高機能化するモバイル端末を活用したゲームとプロモーションを合体

(株)電通

(株)電通では、生活者とクライアント企業を結ぶプロモーションの新手法の一環として、iPhoneを虫とり網にして街を飛ぶ蝶をキャッチするアプリ「iButterfly」を開発。2010年1月からは実証実験を展開し、最新情報ツールを通じたプロモーションの可能性を検証している。

iPhoneを虫とり網にして街を飛ぶ蝶をキャッチ

 (株)電通では2010年1月、iPhoneのモーションセンサー機能やGPS機能を活用することにより、通常の電子クーポンに、AR(拡張現実)や位置情報ゲームなどのエンターテインメント性を付加させたアプリ「iButterfly」を無料公開。このアプリを使った新しいプロモーション手法の実証実験を開始した。
「iButterfly」の基本的な仕組みは、アプリを立ち上げてiPhoneのカメラをのぞくと画面に映る街に蝶が飛んでいるのが見え、iPhoneを虫とり網のように軽く振ると、その蝶を捕まえられるというもの。蝶の中にはクーポンや待ち受け画面などのコンテンツを運んでいるものがあり、蝶を捕まえたユーザーはそのコンテンツやクーポンを利用することができる。蝶はiPhoneのGPS機能によってもたらされる位置情報に応じて表示されるため、“場所”にひも付けて飛ばすことが可能となっている。
 大画面・高解像度・タッチパネル対応のモバイル端末が急速に普及する中、電通ではモバイル端末を活用した生活者とクライアント企業を結ぶプロモーションの新手法開発に注力しており、「iButterfly」の実証実験はその一環である。
 開発に当っては、未来の広告コンセプトを提示することを念頭に新しい技術を積極的に活用した。例えば、「街に蝶が飛ぶ」仕組みは、iPhoneのGPS機能とARを組み合わせたものであるし、iPhoneを虫とり網に見立てて蝶を捕まえる仕組みは、iPhoneの特徴とも言えるモーションセンサー機能を活用したものである。従って、この実証実験はセンサーの固まりとも言えるモバイル端末をいかにプロモーションに活用できるかを検証し、アピールするための試みであるとも言えるだろう。
 なお、「iButterfly」はプロモーションへの活用を意図して開発されたアプリであるが、数多くのユーザーに楽しんでもらう中で、自然なかたちでプロモーションを行うことを意識。クーポンやコンテンツなどとはひも付かない数多くのユニークな蝶を飛ばし、捕まえた蝶を図鑑にコレクションしたり、ほかのユーザーにプレゼントしたりできるようにするなど、エンターテインメント性についても十分な配慮が行われている。さらに、公式サイトを設け、使い方の説明やニュースの配信などを行うほか、Twitterによる情報発信なども実施。ユーザーがTwitterアカウントを設定すると、コレクション詳細ページにTwitterボタンが表示され、ボタンをタップするとその蝶についてつぶやくことができる機能なども盛り込んだ。そのほか、蝶にポイントを付与し、獲得したポイントのランキングを公式サイト上で発表する仕掛けなどによって、ユーザーの積極的な利用を促進している。

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画面に映る蝶を、虫とり網(iPhone)で捕まえる

さまざまな企業・団体との連携によって多彩な実験を実施

 今回の実証実験では数多くの企業・団体などとの連携により、さまざまな試みが展開されている。
 9月には東京大学・千葉大学・柏市が中心となって運営し、三井不動産(株)がサポートする街づくりの拠点「柏の葉アーバンデザインセンター/UDCK(正式名称:柏の葉キャンパスシティ・アーバンデザインセンター)」のリニューアルオープン記念として、「柏の葉AR(拡張現実)スタンプラリー」を実施。オリジナル「柏の葉蝶」を9種類用意し、それぞれをGPSで指定した範囲に飛ばし、それを捕まえてもらうことで、街を巡る自然なユーザー導線を実現した。さらに捕まえた「柏の葉蝶」から、その場所に関する説明がWebサイトを通じて閲覧できる仕組みとすることで、実際に現地を歩きながら街について楽しく知ることができることを目指した。参加特典としては、指定された5種の蝶を集めた人全員に千葉大特製オリジナルジャムをプレゼント。さらに、ららぽーと柏の葉【柏の葉・LaLa蝶】には、ららぽーと柏の葉内サブウェイで利用できるクーポンをひも付け、参加意欲の喚起を図った。
 10月には、人気バンド「DREAMS COME TRUE」と大塚製薬(株)の「ポカリスエット」とのコラボレーション・イベント「ドリ×ポカリ~イキイキ!~LIVE」とタイアップ。「マサモン」「ミワモン」「ベスモン」という“イキモン”と「ポカリスエット蝶」「ドリ蝶」の5種類すべてを集めると、スペシャル待受画像がプレゼントされる仕組みを提供した。なお、この企画ではiPhoneを持っていない人向けに特設ブースでの貸出も実施し、より多くの人が参加できることを目指した。
 さらに直近では、11月23日から百貨店のそごう・西武と連携し、クリスマスシーズン限定で蝶が飛び回る中にサンタが登場する仕掛けを実施。サンタを捕まえると、全員にオリジナル待受画像がプレゼントされるとともに、抽選で「ハリウッド映画のロケ地を巡るツアー」や映画館のプリペイドカードなどが当るブレゼント・キャンペーンを今年12月25日(土)まで実施中である。

2011年春には本格的なソーシャルゲームとして再リリース

 これらの実証実験では、蝶を通じて配布したクーポンの利用状況や蝶にひも付けたWebページの閲覧状況などについて定量的な把握を行っている。詳細な結果については現在検証段階にあるが、例えば、“レア”感のある動画コンテンツをひも付けたケースでは利用が多いといった知見が得られつつあるとのことだ。
 なお、この実証実験は多くの企業などに注目され、タイアップの引き合いも多かったことから、2010年夏の段階で新規タイアップの募集は中止しており、すでに決まっている企画の実施が完了した時点で、実験は終了される。ただし、「iButterfly」については、2011年春に本格的なソーシャルゲーム「iButterfly Plus」として再リリースされる予定だ。
 「iButterfly Plus」では新たにSNS上でのゲーム配信などを手掛ける(株)バタフライ(2010年11月に「株式会社サクセスネットワークス」から社名変更)をパートナーとして、ゲームとしての完成度をさらに強化。かざしたiPhone画面内に蝶が飛ぶという基本のスタイルは変わらないが、その蝶を捕まえると種を落とすというパターンを設け、ユーザーがその種を植えて育てることができる仕組みなどを加える。さらに、プラットフォームもiPhoneのみからAndroid端末にも拡大。また、世界展開も予定されており、将来的には蝶を介した国際的なコミュニケーションの展開を目指している。これらの動きはプロモーションの舞台としての可能性を拡大するものでもあり、今後もその動向が注目されるところであると言えよう。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年1月号の記事