週1回ペースのABテストによる恒常的なサイト改善でコンバージョン率を向上

トレンドマイクロ(株) 

セキュリティソフトの代名詞的存在「ウイルスバスター」を販売するトレンドマイクロ(株)では、公式サイトである「トレンドマイクロオンラインショップ」にレコメンドエンジンを導入。ユーザーのサイト内回遊の活性化・円滑化による、コンバージョン率の向上に取り組んでいる。

インターネットセキュリティ業界のリーディング・カンパニー

 トレンドマイクロ(株)は1988年8月に米国ロサンゼルス州で創業したインターネット・セキュリティ業界のリーディング・カンパニー。同社は「あらゆるデジタルインフォメーションを安全に交換できる社会」の実現をビジョンに掲げ、「絶え間ない革新により、ITインフラの変化に対応した最適なコンテンツセキュリティソリューションを提供する」というミッションに基づいて、インターネット・セキュリティ関連製品・サービスの開発・販売を行っている。
 同社を代表する製品で、コンシューマー向けセキュリティソフトの代名詞的存在となっている「ウイルスバスター」では、2010年8月31日に発売開始(店頭発売は9月3日)した最新バージョン「ウイルスバスター2011 クラウド」から基本設計を一新。ウイルス検出に必要なすべてのデータをパソコン内で更新する方式から、クラウド上のデータベースを参照してウイルスを検出する「スマートスキャン」を用いた方式への変更を図った。これにより、リアルタイムでの防御を実現すると同時に、PCへの負荷を最小限に抑えることで、軽快性の向上を実現した。
 同社では「ウイルスバスター」の公式サイトである「トレンドマイクロオンラインショップ」にレコメンドエンジンを導入し、ユーザーのサイト内回遊の活性化・円滑化による、コンバージョン率の向上に取り組んでいる。

One to One性の向上によるコンバージョン率アップを目指してレコメンドエンジンを導入

 トレンドマイクロオンラインショップは、新規ユーザーに対する「ウイルスバスター」の販売(ダウンロード、パッケージ製品)を目的とするWebサイトである。つまり、直営のECサイトと言えるが、「30日無料体験版」のダウンロードができる機能を備えており、ユーザーの購入ステップとしては、体験版のダウンロード、利用を経て購入に至るというかたちが一般的となっている。なお、「ウイルスバスター」には1~3年版が用意されており、期間終了後は有料で更新する仕組みだが、契約更新には別の専用サイトを設けている。また、購入後のアフターフォローも別サイトで行っており、トレンドマイクロオンラインショップは“販売”に特化したサイトとなっている。
 2004年3月に開設されたトレンドマイクロオンラインショップは、当初はWeb上の製品カタログに販売機能を付加した程度のものであったが、2007年12月にスタイルを変更。「こんなあなたにウイルスバスター」をキーワードにコンテンツのボリュームを増やして、積極的な販売促進を行うサイトとしての位置付けを明確化した。
 同社では、テレビCMやインターネット上での広告展開、SEO対策などサイトへの積極的な集客活動を行っており、その結果、ユーザーの流入経路は多種多様なものとなっている。
 そこで従来は、流入経路ごとに適切と思われるランディングページを設定することによってコンバージョン率の向上を図ってきたが、より高い成果を実現するためには、よりきめ細かいランディングページの設定が必要であり、そのために多大なマンパワーを割かなければならないことが現場の負担となっていた。また、CPA(Cost Per Acquisition=顧客獲得単価)の削減も限界に近付き、新たな施策の導入が要求されることとなった。
 そこで、2008年9月、「ウイルスバスター2009」の発売と同時に行われた施策が、レコメンドエンジンの導入である。
 導入の目的は、ユーザーがトレンドマイクロオンラインショップにたどり着くまでの経路、例えば検索エンジン経由の場合は検索キーワード、広告経由の場合は掲載サイトなどによって、異なるページが閲覧されるようにすることで、ユーザーのサイト内回遊を活性化・円滑化すること。つまり、ユーザーが離脱することなくサイト内を回遊し、多くのコンテンツに触れることで「ウイルスバスター」への理解を深め、結果として「30日無料体験版」のダウンロードを促進することが狙いであり、One to One性の向上によるコンバージョン率アップが最終目標であると言える。
 導入するレコメンドエンジンの選定に当たっては、取扱商品が有効期間や「保険&PCサポート付き」かどうかなどのバリエーションはあるものの、基本的には「ウイルスバスター」だけであるため、商品間の相関がベースとなる協調フィルタリングによる自動レコメンドではなく、任意にレコメンドのルール設定が可能なルールベース・レコメンドが行えることを重視。コスト面やサポート体制なども加えて検討した結果、(株)ブレインパッドの「Rtoaster」を導入することとした。

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基本設計を一新した「ウイルスバスター2011 クラウド」。レコメンデーションを駆使して「30日無料体験版」のダウンロードを促進

週1回ペースでABテストを実施

 トレンドマイクロオンラインショップでは、前述の通り基本的に取扱商品が1種類であるため、アイテムレコメンドはできない。従って、いわばコンテンツレコメンドといった体裁となっており、ユーザーに対しては、表示されているページがレコメンドを反映したものであることがわからない。つまり、ユーザーに特に意識させることなく、それぞれに適したページに誘導しているというわけだ。
 レコメンドエンジンの導入後は、ABテストの展開が比較的容易となった。テスト→検証→改善を繰り返し行った結果、コンバージョン率は確実に向上。CPAは導入前の約90%となり、トレンドマイクロオンラインショップ全体のROIも、レコメンドエンジンの利用費用も含めて総費用が増加しているにもかかわらず、10%程度改善されている。なお、導入から約2年を経過した現時点でもABテストは恒常的に実施しており、2010年度では年間50回程度、ほぼ週1回ペースで実施される見込みである。
 レコメンドエンジンの運用において、現状、大きな問題点や課題はないが、将来的には現在のルールベース・レコメンドだけでなく、コンテンツ相関をベースとした協調フィルタリングによる自動レコメンドも行うなど、レコメンドのバリエーション増加に取り組んでいきたい考えだ。
 なお、前述の通り、トレンドマイクロオンラインショップは“販売”に特化したサイトであり、契約更新やアフターフォローについては別サイトが用意されている。当然、これらのサイト間には一定の連携が保たれているが、今後はその連携性を一層高めていく方針だ。その際には、現状、トレンドマイクロオンラインショップのみで実施しているレコメンドエンジン運用を通じて得られたノウハウを最大限に活用・展開することで、全体としてユーザーにとって使い勝手の良いサイトの実現を図っていく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年11月号の記事