「イタリア式の食文化」の提案で一般大衆層の“食”を豊かに

(株)サイゼリヤ

イタリアンレストラン・チェーンの(株)サイゼリヤでは、2003年12月に中国・上海に海外1号店をオープンして以来、積極的に海外出店を推進。「イタリア式の食文化」を提案し、一般大衆層の“食”を豊かにすることに貢献する。アジア全体で、今期中に100店舗を突破する予定だ。

健康的でおいしいイタリア料理を誰もが毎日食べられる価格で提供

 創業者の正垣泰彦氏が個人経営していた「レストラン サイゼリヤ」を母体として1973年5月に設立し、イタリアンレストランのチェーン展開に着手。2011年4月末現在では、国内外に930店舗ものイタリアンレストランを展開する(株)サイゼリヤ。同社では2003年6月、中国・上海に上海薩莉亜餐飲有限公司を設立し、同年12月、同地に海外1号店を出店。以後、中国の上海・蘇州および広州、北京エリア、さらには台湾、香港、シンガポールでも次々と店舗をオープンしている。
 同社では創業以来、人々に豊かな食文化を提案することを理念とし、健康的でおいしいイタリア料理を、誰もが毎日食べられる価格で提供することを目指しており、この点は海外での出店においても変わりはない。イタリアンのカジュアルレストランが存在していなかったアジアにおいては、その分野での出店を行うことで、日本と同様に多くのお客さま、特に一般の大衆層に喜んでもらえる可能性が高いと見込んだことが、このエリアでの店舗展開を目指すきっかけとなった。実際に海外出店を開始した2003年の数年前から出店の検討をスタートしていたのだが、海外でも同社の理念を貫き、また、日本国内で培ったチェーン・オペレーションのノウハウをできる限り活用していくという観点から、“独資(100%出資)”での進出にこだわっていたため、その環境が整うのを待っての出店になったとのこと。ちなみに、中国で独資の子会社設立に認可が下りたのは、日本の飲食チェーンでは同社が初めてであった。

「現地による現地のための現地の会社」による運営を徹底

 同社の海外出店の形態は、前述の通り、現地に100%子会社を設立し、その子会社が直営店舗を展開していくというもの。これまでに、前述の上海薩莉亜餐飲有限公司のほか、北京薩莉亜餐飲有限公司(2004年3月)、広州薩莉亜餐飲有限公司(2007年11月)、台湾薩莉亜餐飲股侮有限公司(2008年3月)、香港薩莉亞餐飲有限公司(2008年8月)、Singapore Saizeriya Pte.Ltd(2008年9月)を設立。現在、これらの子会社が中国で77店舗(上海・蘇州45店舗、広州18店舗、北京14店舗)、台湾で5店舗、香港で6店舗、シンガポールで2店舗を展開している。
 同社の海外展開においては、進出先の国・都市へ根付いていない「イタリア式の食文化」の提案によって、一般大衆層の“食”を豊かにすることに貢献するのが最大の目的であるが、同時にサイゼリヤグループとしての長期的利益創出の柱を育てていくという狙いもある。ただしこれは、海外で得た利益をロイヤリティとして日本の親会社に還流するのではなく、あくまでも現地の子会社それぞれが成長していくことを目指している。各現地法人のスタッフも、基本的に経営トップ1名を除いては、すべて現地で採用された従業員。その国や産業の発展に貢献する、まさに「現地による現地のための現地の会社」が実現されている。

「9元パスタ」が人気商品に

 同社の海外での店舗展開においては、可能な限り、日本国内と同様の運営を行うことがベースとなっており、基本的には特別なローカライズは行わない方針。実際、お客さま、従業員とも、文化や習慣の違いはあるものの、「おいしいのに安いもの」=価値があるものに敏感に反応することに違いはなく、従って、目指すべき方向、努力の方向も日本と変わらないとのことである。
 ただし、イタリアンのカジュアルレストランが存在していなかった地域で、その普及を図る過程では、価格面などでさまざまな試行錯誤を行ってきた。例えば海外初店舗となった上海1号店では、当初、同社に先行して中国進出を果たし、外資系高級外食として富裕層を中心に支持されていた米国系のイタリアンレストラン・チェーンを参考にし、その約半額に価格設定したものの、客足はなかなか伸びなかった。そこで、オープンから半年後に価格を3割引きにしたところ、客数は約2倍、売上高は約1.5倍に増加。そして、その2カ月後にさらに3割引きを行い、当初価格からほぼ半額の価格設定としたことで、連日、お客さまが殺到する状況を実現することができた。ちなみに、これらの価格改定の結果、看板商品のパスタの価格は最終的に9元(約135円)になっており、現地では「9元パスタ」として人気を集めている。
 さらに、同社やイタリアンレストランの認知度が低い地域に関しては、開店より数日間のみ値引き販売をし、初回来店のハードルを下げるといった試みも行っているとのこと。今後もこれらの施策により、現地への浸透を図っていく意向だ。
 なお、これらの価格設定は、当然のことながら利益率を無視したものではない。固定費を切り詰め、多店舗展開により効率性を高めるというチェーン・オペレーションの基本を徹底することによって、実現されているのである。

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同社が中国で展開する「薩莉亜(サリア)」。「9元パスタ」が多くの顧客の心をつかんだ

夢は“30~60年後にアジア全体で1万店突破”

 同社が海外、特に中国での店舗展開で苦労している点としては、仕入れにおける輸入規制が厳しいために、思ったような品質の実現が難しいことが挙げられている。さらに中国国内で調達する原料や、加工工場についても同様で、日本と同水準の品質確保という点が中長期的な課題となっているようだ。また、採算性の確保という観点から、近年の物価や人件費の高騰が問題となっているが、この点については店舗の生産性向上や、原料購入・生産体制を全アジアで再整備し、購買力を強めていくことなどで対応していく方針であるという。
 そのほか、特に中国では出店に関する規制が厳しく、オリンピック(北京)、ユニバーシアード(広州)、万博(上海)などの開催に関連して、店舗建築の許可が下りなかったケースがあったとのことだが、これらの事例については、今後もケースバイケースでの対応を行っていく意向である。
 同社では、今後も積極的に海外での店舗展開を進めていく方針だ。海外店舗数は今期中にアジア全体で100店舗を突破する予定。そしてさらには、「30~60年後にアジア全体で1万店を突破する」ことを“夢”として掲げている。
 そのために同社が現在進めているのが、現地での人材育成である。「現地による現地のための現地の会社」による店舗展開を推進する同社においては、現地での人材育成なしに店舗拡大を進めることはできないというわけだ。そこで同社では、海外では当面、利益確保ばかりを優先せず、教育に重点を置きながら事業展開を図っていく方針であり、これによって将来にわたって、現地に根付いた経営を実現していきたい考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年7月号の記事