クロスセル・アップセルを目的とするアウトバウンド専用センターを運営

(株)ジュピターテレコム

国内最大のケーブルテレビ局・番組供給事業統括運営会社である(株)ジュピターテレコム(J:COM)は、2006年3月、アウトバウンド専用の「J:COMお客様コンタクトセンター」を札幌市と福岡市の2カ所に設置。既存契約世帯を対象にクロスセル、アップセルを狙うアウトバウンド・コールを展開し、戸別訪問営業の効率低下をカバーしている。

戸別訪問営業の効率低下に伴いアウトバウンド・コールによる営業活動を開始

 1995年に設立された(株)ジュピターテレコム(J:COM)は、現在、札幌・仙台・関東・関西・九州エリアのケーブルテレビ事業者23社48局を通じて、ケーブルテレビ、高速インターネット接続、固定電話、移動体通信の4サービスを提供する「ケーブルテレビ事業」、およびケーブルテレビ、衛星放送、IPマルチキャスト放送などへの番組供給を中心としてコンテンツ事業を統括し、17の専門チャンネルに出資・運営を行う「番組供給事業」を展開している。
 同社の「ケーブルテレビ事業」においては、従来から地域密着型の事業展開が行われており、契約世帯獲得などの営業活動はグループ内のケーブルテレビ事業者が行ってきた。現在でも日本全国に約2,300名の営業スタッフを配置しており、戸別訪問によって顧客の嗜好に合わせたサービスを案内することで、新規契約世帯の獲得や既契約世帯における利用サービスの拡大に取り組んでいる。
 しかし、近年では特に都市部でエントランスをオートロック方式とする大型集合住宅が増加したことなどにより、戸別訪問ではアプローチできないケースが増加した。そこで同社では2006年3月、従来から運営していたインバウンド中心のカスタマーセンターとは別に、アウトバウンド専用の「J:COMお客様コンタクトセンター」を札幌市(以下、東コンタクトセンターと呼ぶ、以下「JCCE」と略)と福岡市(以下、西コンタクトセンターと呼ぶ、以下「JCCW」と略)の2カ所に設置し、アウトバウンド・コールによる営業活動を開始したのである。
 なお、同社の営業活動は大きくプル型とプッシュ型に分類される。プル型については全国に75カ所設置しているショールーム型の店舗「ジェイコムショップ」と、全国7カ所のインバウンド中心のカスタマーセンターが担当。一方、プッシュ型については、訪問営業部隊を中心にこれをフォローするかたちで「J:COMお客様コンタクトセンター」が担当している。

月間約5万世帯とのコミュニケーションを実現

 2009年9月現在、「J:COMお客様コンタクトセンター」は、JCCEが200ブース・100名、JCCWが200ブース・120名体制で運営。担当エリアは札幌センターが札幌・仙台・関東圏エリア、福岡センターが湘南・関西・九州エリアとなっている。業務は年末年始を除いて毎日9時から21時まで行っており、発信数は、1日・1センター当たり4,000~5,000件、月間では全体で25万件前後に及んでいる状況だ。これにより、月間約5万世帯とのコミュニケーションを実現している。
 同コンタクトセンターの主な業務は、既存契約世帯に対して、同社が“トリプルプレイ”と呼ぶケーブルテレビ、高速インターネット接続、固定電話の3サービスの利用を勧めること。つまり、クロスセル、アップセルを狙うものであり、電話帳などの外部リストを使って新規契約の獲得を目指す旧来型の“電話営業”とは一線を画すものになっている。ちなみに同コンタクトセンター 副センター長の大橋荒太氏によれば、「顧客とのツーウェイ・コミュニケーションが成立していれば、インバウンドもアウトバウンドも大きな違いはない」とのことであり、同社では、インバウンドとアウトバウンドを合わせて“コールセンター・セールス”と認識しているとのことだ。
 お客さまとのコミュニケーションの内容については、いかに対面営業を想起させるかを重視している。電話によるコミュニケーションでは、対面コミュニケーションと比較して相手の反応が十分につかめないために、商品メリットの一方的な訴求などが中心となりがちであるが、なるべく多くの時間をお客さまニーズの聴き取りに充てることで、相手の反応をうかがいながら臨機応変な対応を行う対面営業と同レベルのコミュニケーションを実現しようとしているのだ。

個性的な人材を積極的に採用

 同社でカスタマー・サービス・セールス・レップ(CSSR)と呼ぶセンタースタッフの雇用形態については、契約社員・派遣社員が中心。採用に当たっては、会話のキャッチボールが好きかどうかや人が好きかを選定の基準にしており、他社コールセンターにおける勤務経験の有無はあえて考慮していない。なお、前出の大橋氏によれば、「社会人としてのモラル・ルールを守れることを前提に、個性的な人材を積極的に採用している」とのこと。これは、人材の確保という点で他社センターとの競合が少ない上に、ただ指示に従うマニュアル型の人材よりも“くせがある”人材の方が伸びしろが大きいという経験則に基づくものであり、「使いこなせるかどうかはマネジメント側の問題」であるとしている。
 新規採用したCSSRは1カ月前後に及ぶ初期研修を経た上で、実際の業務に投入される。初期研修の内容は、同社の商品・サービス、各種キャンペーン、加入契約から工事を経て契約に至るまでの一連のフローなどに関する座学研修、およびスプリクトの読み込み・音読、ロールプレイングなど。専門のトレーナーが一定のレベルに達したと判断した段階で実戦デビューするが、その後もOJTを実施し、レベルが下がった場合には、再度トレーニングを行っている。
 なお、同コンタクトセンターでは2007年1月からアウトバウンド・コールの効率向上を目的にKPI指標を積極的に導入。各CSSRの業務遂行状況について、コール数、トークタイム(会話時間)など個人別40項目余りに及ぶパフォーマンス・データをデイリー、ウィークリー、マンスリー単位で計測し、その内容と実際の契約獲得状況を組み合わせることにより、各CSSRの長所や欠点を把握し、その後の指導に役立てている。その結果、導入以前と比較してコンタクトセンター全体の業務効率が20%強向上したとのことである。

少数精鋭型ではなくスケールメリットを追求

 同社では、アウトバウンド・コールの成果を上げるためのカギは、個人成績が上位層ではなく中間層以下のCSSRのレベルアップをいかに図るかにあると認識している。コンタクトセンターは少数精鋭よりもスケールメリットを目指すべきであり、ボリューム的に多数を占める中間層以下のCSSRの成績を上げて、コンタクトセンター全体の底上げにつなげることが重要であるというわけだ。
 その実現のために同コンタクトセンターでは、CSSRのモチベーションアップのための施策として、単に個人の成績に応じたインセンティブなどではなく、全員参加型のゲームを採用している。例えば、各CSSRの契約獲得ごとにハット(帽子)を回して、所定の時刻にハットを被っていたCSSRやチームを表彰するというようなものだが、このような偶発的な要素を含むゲームを実施することで、中間層以下のCSSRも含めたコンタクトセンター全体の活気向上を図っているのである。
 そのほか、現在特に注力しているのは、スーパーバイザー、リーダー、サブリーダーなどの中核マネジメントスタッフの育成だ。これは、中核スタッフの指導力を高めることがセンター全体のレベルアップへの近道であるという認識に基づくものであり、今後も継続して指導力向上のための研修を行っていく方針である。

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J:COMお客様コンタクトセンター


月刊『アイ・エム・プレス』2009年11月号の記事