“公文式”は世界で通用する“KUMONメソッド”に

(株)公文教育研究会

“KUMONメソッド”による教育サービスを提供する(株)公文教育研究会では、2011年3月現在、世界46の国と地域での展開を行っている。その中でアジア圏では13の国と地域で教室を展開しており、特にタイやインドネシアでは、学習教科数が10万を突破するまでに普及が進んでいる。

世界のあらゆる国と地域でKUMONメソッドで学ぶ機会を提供

 高校の数学教師であった創始者・公文公氏が1954年に、当時、小学校2年生の長男・毅氏のために作成した計算問題をルーズリーフに書いた自習形式の教材からスタートした“公文式”。この教育法は1970年代半ばから世界に広がり始め、2011年3月現在では世界46の国と地域で約441万人の学習者が“KUMONメソッド”による算数・数学、英語、母国語の学習を行っている。
 公文公氏が1955年に大阪府守口市に開設した算数教室をルーツに、1958年に「大阪数学研究会」として創立、1962年に「(有)大阪数学研究会」として法人化され、現在の(株)公文教育研究会に至っている。同社の海外展開は1974年、米国・ニューヨークでの算数教室開設というかたちで始まった。
 同社は、現在ではビジョンとして「世界のあらゆる国と地域で、KUMONメソッドで学ぶ機会を提供し、学習者が夢や目標に向かって、自分から学習している状態を目指す」ことを掲げるまでになっているが、1970年代当時は、積極的に海外展開を目指すまでには至っていなかった。その同社がニューヨークでの算数教室開設を実現したのは、もともと日本国内で“公文式”教室に通っていた学習者が、父親の転勤によりニューヨークで生活をすることになり、“公文式”学習を続けさせたいと思った母親が教室を開くに至ったという経緯であり、いわば偶然の産物であった。しかし、当初は駐在員の子弟を対象としていた教室が、その教育効果の高さによって徐々に評判となり、現地の子どもたちにも普及。同社が目的とする「高い基礎学力の養成」が海外でも必要とされ、また、同社が提供する「誰もが年齢を問わずに学ぶことのできる個人別学習法」が国や地域を問わず受け入れられることを示すこととなり、その後の世界的な普及の礎となったのである。

タイやインドネシアで順調な伸び

 同社では2011年3月現在、前述の通り、46の国と地域で“KUMONメソッド”による学習教室を展開している。うち、アジア圏では日本以外で、インド、インドネシア、韓国、シンガポール、スリランカ、タイ、台湾、中国(香港・マカオ含む)、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ミャンマーといった12の国と地域での展開を行っている。その中で最も早く積極的な展開が開始されたのは、1975年に教室をスタートさせた台湾である。現在、普及が特に目覚しいのはいずれも1991年に教室展開をスタートしたタイ、インドネシアであり、タイでは約430、インドネシアでは約520の教室を運営。タイでは2010年11月、インドネシアでは2011年3月に、相次いで学習者の規模が、学習教科数で10万を突破するまでに至っている。
 同社では海外展開においても、基本的には日本と同様にフランチャイズ方式での教室展開を行っている。ただし、例えば、2006年に現地法人を設立して展開をスタートとしたベトナムでは、法的な規制によってフランチャイズ展開ができないため直営教室での展開を行うなど、各国・地域で、現地の法律に基づいた柔軟な対応を行っているとのことである。
 同社が海外展開において重視しているのが、日本での展開と同様に、同社の価値観に共感してもらえる質の高い指導者をいかに集めるかということだ。“KUMON”の教室を運営することは、一面ではビジネスであるが、一面では教育に対する意識の面が非常に重要ということである。従って、指導者には事業主であると同時に教育者であることが強く求められるのだが、経済発展途上にあるアジア圏では、ともすれば事業主としての側面がクローズアップされ、ビジネス面での関心から教室運営を希望する人も少なくない。もちろん、教室を存続するためにはビジネスとして成立することが不可欠であり、同社としても現地の物価や収入水準を勘案して月会費を定めるなどしているが、同社のこれまでの経験から、教室を成功させる指導者はビジネスよりも教育という側面に関心が高い人であることがわかっている。
 そこで同社では、各国での教室開設に当たって、各現地法人の社員が、説明会で教室開設希望者を対象に同社の理念や教育法について入念な説明会を実施するとともに、その中で公文の理念に共感し、真に教育に熱意があると認められる人を選抜し、数カ月にわたる座学や教室実習などの充実した研修を行った上で、教室を開設してもらうというかたちを採っている。ただし、特に東南アジアでは“公文式指導者”という職業の社会的なステータスが高いことなどから教室開設希望者が多く、説明会に教室開設予定数の十数倍を超える希望者が殺到するようなケースもあり、教室開設希望者の獲得に苦労することは少ないという。

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インドネシアの教室風景

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タイ語版の数学教材

指導者の研修機能を各地域に移譲

 同社では、海外でも日本と同様に高い教育品質を維持することに注力している。海外拠点・教室が少なかった当時は指導者の研修は日本人駐在員に任されていたが、国によるバラツキもあった。しかし近年は、公文式の指導原理を正確に伝達する仕組みが整い、基本的には各国や、アジア・オセアニア地域においては地域本社を置いているシンガポールで現地社員に対する集合研修を行うかたちにするなど、機能を可能な限り各地域に移譲していく方針を採っている。
 なお、エリアごとや同一言語圏ごとなどで、教室指導者同士が集合して、またはインターネット上で“学び合い”を行う自主研究も盛んに行われているとのことであり、同社としても、そのような動きをサポートすることを目的に、各地域本社ごとに年1回の研究大会を実施。さらに、中でも優れた研究成果を教材に組み込むなどの取り組みも行っている。ちなみに教材は、算数・数学については日本の教材を翻訳した世界共通教材を採用しているが、語学教材、特に母国語の教材については、読解力を培い、高い読書能力を養成することを目指して、現地スタッフと日本のスタッフが共同で開発しているとのことだ。
 マーケティング・コミュニケーションについては、海外での展開も日本とほぼ同様。教室で子どもたちを伸ばしていくことでブランドを上げ、TVCMやメイン通りの街頭看板でそのブランドの浸透を図る。学習者やその両親との直接コミュニケーションについては、基本的に各教室の指導者が定期的な面談を行うなどにより対応している。
 文化や国民性の違いへの対応については、特にアジア圏では、教育に関して日本と同様に「わが子にはよりよい教育を受けさせたい。それがやがて豊かな生活につながる」という考え方が一般的であり、例えば、インドネシアでは“自分の学年を越えて学習する”ことに対する親の意識や学習のモチベーションも高く、現状では大きな問題は生じていない。しかし、アジア圏以外では、「学年のレベルに追いつけば十分」という考えの人が多い国もあり、学年を越える価値の理解に苦労するケースもある。今後の本格展開を目指している中国などでは、文化、法制度、教育意識などを慎重に見極めた上での対応を行っていく方針である。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年7月号の記事