レコメンド効果で1注文当たりの平均購入商品点数が向上

(株)リクルート

(株)リクルートでは、2つのサイトを統合した通信販売サービス「Fun★Cart」のスタートに当たり、レコメンドエンジンを本格導入。ショッピングカートのページなどにレコメンドスペースを設定し、商品間の相関を重視したレコメンドにより、アップセル、クロスセルを実現している。

2つのサイトを統合した通信販売サイト

 (株)リクルートでは、同社が運営する通信販売サービス「Fun★Cart」にレコメンドエンジンを導入。ユーザーごとに適切な商品を推奨する仕組みにより、アップセル、クロスセルの増加を図っている。
 「Fun★Cart」は同社が2010年1月25日に、従来から運営していた「赤すぐnet」と「eyeco」を統合するかたちで開設した通信販売サービスだ。統合前の「赤すぐnet」では、妊娠から子育てまでをカバーする通販マガジン『妊すぐ』『赤すぐ』と連動して、マタニティ、ベビー、キッズ、子供服、子供用品などを販売。一方、「eyeco」では、ファッション通販マガジン『eyeco』と連動して、世界中から集めたウエア、シューズ、小物、雑貨、エコグッズ、オーガニックコスメなどを販売していた。両サイトの商品を一緒に閲覧・購入できる通信販売サービス「Fun★Cart」を立ち上げた目的は、重複性の高い両サイトのユーザーが横断してショッピングを楽しめ、また、購入金額に応じて適用される「送料無料」や「割引」などの特典を受けやすくすることで、ユーザーの利便性を向上すると同時に、販売の効率化を図ること。掲載商品は「赤すぐnet」が4,000点前後、「eyeco」が1,000点前後で、PCだけではなくモバイルから利用することもできる。特に出産後すぐの母親層などでは、手軽さからモバイルサイトを選択する傾向があり、現状では全体の40%前後がモバイルサイトの利用となっている。
 ユニークユーザーは約40万人。その中心は通販マガジン『妊すぐ』『赤すぐ』や『eyeco』の読者層であるが、最近では検索エンジンなどを経て「Fun★Cart」にたどり着くユーザーも増加しつつある。なお、「Fun★Cart」はメンバー制サイトとなっている。メンバー以外でも購入は可能だが、メンバー登録をすると注文が簡単になるほか、メンバー限定商品なども用意しているため、ユーザーの大半はメンバー登録をしている。

アウトソーシング企業とより良い通信販売サイトを構築するための協力体制を築く

 同社では、サイト統合前の2008年ごろからレコメンドエンジンを試験的に導入していたが、「Fun★Cart」のスタートに当たって見直しを図り、本格的な導入を図った。
 同社がレコメンドエンジン提供企業に期待したのは、提案力とスピードだ。同社は紙媒体である雑誌での通信販売についてはノウハウを積み重ねてきたが、ECについては取り組み始めてからの期間が短いため、ノウハウの蓄積が不十分という面がある。そこで、ECについて高い知見を持つアウトソーシング企業との協力体制により、サイトを拡充すると同時にサイトの効率的運営を進め、ノウハウを蓄積していくことを目指した。同社では、このような観点から協力企業としてシルバーエッグ・テクノロジー(株)を選び、同社が提供するレコメンドエンジン「アイジェント」を活用することとした。

高い成果を上げるショッピングカートページのレコメンド

 「Fun★Cart」では、レコメンドを表示するスペースをトップページ、商品検索結果ページ、商品詳細説明ページ、ショッピングカートページの4種類のページに設定している。なお、トップページについては、メンバーがログインした場合にのみ表示される。
 この中で特に効果が高いのは、ショッピングカートページにおけるレコメンドだ。ここでは、カートに入った商品の合計金額が、「送料無料サービス」(1万5,750円~)や「5%OFF」(2万1,000円~)、「7%OFF」(3万1,500円~)が適用される金額まで3,000円以内に近づいた場合、購入を追加することにより適用金額をクリアできる価格帯の商品を推奨、ユーザーの購買意欲を喚起することに成功している(金額はすべて税込み)。そのほかでは、商品詳細説明ページでのレコメンドも比較的高い成果を上げているようだ。
 レコメンドのロジックについては、購入履歴データに基づく商品間の相関がベースとなっている。その要素としては商品カテゴリー、価格、ブランドなどがあるが、例えばTシャツ購入者ではTシャツのレコメンドが有効であるといった結果が出ていることから、商品カテゴリーの比重を高く設定しているもようである。
 実際のレコメンドにおいては、単に商品を推奨するだけでなく、同社が長年にわたる情報誌編集で培ったクリエイティブをできる限り活用している。例えば、マタニティ、ベビーグッズなどでは、信頼性を想起させる“先輩ママも使った”といったキーワードが有効であることを『妊すぐ』『赤すぐ』などの編集を通じて確認していることから、レコメンドにもこのようなキーワードを加えることで、高い効果につなげている。

レコメンド経由の売り上げが全体の5%前後に

 「Fun★Cart」のスタートに伴うレコメンドエンジンの本格導入後、レコメンド経由の売り上げが全体の5%前後を占めるようになり、1注文当たりの平均購入商品点数も統合前の5~6点から1点前後増加した。これまでのところ、レコメンドエンジンの運用コストに対して、十分に見合う成果が現れている。
 その中で最大の課題として挙げられているのが、商品カテゴリーによってレコメンド効果に違いがあることだ。例えば、妊娠線を消すための妊娠クリームや化粧品の分野では高いコンバージョン率を実現している一方、ファッションの分野ではレコメンド効率がなかなか上がらないという実情がある。このため、今後、あらゆる分野で高い成果が上げられるよう、レコメンド方法の調整を行っていく意向である。
 また、モバイルサイトにおけるレコメンドの効果向上も課題となっている。モバイルサイトでは表示スペースに制約がある中で、ページの中でも目立つ部分にレコメンドスペースを設定するなど、積極的な対応を行っているが、現状ではPCサイトほどの成果は上がっていない。今後、提案数増加のための工夫を凝らすなどして、成果向上につなげていきたい考えである。
 そのほか、将来的には、メンバー登録時に取得する基本属性情報をレコメンドにも反映させることを計画している。「赤すぐnet」は、妊娠から子どもが6歳になるまでという女性の7年間をカバーする通信販売サイトであり、ユーザーがどのステージにあるかによって、購入検討対象となる商品が大きく異なるという性格を持っている。従って、レコメンドにおいてもユーザーのステージと関連付けることで、より高いフィット感を実現できるという考えから、2010年度中にもトライアルを開始する意向だ。

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“先輩ママ”の推奨品が並ぶ商品詳細画面(上)と、「送料無料サービス」の該当金額に近付くと、不足額に見合った商品が推奨されるショッピングカート画面(右)


月刊『アイ・エム・プレス』2010年11月号の記事