感動体験を生み出すコンサルタントの育成に力を注ぐ

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル,Inc. 

「End to End カスタマー・エクスペリエンス」というコンセプトのもと、すべてのコンタクトポイントでハイレベルなニーズに応え、感動体験の創造を目指すアメリカン・エキスプレス。その中核を担うコールセンターでは、感動体験を生み出し顧客を“エンゲージ”することができるコンサルタントの育成に取り組んでいる。

すべてのタッチポイントで感動体験の提供を目指す

 1850年に米国で創業し、クレジットカード・旅行関連サービス・保険など総合的な金融サービスを、世界を舞台に展開しているアメリカン・エキスプレス。同社では、顧客の視点に立ったサービスを提供し続けることで信頼を獲得し、「世界で最も尊敬されるブランド」のひとつとしてその地位を確立している。全世界における2008年末時点のクレジットカード発行枚数は9,240万枚、カード取扱高は6,830億ドルに及ぶ。売上高は年々増加しており、2008年には284億ドルに達した。日本での創業は1917年。以来、「日本でも最も尊敬され、求められるプレミアム・サービス・ブランドになる」というビジョンの下、最高品質の商品とサービスの提供に努めている。
 昨今の不況をものともしない好調な業績を支えているのが、同社の主要顧客である高い購買力をもつ富裕層だ。同社では2004年から、「End to End カスタマー・エクスペリエンス」というコンセプトの下、広告・Webサイト・コールセンター・加盟店など、すべてのコンタクトポイントで行う業務を顧客の視点で見直してきた。これにより、ハイレベルなニーズに応え、感動体験の創造を目指すことで富裕層の支持を得たのである。
 さまざまなタッチポイントがある中で、インタラクティブなコミュニケーションが可能なコールセンターは、単なるサービスを提供する場ではなく“感動体験を創造する場”としてその中核を担い、クレジットカードの域を超えるサービスを推進している。コールセンターには日々、多くの問い合わせが寄せられるが、その1件1件が感動体験を生み出す機会であり、問い合わせを通じて顧客に感動を与えられるかどとうかは、対応に当たるコンサルタントがカギを握る。そこで同社では、採用と研修、そしてこれらをマネジメントすることによって、感動体験を生み出し顧客とのつながりを深めることのできるコンサルタントの育成に力を注いでいる。

「最初の100日間」で応対に必要な知識とマインドを深めることがポイント

 コールセンターは東京とシドニーにあり、総計で約400名のコンサルタントが勤務する大規模センターとなっている。富裕層向けのプラチナカード会員サービスは主に東京で、グリーンカードとゴールドカードの会員向けサービスは主にシドニーで提供しているが、ここでの感動体験を作り出すカギを握るのが、オペレーションを担うコンサルタントである。
 同社では、コールセンターでの対応を通じて感動体験を提供し、顧客とのつながりを深めることを“顧客をエンゲージする(魅する)”と表現する。そのためには、コンサルタント自身がエンゲージされる経験を持たなければ顧客をエンゲージできないと考え、採用プロセスにおいて企業理念をしっかり伝えることを通じてコンサルタントをエンゲージしている。
 採用プロセスでは、電話インタビュー・ロールプレイング・面接・ペーパーテストなど実施しているが、採用に当たって最も重視しているポイントは“心が強い”こと。電話での顧客対応はひとりで行わなければならないため、プレッシャーに負けない強い心が求められるのだ。もうひとつのポイントは、“誰かのために何かをすることが好き”な人である。しかし、このような条件を持っていることを採用時に見極めることは難しく、最終的には電話インタビューや面接時に採用担当者が抱いた印象で判断している。
 採用後の導入研修は、5週間の集合研修と9週間のOJTで構成されており、「最初の100日間」と呼ばれている。具体的には、まず、集合研修で商品や業務の知識を学習した後、OJTでコールセンターシステムの操作方法を習得するとともに、顧客視点で顧客のニーズを知り、最善を尽くす顧客対応マインドを醸成することで、顧客へ最上質なサービスを提供するというアメリカン・エキスプレスの“DNA”を受け継いでいく。最初の電話で顧客の用件を解決することができる率(ファースト・コンタクト・レゾリューション)を高めるためには、この100日間で応対に必要な知識とマインドを深めることが重要なポイントとなる。
 最初の100日間が終了すると、グリーン・ゴールドカード会員のチームに配属される。その後に行われるアップスキル研修は、必要に応じて集合研修やイントラネットで実施している。併せて、コンサルタントの理解度を確認し、弱点を強化することを目的に、品質管理担当がモニタリングを実施。結果をチームリーダーからコンサルタントへフィードバックし、スキルを高めている。経験とスキルを重ねたコンサルタントは、プラチナカード会員専用窓口「プラチナ・コンシェルジェ・デスク」の担当へと昇格していく仕組みだ。
 また、同社ではコンサルタントの応対品質を評価するために実施している顧客満足度調査の結果を基に、コンサルタント同士で問題点をディスカッションして答えを導くグループ活動を推進している。
 これらとは別に、自主的に学習できる環境も整備している。「ベストコールライブラリ」は、顧客に感動体験を与えることができた素晴らしい応対を毎月選出・蓄積したもの。イントラネットを通じて、誰もがいつでもアクセスできるようになっている。コールデータの蓄積はかねてより行っていたが、コールモニタリングを組織化し、毎月、蓄積するコールを選出するようになったのは2007年から。新人コンサルタントのよい手本であると同時に、ベテランコンサルタントのモチベーションを高めることにも役立っている。

ルールを守りつつルールを超えることが感動体験を生む

 感動体験の創出を目指すとは言っても、それを実際に行うのはたやすいことではない。同社では、ICMI(International Customer Management Institute)に準拠するコールセンターのヘルスチェックの枠組み(図表1)に沿って応対品質をマネジメントしつつ、制約を超えることを鼓舞する文化を培うとともにコンサルタントに権限を与え、感動体験を創出しやすい環境を作っている。イレギュラーな対応が必要な場合にチームリーダーが不在であれば、自己判断により対応し、事後報告すればいい。コンサルタントに権限を持たせることで、スピーディーな対応が可能となり、顧客の期待を超える感動のサービスが提供できるのだ。また、コンサルタントのモチベーションが高まる効果への期待もある。

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 さらに、こうしたサービスを通じて、顧客のロイヤルティを高めることで、会員の継続やカード利用頻度の向上につながり、ひいてはコールセンターの地位も高まっていくのである。
 人材育成における同社の課題は、“エンゲージすることができる人”を育成するための仕組みを作ること。しかし、顧客をエンゲージするには、顧客ニーズの把握や心情を察する力が必要で、これについてはコンサルタントの直感や感覚といったエモーショナルな部分に頼ることが多いため、人材教育のサイエンス化を急務としている。
 同社は今後も、数多くの感動体験を創出するべくコンサルタントの育成に注力していく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』2009年6月号の記事