グローバル戦略として「eCRM」を推進

ユニバーサル ミュージック合同会社

総合レコード会社のユニバーサルミュージック合同会社では、2010年初頭から「eCRM」の展開を本格化。国内外約100組におよぶアーティストのファン層を対象にメールマガジンを配信することによって、継続的なコミュニケーションを図り、CDや関連グッズの販売拡大につなげている。

CD販売が低迷する中で「eCRM」が重要戦略に

 ユニバーサルミュージック合同会社は、世界77カ国に子会社となるレコード会社やライセンシーを展開する世界最大の音楽企業、ユニバーサルミュージックグループの日本法人。CDやDVDなどの制作から宣伝、販売までを一貫して行う総合レコード会社として、日本の音楽業界をリードしている。対象とする音楽ジャンルはJ-POPや演歌などの邦楽、洋楽、クラシック、ジャズなど多種多様であり、主要6レーベルを展開。契約アーティストは国内外合わせて1,000組以上にも達している。
 従来、CDの販売においては、TVドラマなどとタイアップするとともに、TVCMを中心とするマス広告を展開して生活者の購買意欲を喚起し、販売数量の増加につなげるという戦略が一般的であった。しかし近年では、CD販売が全般的に低迷する中で、そのような戦略では広告費用に見合った販売数量を確保できないケースが多くなってきた。その中で注目されてきたのが顧客データベースに基づくeメールの配信によってプロモーションを行う「eCRM」であり、ユニバーサルミュージックグループ全体として、グローバルでの重要戦略としての位置付けがなされている。
 同社が日本において実際の取り組みを本格化させたのは2010年初頭から。それに先立って2009年には、すでにさまざまな取り組みを通してノウハウを積み重ねていた英国本社から「eCRM」の担当者を招き、社内へのコンセプトの浸透、海外の事例を基にした登録者の集め方、コンテンツの作り方などのトレーニングを実施した。日本での担当部署はセールスマーケティング部門のダイレクト・マーケティング本部となっており、現在は4名の「eCRM」担当者が、各アーティストを担当するレーベルのスタッフと連携して業務を遂行している。
 なお、メルマガの制作、配信といった実作業については、専門企業である(株)カレンにアウトソーシングしている。これはマンパワーの問題に加えて、膨大なeメールの山の中でも埋もれないキラリと光る原稿づくりなど、メルマガ配信における課題をクリアする上で、プロフェッショナルの手を借りた方が効率的であるという判断に基づくものであり、今後もこの体制を継続していく方針である。

CD販売に一定の押し上げ効果を発揮

 ユニバーサルミュージックにおける「eCRM」の基本形は、特定のアーティストのファン層を、ライブ会場で配布するチラシやCDパッケージに表示したQRコード、各種メディアに掲載されたパブリシティ記事などにより、アーティスト別に運営しているWebサイトに誘導。Webサイト内でメルマガ登録をしてもらい、以後、メルマガによるコミュニケーションを図るというもの。限定動画の配信やアーティスト関連グッズの限定販売などをインセンティブとすることで、登録の促進を図っている。2010年7月現在では、国内、海外を合わせて約100組のアーティストを対象としており、月間の配信メルマガ数はPC向け、モバイル向けを合わせて160本前後、配信対象者は延べ約30万人にも達している。
 登録時に収集している情報は、性別、生年月日、居住地など。そのほか、ファンがベスト版の収録曲を選ぶ投票を行うといった企画を随時実施することで、マーケティングの参考となる情報も収集している。
 メルマガの内容については、アーティスト自身や所属事務所との入念な打ち合わせに基づいて決定しており、ライブのチケット先行予約情報やリリース情報など、直接的なプロモーションにかかわるものに加えて、例えば、アーティスト自身がツアー先で収録した限定のビデオコメントやツアー先で入手したグッズのプレゼントなども加えることで、希少性や独自性を演出している。なお、現状では情報の希少価値性を高め、コアなファン層に対する訴求をより強めるべく、Webサイトへの誘導を図る以上に、メルマガ単体で情報提供を完結することも多いとのことだ。
 メルマガ配信のCD販売枚数への貢献度については、現状、同社ではWebサイト上などでの直販を実施しておらず、因果関係の明確化が難しいことから、定量的な把握はできていない。しかし、一定の押し上げ効果は確実に発揮しているものと認識している。例えば、2006年にデビューした日本のロックバンド、The Birthday(ザ・バースデイ)の場合、従来はオリコン(株)が発表するCD販売枚数の週間ランキングで、初登場時におけるランクが20位前後となることが多かった。しかし、メルマガ配信を開始して、登録者が1万人規模に達して以降、コンスタントに10位以内を記録できるようになった。そして、このような成果を上げることで、アーティスト自身や所属事務所がメルマガの効果を認識して協力度を高め、メルマガの内容がより充実することにより、さらに成果が増大するという好循環も生まれつつある。
 なお、同社ではメルマガ配信に関する直接的な指標としては開封率を重視している。ちなみにグループ全体(グローバル)の目標は30%に設定されているが、日本では現状、メルマガ登録者の中心が各アーティストのコアなファン層となっていることもあり、平均して50%超の開封率を維持できているとのことである。

メルマガ登録者数100万人を目指す

 同社のメルマガには、PC向け、モバイル向けの双方があるが、若年層ではモバイル向け、30代以上ではPC向けの登録が多く、各アーティストのファンの年代層によって偏りが発生する傾向があるとのことだ。モバイル向けeメールへの取り組み自体がPC向けより遅れてスタートしたことから、現状ではPC向けの比率が若干高いが、モバイル向けの利用が多い若年層ではメルマガ登録に対する抵抗感が少なく、気軽に登録する傾向があることから、2010年末時点では比率が逆転することが予想されている。なお、メルマガの内容については、PC向け、モバイル向けでなるべく統一化するようにしているが、PC向けでは「です・ます調」を基本としているのに対し、モバイル向けでは体言止めを多用するなど、媒体特性やターゲットを意識して、表現を変えるといった工夫を施している。
 今後の課題としては、メルマガ登録者数の拡大が挙げられている。これまでの経験で、1アーティスト当たりの登録者数が1万人を超えると、CD販売枚数増に対する貢献度が顕著になるとともに、例えば、自社で手掛けるアーティスト関連グッズの販売などの付帯ビジネスも採算に合うことがわかってきた。これを受けて、当面は「eCRM」の対象となるアーティスト約100組それぞれについて1万人以上、合計100万人以上を目指してメルマガ登録の促進を図っていく方針だ。そのための具体的な施策としては、各アーティストのファン層が数多くアクセスしていると思われる外部のポータルサイトとの提携などが検討されている。
 メルマガの内容については、今後も大きく変更することは考えていないが、各アーティストの登録者数が一定規模に達した場合には、登録者全体に対する一斉配信だけでなく、例えばインストア・イベントの告知などについては当該エリアの居住者のみを対象とするなど、必要に応じてセグメントを行うことで、満足度の向上を図っていく考えである。

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PC向けのメルマガ(左)/モバイル向けのメルマガ(中・右)


月刊『アイ・エム・プレス』2010年9月号の記事