのことだ。
 「Social Sky Park」へのアクセスは最近では1テーマ当たり平均2万~4万PV、投稿数は前述の通り同3,000件程度に達している。なお、スタート当初はeクーポン目当ての投稿が多くなるという懸念もあったが、Twitterでは最大の140文字近く、Facebookでは400文字前後の充実した内容の投稿も多く、また、投稿内容が投稿者のアカウントを通じて拡散するといった波及効果も現れつつあるようだ。
 「Social Sky Park」への投稿によって得られたeクーポンの利用については、これまでのところさほど多くないが、今後、旅行需要のピーク時には増加するものと予想している。
 「Social Sky Park」の今後の課題としては、参加者の増大が挙げられている。投稿数は徐々に拡大しているとは言え、投稿しているのは2,000万人以上に及ぶANAマイレージクラブ会員のごく一部に過ぎない。そうした中、今後はコストを抑えた地道な取り組みを継続しながらも、認知度を高めて、参加者を増やしていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年1月号の記事