eメールを通じたコミュニケーションの深化により継続利用を促進

オイシックス(株)

インターネット通信販売サイト「Oisix」を通じて、有機野菜などの食材販売を手掛けるオイシックス(株)。同社では創業以来、eメールを顧客との重要なコミュニケーション・ツールと位置付けて積極的に活用。特に最近ではモバイル向けメールの強化などに力を注いでいる。

初回利用直後からeメールによるコミュニケーションを開始

 “感動食品専門スーパー”を掲げるインターネット通信販売サイト「Oisix(オイシックス)」を運営するオイシックス(株)では、2000年6月の創業以来、eメールを顧客との重要なコミュニケーション・ツールと位置付け、積極的な活用を行っている。これまでのところ、メールマガジン登録から一定期間の講読を経てサイト利用につなげるという戦略は採っておらず、基本的には利用実績がある顧客に対してeメールを配信することによりコミュニケーションを深め、継続利用の促進を図るスタイルが中心だ。なお同社では、eメール以外にも商品同梱のチラシやリーフレット、月1~2回発行の情報紙『VOICE』などの紙媒体でも顧客とのコミュニケーションを図っているが、eメールについては即時性や機動性、紙媒体については保存性など、それぞれの特性を生かしたかたちでの使い分けを図ると同時に、必要に応じて両社を連携することで相乗効果を発揮することを目指している。
 「Oisix」利用顧客は、その大半がさまざまな経路で「Oisix」を認知してサイトを訪問。その時期に旬の時期を迎えている食材により構成され、初回限定で全国送料無料の「おためしセット」を購入するかたちで、「Oisix」の利用を開始している。同社では、まず、この「おためしセット」が到着するタイミングを見計らって、購入顧客にeメールを送信している。そのeメールは、例えば「ほうれん草農家の○○さんからのメッセージ」など、「おためしセット」を構成している食材を提供している生産者からの通信というスタイルを採り、その食材に込めた思いを伝えるとともに、生産者ならではのお薦めの調理法なども紹介するというもの。その狙いは、食材に情報の付加価値を加えること、すなわち食卓に話題を提供し、利用者の満足感を向上させることであり、それによって継続利用を促進することである。
 また、メールマガジン配信のパーミッションが取れた顧客に対しては、毎週木曜日に「Oisix通信」を配信している。その内容は、旬の食材の紹介や新着・割引商品情報などとなっており、現在、約60万人が配信対象として登録されている。
 さらに、定期宅配サービス「おいしっくすくらぶ」の会員約4万人に対しては、配達予定日の7~13日前をメドに、「定期ボックス」(同社が設定する配達予定商品。自由に変更が可能)が準備できたことを告知するeメールなども配信し、会員がより有効かつ手軽にサービスを利用するためのサポートを行っている。
 そのほか、セグメントされたターゲットに対する不定期なeメールの配信も随時実施している。内容は、新たに販売を開始した産地直送品の紹介など、商品の告知に関するものが中心。セグメントのキーとしては、基本属性よりもRFMなど顧客それぞれの状況を示す指標を重視している。なお、1顧客に対するeメールの送信数については、1週間に5通程度を上限値として、過剰感が出ないように気を付けているとのことだ。

文章で説得していくテキストメールが中心

 同社でメルマガを中心とするeメールの配信を直接担当しているのは、EC事業部の担当者である。メール作成の手順としては、売り場担当者やバイヤーと週1回実施している会議で訴求対象商品を絞り込み、当該商品に対する情報を収集して実際の文面を作成。その後、カスタマーサービス部門の担当者による、薬事法に抵触していないかなどについてのチェックを経て配信するというかたちが一般的だ。なお、PC向けメールとモバイル向けメールでは別々の担当者を配置しており、両者が連携しながら業務を進めている。また、「おいしっくすくらぶ」会員向けの各種告知メールについては、カスタマーサービス部門から配信するかたちが採られている。
 現在、企業が生活者に向けて配信するeメールでは、表現力に長けたHTMLメールが主流となりつつあるが、同社ではテキストメールを中心としている。これは、HTMLメールはテキストメールと比べて制作コストが掛かるという問題があることに加えて、商品ごとにその商品にまつわるストーリーを付随させて提供することで付加価値を高めていくという同社の戦略上、視覚訴求の比重が高いHTMLメールよりも、文章で説得していくテキストメールの方がふさわしいという判断に基づくものであり、今後も当面はこの方針を継続していく意向である。ただし、画像によりシズル感を訴求して、購買意欲を喚起することができる食材の紹介メールなどについてはHTMLメールも活用しており、今後もより良い活用法の研究を続けていく。
 文章表現において心掛けているのは、できる限り具体性を高めること。例えば、生産者を実名で登場させ、その生産品に関するこだわりなどを詳細に紹介。また、食材を実際に食べたときの音を擬音で説明するなど、eメールを読んだ人の商品に対する興味を高め、さらに自分が利用した際の情景を想像できるようにすることで、実利用の喚起につなげている。
 そのほか、メールタイトルについては、「期間限定」や「個数限定」などの表現を用いることで希少感を演出し、メール開封の促進に努めている。

モバイル向けメールではPC向けメールを上回る転換率を実現

 同社では近年、モバイルサイトの拡充に注力しており、その取り組みはEC研究会が主催する2010年「モバイルコマース・グランプリ」で大賞グランプリを受賞するなど、すでに外部からも高い評価を獲得している。しかし、同社ではそれに甘んじることなく現在もさまざまな機会でモバイル登録の拡大を図っている。
 モバイル向けメールについては、いわゆる「デコメール」なども多用。PC向けと比較して限られた情報量の中で、いかに商品の魅力を伝えるかに注力している。また、常時携帯されるというモバイルの特性を考慮して、時間限定で割引販売を行うタイムセールの案内などもモバイル向けメールだけで実施。これらの施策の結果、転換率についてはモバイル向けメールがPC向けメールを上回るという結果につながっている。
 eメールによるマーケティングの効果測定指標としては、eメールはWebサイトの入り口のひとつであるという考えから、eメールでの訴求が実際のWebサイトの訪問率、さらに購入への転換率にどの程度寄与できているかを重視している。ちなみに現状では、常設の売り場よりも産直品などの特設コーナーにおいて、eメールを入り口とする訪問への比率が高いとのことである。
 今後の課題としては、まだまだ読まれていないeメールも多いという認識から、開封率・講読率をより高めていくことが挙げられており、現在、具体的な施策を検討している段階である。

1009C11

PC向けメールを上回る転換率を実現しているモバイル向け「デコメール」


月刊『アイ・エム・プレス』2010年9月号の記事