子どもたちに働く喜びと報酬を与え、継続的な利用を促す

キッザニア東京 (株)キッズシティージャパン 

キッザニアは、子ども向けの職業・社会体験テーマパークのパイオニア。メキシコで誕生し、世界に展開中のキッザニアだが、東京には2006年に上陸。50以上のパビリオン、80以上のアクティビティが入った施設は、あらゆる職業が詰まった、まさに“小さな街”。子どもたちが目を輝かせながら憧れの仕事にチャレンジする姿を見ることができる。

子どもたち自身が運営する“小さな街”とは

 1999年、メキシコで第1号となる施設がオープンしたキッザニア。現在では子ども向け職業・社会体験型テーマパークのパイオニオとして世界に進出している。日本では、2006年10月にキッザニア東京が、2009年3月にはキッザニア甲子園がオープンし、(株)キッズシティージャパンが運営に当たっている。同社では、成功を収めているメキシコでの運営システムをベースにしつつ、独自の工夫を付け加えて、日本に合った施設運営を行っている。同社が目指しているのは、日本の将来を担う子どもたちが、これからの実社会で生きる力を育むための体験と学びの機会を提供することである。
 キッザニア東京は、江東区豊洲のららぽーと豊洲内にあり、約1,800坪の施設内には50以上のパビリオンが入り、80以上のアクティビティ(仕事)が行われている。施設内の設備は子どもの体に合わせ、すべてが約2/3の大きさとなっており、設備の豊富さと相まって、さながら“小さな街”と化している。なお、各パビリオンは、その業界を代表する大手企業がスポンサーとなり、設備や機材などをサポートしている。
 入場者数は2007年度が約93万人、2008年度が約91万6,000人、今年度は長引く不況や新型インフルエンザの影響を受けたため、前年度を下回るとみている。しかし、施設開設当初は年間50万~70万人の入場者を想定していたことから、事業としては順調に推移していると言えそうだ。

“子ども扱い”しない運営方針が子どもに隠された能力の“気付き”を生む

 キッザニアの特徴のひとつが、子どもを“子ども扱い”しないこと。そのため、大人の同伴者はパビリオンには立ち入れず、パビリオンの窓越しやTVモニターから子どもを見守ることになる。最初は心配顔をしている同伴者だが、“仕事”が終わるころには意外にしっかりこなせる子どもに驚きの表情を見せるなど、今まで見ていなかった子どもの隠された能力を知り、やがて訪れる親離れ・子離れの練習場所ともなっている。
 営業時間は1部が9~15時、2部が16~21時の完全入れ替え制となっており、これに平日と休日の区分が加わり、料金が変わるシステムとなっている。一般の税込み入場料金は、3~15歳の子どもが3,400~3,950円、大人が2,100~2,200円、3歳未満の幼児はすべて無料となっている。
 予約方法は、6カ月前から予約可能なWeb予約とケータイ予約、当日と翌日の予約が可能な電話予約の3種類がある。なお、子どもたちの安全への配慮と効率よく“仕事”の体験をして欲しいとの考えから、入場人数の制限を行っている。
 営業時間は1部が6時間、2部が5時間となっており、その間に平均すると1人当たり5~7件の仕事を体験できる。SVと呼ばれるスタッフから作業のあらましを聞いた後、それぞれの能力や年齢に従って分担して作業を行うが、SVは必要以上の手助けなどは行わない。一口に子どもとはいっても3歳と15歳では体の大きさや能力にかなりの違いがあることから、作業の出来にもかなりの差があるが、上手な子どもがうまくできない子どもをフォローし、結果的には予定時間内に終了することがほとんどである。これには、早く終えて次の仕事に回りたいという心理が働いているもよう。Webサイトなどで念入りに計画を立ててから入場する子どもが多いようだ。

仕事を体験して得た「キッゾ」が継続的な利用を促す

 子どもたちはひとつの仕事を終えると、全世界のキッザニアで使用できる「キッゾ」をもらうことができる。ほとんどの仕事で8キッゾ、飲食物を作る仕事だと5キッゾ+現物支給のかたちとなっている。もらったキッゾは、特定のパビリオンでの飲食やサービスの代金として使えるほか、デパートパビリオンでは商品の購入にも使用できる。
 しかし、現在のところ一番多いのが、銀行パビリオンで口座を作り預金して帰るパターンである。銀行パビリオンは三井住友銀行(株)がスポンサーとなった本格的なもので、キャッシュカードを作れば、次回以降、施設内のATMで自由に引き出しが可能となる。金利は半年複利の年利10%もあり、これなら預金したくなる気持ちも理解できる。実生活でもお年玉などを預貯金している子どもは多いと思われるが、キッゾの場合は自らが働いて得た収入だけに、思い入れはひとしおのようだ。ちなみに、キッゾの使い方には国民性がよく表れるようで、メキシコではもらったキッゾが無くなるまで仕事をしない子どもが多いのだとか。
 このように、日本においてはキッゾの存在が、子どもたちを優良顧客とし、継続的な利用を促す最大の要因となっていると言えそうだ。このほか、仕事自体の数の多さも、継続利用を促す大きな要因と言えよう。前述のように1回の来場で5~7件の仕事を経験したとしても、すべての仕事を制覇するには20回程度の来場が必要となる。また、アクティビティ内容の変更なども随時行われているので、全仕事制覇へのハードルはかなり高い。さらに、ひとつの仕事を終えると「お仕事カード」がもらえることも、子どもたちの人気を博している。少なくともお気に入りのパビリオンのカードはそろえたいと思っても、例えば、ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)がスポンサーとなっている病院パビリオンでは、医師(①開腹手術・②腹腔鏡手術)、③看護師、④救急救命士、⑤薬剤師の5つの仕事があり、原則として連続での同一パビリオンの利用はできないため、これも複数回の来場が必要となる。現在のところ、総入場者に占めるリピーター率は65%前後に達しているのも納得のいくところだ。
 キッザニア東京の取り組みで忘れてはならないのがVOCの活用である。オープン当初から来場者へのアンケート調査を実施した結果、多くの改善を果たすことができた。調査によると子どもの満足度はほぼ満点だったが、大人は10ポイントほど低かった。そこで、継続利用には不可欠な大人の満足度を上げるための改善を行ったのだ。例を挙げると、整理券の配布や当日券の発売、イスの設置、大人の一時退場・再入場システムの導入などである。同施設ではこれからも、物理的に不可能でない限り、お客さまの声には積極的に耳を傾けていく意向である。

ベーカリー_005
銀行_002

焼きあがったパンが嬉しいベーカリーパビリオン(上)と、キッゾを預金する銀行パビリオン(下)


月刊『アイ・エム・プレス』2009年8月号の記事