共存共栄の精神で周辺環境の変化に対応

麻布十番商店街

麻布十番駅と六本木ヒルズの開業を転機に大きな変革を迫られた麻布十番商店街。同商店街ではこの環境の変化に“地元住民が住み続けられる街を支える商店街”を基本方針として対応。変化を受け入れつつも“麻布十番らしさ”を維持するために、さまざまな施策を講じている。

麻布十番駅と六本木ヒルズの開業が転機に

 東京都港区の麻布十番1~4丁目の商店約320店舗で構成される麻布十番商店街。同商店街では、麻布十番商店街振興組合を中心に地域と連携したさまざまな取り組みを展開。地元住民の生活を支えるとともに、日本各地や海外からの観光客などのもてなしの充実を図っている。
 麻布十番商店街の歴史は古く、商店街を構成する店舗の中には江戸時代に創業したというところもある。しかし従来、同商店街が立地する地域は鉄道の駅から離れた、いわゆる“陸の孤島”であったこともあり、基本的に各店舗の商売の規模は小さく、特に意識することなく地域密着型の経営を続けていた。それを一変させたのが、2000年の東京メトロ南北線・都営地下鉄大江戸線「麻布十番」駅の開業と、2003年の六本木ヒルズの開業である。
 「麻布十番」駅の開業によって、麻布十番地域へのアクセスが飛躍的に向上したことから、国内外からの観光客が急増。これに伴って、同商店街への来訪者も従来の約2倍に増加し、同商店街には、従来通りの手法で商売を続けるか、観光客を意識したスタイルへと脱却を図るかという選択が迫られたのだ。
 そこで、同商店街のとりまとめを行う麻布十番商店街振興組合では、環境の変化に伴う商店街のあり方について討議を実施。その結果、「“地元住民が住み続けられる街を支える商店街”を維持することを通じて、外部からの来訪者に対する“もてなし”の品質も高める」という方針を確認し、以後の基本的なスタンスとすることとした。
 一方、六本木ヒルズの開業では、徒歩圏に近代的な店舗が集まるショッピングモールを有する巨大施設ができることにどのように対応するかが問題となり、やはり組合員間で討議を実施。イメージ的にデジタルの粋とも言える六本木ヒルズに同じような方向性で対抗するのではなく、むしろ、昔ながらの商店街の良さであるアナログ的な魅力を強調することでコントラストを演出し、“共存共栄”の関係性を目指すことを確認した。この方向性は六本木ヒルズ側にも理解されており、例えば毎年4月第1日曜日に実施(2011年は東日本大震災の影響で中止)している「花まつり」の「お稚児さんパレード」のコースを、六本木ヒルズをスタート地点とし、麻布十番商店街をゴールとするコースに変更するなど、各種イベントを共同で開催するといった協力体制を構築している。

イベントやセールを随時実施してマンネリ化を防止

 麻布十番商店街では、日本の伝統的行事を中心とする各種イベントを随時実施することで、非日常性を演出し、商売の活性化を図っている。
 その内容は、「節分」(2月)、「花まつり」(4月)、「麻布十番納涼まつり」(8月)、「秋まつり」(9月)、「酉の市バザール」(11月)、「除夜の鐘」(12月)など。これに3~4月の「春まつりセール」や7月の「ほほえみセール(中元)」、12月の「ほほえみセール(歳暮)」といった福引セール、さらには麻布十番商店街の名称にちなんで毎年10月10日に実施している「十番の日」などを絡め、ほぼ毎月、何らかのイベントが開催されるようにして、マンネリ化を防いでいるのだ。
 これらのイベントの中心となっているのは、麻布十番商店街振興組合の約40名の理事と、さらにその中から選ばれる執行部役員。なお、麻布十番商店街では振興組合とは別の組織として、40歳までの商店主やその後継者で構成される青年会があり、実働部分についてはこの青年会が担っているケースもあるようだ。
 そのほか、日常的な販売促進施策としては、希望する約50店舗のみの展開ではあるが、スタンプサービスを実施している。これは、いかに値引きに頼らない販促を行うかという観点から導入されたもので、各店舗が随時「スタンプ○倍セール」などを実施することで顧客サービスの向上を図っている。ちなみに同商店街は、周辺に大使館などが多いことから外国人の利用も多い。それら外国人の顧客は、物珍しさからかスタンプサービスへの参加意欲が比較的高く、常にスタンプカードを持ち歩いて有効に活用している人も少なくないとのことだ。

広報紙の制作に地元高校の生徒が協力

 麻布十番商店街では、地域社会との連携も積極的に行われている。
 例えば、1957年に創刊し、現在では月1回発行して、新聞に折り込むほか、店舗でも配置している広報紙『十番だより』では、近隣の東京都立六本木高校の生徒が授業の一環として商店街の店舗にインタビューを行い紹介する連載コーナーを設けた。
 また、最近では会場の問題から一時中止しているが、8月の「麻布十番納涼まつり」では、近隣の大使館の協力を得て、各国の特色を生かしたさまざまな模擬店を出店する「国際バザール」を実施し、人気を集めた。
 さらに、振興組合の理事経験者が退任後、麻布十番内の各町会の役員を務めるケースも多いことから、これらの自治組織との関係も良好であり、自治組織主催の催しに商店街が協力するといったケースも少なくないようだ。

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麻布十番商店街振興組合の広報部が手づくりで作成し、月1回発行している『十番だより』。制作費は広告費で賄われている

“麻布十番らしさ”の維持を目指して「麻布十番商店街の十番ルール」を制定

 麻布十番商店街における今後の課題としては、新店舗の出店や商店主の代替わりなどが進む中で、商店街としての統一感をどのように維持していくかという点が挙げられている。
 麻布十番地域は、前述のように「麻布十番」駅の開業以降、そのエリア特性が大きく変化しており、マスコミなどで取り上げられる機会も多くなったことから、その商業地域としてのポテンシャルが高く評価され、飲食店などを中心に新規出店が進んでいる。一方で古くから営業している店舗では商店主が代替わりするといったケースも多い。その中で店舗間の連携をいかに図っていくかがテーマとなっているわけだが、同商店街では基本的には良い伝統は守りつつ、新たな動きも排除しないというスタンスで、各店舗が切磋琢磨しつつ、全体の繁栄を目指していく方針を採っている。
 しかし、統一感のある商店街づくりを行い、“麻布十番らしさ”を維持するために、最低限のルールは必要だ。そこで麻布十番商店街振興組合では2006年、基本的な方向性や組合員のあり方を「麻布十番商店街の十番ルール」としてまとめ、新たな出店者などにも、できる限りの協力を求めている。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年6月号の記事