サイト上の“迷える”顧客にチャット対応を推奨してコミュニケーションの最適化を図る

日本アイ・ビー・エム(株)

日本アイ・ビー・エム(株)では、Webサイト上で必要な情報を探して迷っていると思われる顧客に対して、スペシャリストがチャットを活用してアドバイスを行う「IBMライブ・チャット」を提供。まずはソフトウェア製品ページでの本格展開を開始し、顧客コミュニケーションの質の向上を図っている。

顧客コミュニケーションの質の向上を図るための一手段として「IBMライブ・チャット」を導入

 日本アイ・ビー・エム(株)では、法人顧客を対象に、電話、Webサイトなどを通じて、非対面でサーバー、ストレージ製品や、クラウド、仮想化、セキュリティー対策などのソフトウェアをはじめとする、ITソリューションの販売を行う「ibm.com」事業を展開している。同事業では現在、IBMソフトウェア製品のWebサイト上で必要な情報を探して迷っている、あるいは、長時間悩んでいると思われる顧客に対して、ソフトウェア・スペシャリストがチャットを活用してアドバイスを行う「IBMライブ・チャット」を提供している。
 「IBMライブ・チャット」の基本的な仕組みは、IBMソフトウェア製品のWebサイトのアクセスログに基づき、顧客がサイト内をぐるぐると回遊するなど、相談が必要と思われる状況をシステムが判別すると、自動的にチャットの利用を推奨するウィンドウがポップアップ。顧客が「チャットする」ボタンを押すと、ソフトウェア・スペシャリストによるアドバイスなどの対応が開始されるというもの。先行導入していた米国本社の例などを参考に2008年12月からテスト稼動を行い、その結果を踏まえて、2009年10月からソフトウェア製品ページでの本格稼動を開始した。
 同社では多岐にわたるITソリューションを提供しているが、内容が複雑で、顧客が詳細情報を探す可能性が高い製品においてチャット対応のメリットが大きいとの判断から、現時点ではソフトウェア製品ページに限定して「IBMライブ・チャット」を導入。2010年12月現在、対象Webページは「IBMソフトウェア」のトップページのほか、「Information Management」「Lotus」などの8種類となっている。
 そもそもibm.com事業は、1990年代前半に米国本社で営業活動の効率化を目的に開始した取り組みを日本でも踏襲し、2000年から現在の名称で展開している営業組織である。従来の対面営業の中で、非対面営業に置き換えても顧客にとって同水準の対応が可能であると思われる部分を電話やeメール、Webサイトなどを通じた対応に移行することで、営業活動の生産性を向上することを狙いとしている。その中で「IBMライブ・チャット」は、同事業における恒常的な課題である顧客コミュニケーションの質の向上を図るための一手段であると言える。

日本市場ならではのタグ設定によって顧客満足度の向上を図る

 2010年12月現在、チャットの利用を推奨するウィンドウをポップアップするきっかけとなるパターンをルール化したタグは200前後。
 ちなみに、先行導入していた米国では、「同一ページの滞留時間が長い顧客は、困っている可能性が高い」というロジックによって、滞留時間を重視したタグ設定を行っていたが、テスト稼動において、同様のタグ設定によってポップアップを行ったところ、顧客から「あわただしい」といった声が寄せられたことなどから、日本市場では「情報をじっくりと見たい」というニーズが高いと判断。本格稼動においては、滞留時間よりも短い時間で頻繁にページを転々とするなど、“特定の情報を探している”ことが想定されるパターンに対応することを主眼に置いたタグ設定を行った。
 なお、そのほかでも、例えばポップアップ時に表示されるソフトウェア・スペシャリストのイメージ写真について、グローバルでは欧米人の写真を用いているところを、日本語サイトでは日本人の写真を使用するなど、日本市場での利用拡大・満足度向上を図るためのさまざまな工夫を凝らしている。
 受付時間は平日の9時~12時、13時~17時30分。チャット対応を行うソフトウェア・スペシャリストの人数や総対応件数については公表していないが、ソフトウェア・スペシャリスト1人当たりの対応件数は10~20件/日程度になっているとのこと。ちなみに、テスト稼動期間では当初の約2カ月間で200名弱の利用があったことが同社Webサイト上で公表されている。
 1件当たりの対応時間は5分程度から1時間程度までまちまちであるが、本格稼動から1年余りを経て、徐々に蓄積されたログを参考に、よくある回答などを定型文としてテンプレート化することなどで対応の効率化を図った結果、平均対応時間は短縮化傾向にある。なお、1人のソフトウェア・スペシャリストが同時に対応できる件数は、対応内容にもよるが1~2件であり、3件の同時対応は難しいとのことだが、ポップアップ表示の条件となるサイト内行動があっても、対応できるソフトウェア・スペシャリストがいなければポップアップを行わない設定としているので、顧客が対応を待たされるようなことはない。
 「IBMライブ・チャット」を利用した顧客の評価については、これまで特に定量的な検証などは行っていないが、ログ上で「詳細な情報をテキストで確認できるのでわかりやすい」「必要な情報が掲載されているWebページや参考となるデモ動画のURLが表示され、すぐにアクセスできるので便利」といったポジティブな感想が散見されることから、基本的には好評であると認識している。ただし、「音声でのやり取りと比較して時間がかかる」といった声も寄せられていることから、テンプレートの充実化などによって、さらなる回答のスピードアップを図っていく意向である。

チャットでの対応完結にこだわらず最適なコミュニケーションを実現

 ibm.com事業はあくまでも営業活動の一形態であり、チャット対応を担当するソフトウェア・スペシャリストもまた、営業実績について数値的目標を持つ営業担当者の1人である。従って「IBMライブ・チャット」においても、必ずしもチャットで対応を完結させることを目指しているわけではなく、必要に応じて折り返しコールを行って電話での対応に切り替えるなど、成果につなげるために最適なコミュニケーションの実現を目指している。さらに、場合によっては対応の途中でスーパーバイザーの参加や、特定分野に強い担当者にエスカレーションしたりするなど、組織全体としても営業実績を向上するためのフレキシブルな対応が定着しているようだ。
 「IBMライブ・チャット」の運用における今後の課題としては、担当するソフトウェア・スペシャリストのさらなるスキル向上と、全体的な対応件数の増加が挙げられている。
 ソフトウェア・スペシャリストのスキル向上は、対応内容を拡充することで、営業成果につながるコミュニケーションを増加させようとするもの。そのための施策としては、現在も実施している週1回のミーティングなどを通じて担当者間で対応事例を共有化していく取り組みを強化していく方針である。
 一方、全体的な対応件数の増加については、Webサイト上の顧客の行動をさらに精査。現状では200前後となっている、チャット利用を推奨するウィンドウをポップアップするきっかけとなるタグを増大することで、実現を図っていく考えである。

1102C31

ソフトウェア・スペシャリストが集中して顧客対応に当たれるようパーティションは高めに設定されている


月刊『アイ・エム・プレス』2011年2月号の記事